レストラン「ひらまつ」がパチンコ・マルハングループの影響下に

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大規模増資に踏み切った「ひらまつ」

2021年7月21日、「レストランひらまつ」や「リストランテASO」などを全国展開するひらまつ<2764>が、マルハングループの太平洋クラブ(千代田区)と太平洋クラブインベストメント(千代田区)を引受先とした第三者割当増資と新株予約権の発行により、74億4,100万円を調達すると発表しました。

これにより、マルハン太平洋クラブインベストメントがひらまつの株式46.86%を保有する筆頭株主となり、太平洋クラブが0.61%を保有します。マルハングループ合計で47.47%を保有することとなり、今後その影響を強く受けることになります。これを機にひらまつは経営コンサルティングのアドバンテッジアドバイザーズ(港区)との提携を解消。同社を通してファンドが保有していた23億円分の転換社債や新株予約権を消却・繰上償還します。

この記事では以下の情報が得られます。

・ひらまつの業績が悪化した理由
・アドバンテッジの支援を受けた直後に表面化した創業者との対立
・マルハンから調達した資金の主な使い道

なぜひらまつの業績は悪化したのか 超高級ホテル事業が転落のきっかけに

ひらまつは都内を中心に高級レストランを運営しています。同社はレストランとウエディングを中心に事業を展開してきましたが、2015年からホテル事業に進出します。その背景には、日本国内全体でインバウンド需要が盛り上がっていたことと、少子化による婚礼数の縮小を懸念していたことがありました。

2014年には規制緩和によって民泊が本格的に市場参入し、オリンピックを控えて首都圏、京都、沖縄などでホテルの建設計画が相次いでいました。ひらまつもその流れに乗る形でホテル事業を推進しましたが、決して順調には進みませんでした。

ホテル事業に本格参入する前の2015年3月期の営業利益は23.9%と極めて好調でしたが、年を経る(ホテルを開業する)ごとに利益率は低下しました。2019年3月期には6.8%まで減少します。

■ひらまつ営業利益率推移(単位:%)

ひらまつ営業利益率推移
ひらまつ決算短信より筆者作成

ひらまつは1泊10万円を超える超高級ホテルにこだわっており、客室数も絞ったことから思うような収益を得られませんでした。投資額ばかりが膨らんでいたのです。

2020年に新型コロナウイルスの脅威が深刻化すると、2020年3月期に4,900万円の営業損失(前年同期は7億4,000万円の黒字)、2021年3月期に24億5,800万円の営業損失を計上するのです。2021年3月期に自己資本比率は16.0%(前年同期は33.1%)まで低下してバランスシートが毀損した上、保有する現金及び預金は46億3,100万円から6億4,000万円まで急減していました。

■ひらまつ業績推移(単位:百万円)

ひらまつ業績推移
ひらまつ決算短信より筆者作成

創業者との対立が鮮明に

ひらまつはホテル事業の不振により、コロナ前の2019年8月にアドバンテッジアドバイザーズと業務提携契約を締結していました。このとき、親会社の投資ファンド・アドバンテッジパートナーズから出資を受ける契約でした。アドバンテッジパートナーズは2000年にひらまつに出資をして上場へと導いた過去があり、盟友とも言える関係でした。2019年8月の出資と同時にアドバンテッジアドバイザーズの取締役・古川徳厚氏を社外役員として送り込みます。

雲行きが怪しくなったのは、2020年10月のひらまつ創業者・平松博利氏が起こした訴訟。ひらまつの経営の一線から退いていた平松氏は、自身が代表を務める経営コンサルティング会社ひらまつ総研が受け取るべき業務委託報酬など12億円以上の支払いをひらまつに求めました。

それを受け、ひらまつは外部調査委員会を設けてひらまつと平松博利氏、ひらまつ総研との関係を検証します。それによると、赤字だった京都のレストラン2店舗の譲渡代金やスキームにおいて、経営陣と平松氏の利害関係を巡る対立が鮮明になっていたなどとされていました。※ひらまつと平松氏の対立の詳細はこちら

この騒動は2021年3月に終結し、和解が成立します。ひらまつは和解金として1億7,000万円をひらまつ総研に支払い、売却した京都のレストランをひらまつに返還するという内容でした。

その和解からわずか4カ月で、アドバンテッジアドバイザーズとの提携は解消されました。アドバンテッジによる事業の立て直しは道半ばとなり、創業者との騒動に巻き込まれる不本意な結果となりました。

ひらまつはマルハングループから調達した資金のうち、23億円をアドバンテッジの早期償還に充当しています。ひらまつの経営陣、既存株主、マルハングループのいずれかがアドバンテッジとの提携の早期解消を望んでいたものと考えられます。今回のマルハングループとの資本提携は、経営方針が大きく変わる意味合いが強いです。

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資金調達で「ホテル」から「カフェ」へ方向転換

ひらまつはマルハングループから調達する資金のうち、17億円をフラッグシップモデル及びエントリーモデルの新規出店費用に充てるとしています。フラッグシップモデルは従来型の高級レストランで、晴れの日需要をメインに獲得するものです。

エントリーモデルは、幅広い年齢層をターゲットとし、ひらまつを知るきっかけとなるカフェスタイルのモデル店舗。1店舗当たりの開業費用は1億円で、10店舗を展開する計画です。

ひらまつは国立新美術館のカフェ「コキーユ」や「カレ」を運営していましたが、1億円前後の出店費用をかけたカフェとなると独立型の店舗だと予想でき、そのような店舗展開は初の試みとなります。

ひらまつはホテル事業の見直し、創業者の訴訟と和解、大規模増資、経営パートナーの変更を経て、新局面を迎えました。次のかじ取りに注目が集まっています。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由