GWで万事休す!? のバス事業|人とものを「運ぶM&A」

alt
このGWは全コース運休となった「はとバス」(Sean Pavone Photo/iStock)

例年5月といえばGW。新型コロナ禍さえなければ、全国各地の観光地は賑わい、この時期に合わせてさまざまなイベントが開催されたはずだ。いまとなっては懐かしいが、2019年のGWは、弘前さくらまつりに250万人、博多どんたく港まつりに230万人、浜松まつりに180万人、ひろしまフラワーフェスティバルに160万人、角館の桜まつり120万人、有田陶器市120万人といったように、100万人超の来場者がある祭り・イベントが日本全国で開催された。

JTBの調べでは、推計1兆610億円、うち国内推計8,836億円もの旅行消費額が見込まれた日本のGW。それが、2020年から2年連続のコロナ禍によって様相が一変した。

実はバスがほとんど動いていない状況に!

日本のバス事業は、どのような状態にあるのか。まず、交通機関の大雑把な指標として、人キロベース(人数×距離)の分担率がある。その指標では、鉄道75.8%、バス・タクシー16.5%といった割合になっていて、この数字自体には大きな変動はない(下図、2018年度、国交省)。

また、旅客交通の中で、たとえば訪日外国人が利用する交通機関のシェアとしては、鉄道51%、バス36%といった割合である(下図、2017年、国交省)。

バスは特にインバウンド観光、そして日常に欠かせない重要な公共交通機関である。鉄道よりも柔軟性の高いバス輸送。確かに便利ではあるが、資本力では小さい事業者も実は多く、新型コロナ禍によって、これまでにない苦境に立たされている。

2017年度以降4兆円を超えていたインバウンド需要を失い、観光業界全体が大きな打撃を受けているのだから、バス事業も厳しい。

2020年、「貸切りバス業については、運送収入が前年より70%以上減少する事業者は、2月時点では2%程度であったが、3月は約8割、緊急事態宣言の発出後は約9割まで急増」し「ほとんどバスが動いていない状況」にまで落ち込んだ(下図、令和元年度『観光の状況』、国交省)。

日本のバス事業は程度の差はあるものの、政府による資金繰り支援、雇用調整助成金、「GoToトラベル事業」などによる支援が命綱となっていた。

生き残りを賭けた事業承継

バス事業は、鉄道を代替補完するほか、観光地と大都市を結ぶ幹線として地域経済との関係が密接であり、各地域にとって雇用も含めた影響力も大きい。いかに存続させるかは大きな課題だ。

そこで、改正地域公共交通活性化再生法(2020年)改正時の国交省は、「バス会社の事業承継、自治体が後継事業者を募集へ」の記事(こちら)に見るように、「多くの地域で人口減少の本格化に伴い、バスをはじめとする公共交通サービスの需要の縮小や経営の悪化、運転者不足の深刻化などにより地域の公共交通の維持・確保が厳しくなっている」とし、その対応に追われていた。

乗合バスについては上記のように自治体や政府の取り組みも期待されている。だが、貸切りバスは観光業として別の事業と位置づけられている。それだけに、「2020年度の貸切りバス事業者の倒産件数は前年のほぼ倍」との東京商工リサーチの調査もある。

これまでの5年ほどは毎年10件未満だった貸切りバス事業者の倒産件数が15件となり、過去20年で最高に達した。うち12件は販売不振が原因である。インバウンドに加えて修学旅行、慰安旅行の激減も経営を直撃した。同じ陸運でも、貨物輸送は新型コロナ禍で需要が増大しているのとは対象的だ。

国交省によると、観光バスの車内換気能力は、窓を閉めていてもエアコンを外気モードにすれば約5分で空気が入れ替わる。路線バスなら換気扇を稼動、デフロスター稼働、一部窓開けをすれば約3分で空気は入れ替わるという。加えて、乗客数を減らす、乗務員教育、座席や手摺りなどの消毒など感染対策をした上でのツアーなど、事業者もさまざまな工夫をし、稼働率を上げるための努力をしている。

さらに、業界全体としても、2020年9月には高速バス57社が高速バス安心推進コンソーシアムを創設し、より安心できるバス旅を提供すべく取り組んできた。

文:舛本哲郎(ライター・行政書士)