M&Aにも活用される「第三者割当増資」

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写真はイメージです

第三者割当増資とは、ある会社が特定の第三者(会社)に対して株式を発行し、その対価の払込をしてもらう直接金融の一種です。 これにより当該第三者(会社)が一定の議決権を持って共同経営の形をとることから、M&Aスキームとしても活用されています。

ただ、既存の株主にとっては、第三者割当増資により、自己が持つ議決権比率や一株当たりの利益が低下したり、株主構成が変わるため注意が必要です。

また、取締役会設置会社などでは、取締役会の決議によって機動的に発行できるため、第三者に特に有利な条件で発行する「有利発行」については、株主総会特別決議を必要とするなど法令上の制限があります。

第三者割当増資と法令上の制限

第三者割当増資を規律する法令としては、会社法、金融商品取引法、法人税法があります。個別に見ていきましょう。

会社法での制限

︎①取締役会の決議を必要とする
有利発行の場合、株主総会特別決議を必要とする
③既存株主への公告または通知を必要とする(有価証券報告書提出、特別決議を要する場合などは除く)
④申込希望者へ通知する(目論見書交付をした場合は除く)
⑤増加資本金、発行済株式数についての変更登記を必要とする

金融商品取引法上の制限

有価証券届出書の提出を必要とする(募集売出し総額が1億円を超える場合などは除く)
②臨時報告書の提出を必要とする(有価証券届出書を提出した場合などは除く)

法人税法上の制限

株式の発行価格と振込金額・給付価額との差額が有利発行に当たるかの判定基準としての有利発行規定などがある

第三者割当増資とその他の制限

上記の法令以外にも、証券取引所による規制や規範などがあります。主に以下の三つです。

①事前の相談による第三者割当増資の必要性、相当性の確認を必要とする
株主総会での既存株主の意思の確認を必要とする
③著しく健全性が損なわれた場合の上場廃止基準の設定をしておく

M&Aスキームとしての第三者割当増資

一般的なM&Aのスキームには、会社や事業を移転させる「合併」「会社分割」「株式交換」「株式移転」「株式譲渡」「事業譲渡」などと、移転せず「業務提携」や「資本業務提携」などの形をとるものがあります。 第三者割当増資は、後者にあたります。第三者割当増資がM&Aになぜ利用されるのかを、売手(発行)側と買手(引き受け)側、双方のメリット・デメリットから見ていきます。

売手側のメリット・デメリット

明確な資本政策により行われる限り様々なメリットが期待できます。①手続きが簡単で早い、②第三者割当増資により資金の調達が行われ、財務内容の改善ができる、③買手側との協力、提携関係が築けることで、業務内容の改善・効率化ができる、④あくまで出資であるため返済の必要がない、⑤株式譲渡などと違い課税の対策とならない。

あえてデメリットをあげるなら、新たな株主参入により、株主構成や株主比率が変わることで、経営上の意思決定に支障が出る恐れがあること。 しかし、これも明確な資本政策に基づいて相手側との入念な協議の上で双方納得したのであれば、デメリットというほどのものではないでしょう。

買手側のメリット・デメリット

メリットは、①M&Aとしての手続きが簡単で「時間の買収」という効果が大きい、②売手側に欠損金がある場合、自社の利益に対する節税効果が期待できる。

デメリットとしては、①資金の調達が大変であること、②簿外債務偶発債務などの負担の恐れがあることなどです。

第三者割当増資では、売手側により多くのメリットがあるため、︎買手側による売手側救済といった面があります。 また、第三者割当増資では︎、株式譲渡と違い買手側は売手側株式を100%取得することはできません。増資しても既存株主の持分が消滅することはないからです。

一方、経営上の重要案件については、一定以上の持株比率がないと意思決定に関与できませんから、買手側では、目的や投資に対する見返りなどを考慮しながら、段階的に比率を上げていくことも必要です。

このように第三者割当増資は、売手側が会社や事業を手放す意思がなく、また買手側も買収というより売手側の救済を考えているような場合には、有効なM&Aの再編スキームと言えます。

文:特定行政書士 萩原 洋