GoToトラベルはホテル・旅館にどれだけ貢献したのか

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新型コロナウイルス第3波が訪れ、再度緊急事態宣言に見舞われる事態となりました。政権批判のやり玉に挙げられたGoToトラベルキャンペーンも2月7日まで中止を決定。緊急事態宣言の延長も見込まれており、キャンペーンの先行きは不透明です。

感染拡大を食い止めるためにも、GoToトラベルの中止は当然の措置といえますが、キャンペーンが与えた経済効果も大きいものでした。観光庁によると、キャンペーン期間中(7月22日~12月15日)の利用人泊数は少なくとも8,282万人、支援額は4,842億円に達すると発表しました。

そのうち、宿泊・旅行代金割引は3,831億円となっており、旅行代金の35%を支援するGoToトラベルは、ホテル・旅館を中心とした旅行業界に1兆円程度の経済効果を及ぼしたことになります。

この記事は星野リゾート・リート<3287>、大江戸温泉リート<3472>、ジャパン・ホテルリート<8985>の稼働率をもとに、実際にどれほどの恩恵があったのか調べたものです。

以下の情報が得られます。

・GoToトラベルの効果
・各宿泊施設の稼働率

宿泊施設の稼働率は12.9%から46.1%に

大江戸温泉物語
大江戸温泉物語の客室稼働率はキャンペーンで70%台まで回復した(画像は決算説明資料より)

観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、11月の宿泊施設全体の客室稼働率は46.1%。1度目の緊急事態宣言で12.9%となった過去最低の水準から50%程度まで回復しました。

初期のコロナ禍において、とりわけ厳しかったのがリゾートホテルです。5月はリゾートホテル全体の宿泊稼働率が3.3%まで落ち込みました。この状況を何とかしようとしたのがGoToトラベルです。キャンペーン実施後の7月には20%台まで戻しました。11月は47.1%まで上昇しています。

宿泊旅行統計調査
観光庁「宿泊旅行統計調査」より

このキャンペーンは、ミドルクラスの施設に効果的でした。支援の上限額が20,000円に設定されていたためです。星野リゾートは「界」「星のや」などのホテル・旅館、大江戸温泉は「大江戸温泉物語」ブランドの観光ホテルを展開しています。両社ともにミドルクラスの宿泊施設が中心です。

ブランド力の強い星野リゾートは、キャンペーンの恩恵を受けた施設の筆頭といえます。50%台だった稼働率がキャンペーン開始後に80%を超えました。界ブランドはキャンペーン中90%台を維持しています。

■星野リゾート主力施設客室稼働率

5月 6月 7月 8月 9月 10月
星のや軽井沢 27.9% 46.7% 81.4% 96.1% 97.8% 96.0%
星のや京都 20.4% 55.2% 75.7% 90.8% 94.8% 97.8%
界9物件 24.3% 54.3% 90.9% 99.3% 99.1% 99.3%
平均 24.2% 52.1% 82.7% 95.4% 97.2% 97.7%

■大江戸温泉客室稼働率

5月 6月 7月 8月 9月 10月
14物件合計 1.1% 6.0% 42.3% 49.4% 54.4% 73.9%

月次開示決算報告資料をもとに筆者作成

大江戸温泉も10%を下回っていた水準から40%以上へと急回復しています。物件別にみると「大江戸温泉物語 君津の森」が8月に80.6%まで戻しています。このホテルは首都圏からアクセスしやすく、人里離れた山中にあります。コロナで公共交通機関の利用が憚られるため、東京近郊で密を避ける開放感にあふれた宿泊施設の稼働率が上がったものと考えられます。

需要回復を待つ以外に選択肢のないシティホテル

実は、星野リゾートはコロナ前にシティホテルに活路を見出していました。2015年に金沢などにある「ANAクラウンプラザ」ブランド4ホテルを400億円弱で買収。翌年には「ハイアットリージェンシー大阪」を160億円で取得していました。

シティホテルを買収した背景には、星野リゾート・リートの上場が潜んでいます。旅館は繁忙期と閑散期の差が激しく物件単体の収益性も低くなりがちなため、投資家からは魅力のない銘柄とみられてしまいます。シティホテルを保有することで収益を安定させ、資産規模を大きくしようとしました。しかしコロナでそれが裏目に出てしまいました。

星野リゾートのシティホテルは金沢、福岡などの観光地にありますが、GoToトラベルの恩恵はまったくありません。ビジネス需要が活発になってきた10月に入ってようやく50%を超えてきました。

5月 6月 7月 8月 9月 10月
ANAクラウンプラザホテル金沢 1.6% 13.2% 25.7% 22.2% 36.2% 58.5%
ANAクラウンプラザホテル福岡 10.4% 19.7% 34.2% 31.7% 46.2% 72.2%
ハイアットリージェンシー大阪 12.6% 15.2% 25.2% 32.8% 36.7% 32.2%

決算報告資料より筆者作成

このシティホテルの苦境を真正面から受けているのが、都市型のホテルを中心に42物件を保有するジャパン・ホテルリートです。10月の段階で50%を下回っています。

5月 6月 7月 8月 9月 10月
42物件合計 7.4% 14.8% 26.1% 32.3% 38.7% 46.1%

運用実績より筆者作成

GoToトラベルキャンペーンは、ミドルクラスのリゾート型宿泊施設の稼働率を実施前の6月と比較して倍以上押し上げる効果がありました。客室単価が1人20,000円程度の旅館は特にその恩恵を受けました。

一方、シティホテルへの効果は限定的です。

感染拡大防止によるキャンペーン中止により、リゾート型宿泊施設は再度稼働率の低下に頭を悩ませることになります。オリンピックの中止もささやかれるようになり、旅行業界の先行きの見えない状況はまだまだ続きそうです。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由