2017年11月2日、富士通<6702>、中国レノボ社と日本政策投資銀行(DBJ)は、PC事業の合弁会社を設立すると発表した。富士通は、その100%子会社でPC・タブレット製品の研究開発・製造・販売等を営む富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の株式の51%をレノボに約255億円、5%をDBJに25億円で譲渡し、合弁会社化する。
新会社は、FCCLの社名を継続使用、雇用・開発・製造体制・現状の製品ポートフォリオは維持、FMVのブランド名も維持するという。法人向け製品は従来通り富士通が提供し、国内の個人向け製品・サポートサービスはFCCLが提供するという。
富士通は、この提携により、富士通の開発・製造能力や販売力等と、パソコン世界首位のレノボの規模を生かし、部品の調達や製造のコストを削減して、グローバルPC事業の成長と規模や競争力の拡大を目指す。
富士通は、言うまでもなく、日本の総合エレクトロニクスメーカーであり、総合ITベンダーでもある。しかし、そのパソコン事業の市場は縮小、出荷台数はピークの881万台(07年度)から380万台(16年度)に減少し、採算が悪化していた。同社はレノボと2016年10月にパソコン事業での戦略的提携を発表。英BBCは当時、この背景を「スマートフォンやタブレットの高まる人気が個人用PCの需要をsqueeze(圧迫、圧搾)しており、中小企業の生き残りは難しい」と分析した。
その後、両社は事業の統合交渉に入ったが、最終合意が遅れ今日に至っていた。今回の統合により、レノボにパソコン事業の主導権を渡すことで、富士通はITサービス事業などに経営資源を集中し、収益力を立て直す意図だ。
レノボは中国の大手パソコンメーカーで、2005年に米IBMのPC事業を買収、2011年にNECとPC事業の合弁会社を設立したほか、独PCメーカー・メディオンを買収し、事業規模を拡大した。2016年の世界販売シェアは21%。日本では約3割のシェアを握り、富士通と合わせると4割近くになる。同社はNECとも共同出資会社を設立しており、傘下のNECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンの2社が、NEC「ラヴィ」やレノボ「シンクパッド」などのブランドで展開している。
中国の英字新聞チャイナデイリー紙(中新日報)の11月3日付記事「レノボ 富士通のPC部門取得」、米ニューヨークタイムズ紙の11月2日付記事「レノボ 富士通のPC部門の支配権を買収」を比較すると、共通点と見解の相違が浮かび上がる。
両紙とも、今年初めにHPにPCメーカー首位の座を追われたレノボの焦りを指摘している。そのうえで、チャイナデイリー紙は「富士通との合弁が、レノボの事業収益に“規模の利益”をもたらす」と期待を寄せる。これは「レノボの市場占有率21.6%と富士通の約4%の合計が、HPのシェア約22.8%を上回ることによる」ものである。
ニューヨークタイムズ紙は、「レノボは首位を明け渡してから、その中核事業を強化する方策をとってきた」としたうえで、「この部門の脆弱性が第2半期の利益減少につながった」と分析している。「レノボは、世界のPCの出荷数が前4半期より17%回復したというが、この6か月の市場占有率は0.2%減少し21%に低下している」と、チャイナデイリー紙の楽観論に比べ冷静なコメントを寄せている。
両紙とも、世界的にPCの需要が落ち込み、メーカーにとって現在が冬の時代であることを指摘している。そのうち、チャイナデイリー紙は「レノボは内外のライバルと善戦している」とし、「PC市場は回復の兆しを見せている」と述べたうえで、「富士通との合弁事業立ち上げは、レノボが冷たい冬を生き延びるのに効果的な方法で、需要が回復し始めれば、それはレノボにとって“よみがえりのための資源”となるだろう」とコメントしている。
一方、ニューヨークタイムズ紙は、「世界のPCの出荷台数は9月の四半期終了時までの1年で3.6%低下し、同様の傾向は何期も続いてきた」と分析。「レノボは、パーツのコストの安定化には成功するかもしれないが、短い期間についてみれば厳しい状況がなおも続く」と結んでいる。
富士通のPC事業はレノボが主導権を握る形で開発や販売を進めることになる。すでにレノボと統合したNECに続き、国内のパソコン市場での外資主導が鮮明になった。1990年代、パソコンは国内電機メーカーの花形商品だったが、日立製作所とシャープは既に撤退し、NECと富士通はレノボの傘下に入った。東芝とVAIOは単独で生き残りを目指している。
PC市場の世界的な動向から目が離せない。
<参照URL>
http://www.ecns.cn/business/20...
https://www.nytimes.com/reuter...
http://www.bbc.com/news/375708...
文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部