負債、設備投資、新プラン…ますます難しくなる楽天の携帯事業

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楽天<4755>の携帯電話(モバイル)事業が、ますます困難な状況になってきた。同社が2021年2月12日に発表した2020年12月期の連結決算は、2期連続の最終赤字で、その額は1141億円に。最終赤字額はその前期(2019年12月)の318億円から約3.6倍に拡大した。原因はモバイル事業だ。

重くのしかかるモバイル設備投資

基地局整備による経費増に加えて、新規契約獲得を狙って1年間無料にした結果、1512億円の営業赤字を計上し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う「巣ごもり需要」で好調だったネット通販「楽天市場」のEC事業や「楽天銀行」などネット金融事業が稼いだ営業利益を食いつぶした格好だ。

それにもかかわらず、楽天の三木谷浩史会長兼社長は「(モバイル事業で)4位にとどまるつもりはない。圧倒的な地位を築く」と意気軒昂。モバイル事業のさらなる強化を目指す意向を示している。

5Gにも対応し、モバイル事業の成長に賭ける三木谷会長兼社長(同社ホームページより)

だが、同社のモバイルを取り巻く状況は厳しさを増している。最大の懸念は財務だ。2020年12月期の社債および借入金は約2兆5872億円と、その前期の約1兆7270億円から約8600億円も増えた。

その結果、収益力からみた借入金の返済能力を表すEBITDA有利子負債倍率*は17.7倍と、その前期の5.9倍を大きく上回っている。健全性の目安とされる10倍を超えており、有利子負債が経営を圧迫しかねない「危険水域」に達したと言わざるを得ない。(*現・預金は金融事業における顧客からの預金を除いた金額で計算)

楽天のモバイル事業は新規参入したばかりで、今後の収益が期待できるのであれば「先行投資」であり懸念は当たらない。三木谷会長兼社長も「2023年度の黒字化を目指す」と明言している。

それでも不安はぬぐえない。一つは設備投資の増加だ。楽天は2025年までの基地局整備をはじめとする設備投資額を、当初計画していた6000億円から3〜4割増やす。最大で8400億円となり、さらに財務負担は重くなる。

三木谷会長兼社長は「当初想定していた加入者数ならば6000億円で済んだ。(設備投資の増額は)加入者増に伴う嬉しい悲鳴だ」と話す。事実、新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」を発表した1月29日時点では220万件だった契約申込件数が、2月8日には250万件と10日間で30万件も増えている。

新プランで収入減とさらなる設備投資

この新プランは月間通信容量が1GBまでは無料、3GBまでが980円、20GBまでが1980円、20GBを超えると従来プランと同じ2980円となる。事実上の値下げだ。加入者が増えても、それだけの料金収入が見込めない可能性が高い。特に足を引っ張りそうなのが、1GBまでのライトユーザーと20GB超のヘビーユーザーだ。

ライトユーザーは全く売り上げに貢献しない。同様のプランでは、ソニーネットワークコミュニケーションズが月間通信容量500MB(0.5GB)未満なら無料の「0 SIM」を提供していたが、2020年8月末でサービスを打ち切った。

これはスマートフォン(スマホ)を複数台持つユーザーが、あまり利用しないスマホの副(サブ)回線用に利用したケースが多かったために料金が発生しなかったと見られる。

通信容量が1GBあれば、LINEやメールなど文字通信だけに携帯回線を利用するユーザーの主(メイン)回線用としても十分に対応できる。ライトユーザーにとっては非常に魅力的なプランだが、楽天の収益には全く貢献しない。

さらに20GB超は通信容量の上限がないため、大量のデータを利用するヘビーユーザーが増えれば通信回線を増やす必要があり、設備投資の増額が必要になる。楽天の収益には貢献するが、コスト増を招く「痛しかゆし」のユーザーだ。

新料金プランは楽天の収益に貢献しない可能性も(同社ホームページより)

さらにNTTドコモやau(KDDI)<9433>、ソフトバンク<9434>が、菅政権の強い意向があって大胆な値下げプランを打ち出している。料金値下げ競争は激しくなる一方で、「我慢して先行投資を続ければ、大きな利益を得られる」状況ではなくなりつつある。

楽天もモバイル事業と共倒れする気はないだろう。いずれ「見切り」をつけて撤退する可能性が高い。理想としては事業売却だが、国内大手3社とは通信システムも異なり、市場も飽和している。引き受け手があるとしたら、外国企業になりそうだ。

文:M&A Online編集部