販売権を鞍替え!カルピス、伊藤園による『エビアン』の販売権取得

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 『エビアン』は、フランス・ダノン社のミネラルウォーターのブランド。エビアン近郊、カシャ水源で採取され、水質は硬水で、硬度は304mg/l。ボトル入りの硬水ミネラルウォーターとしては、世界130か国を超える国々で愛飲されている最も有名なブランドの一つである。

歴史が育てた世界ブランド

 ここで、『エビアン』の誕生を簡単に振り返っておこう。その歴史は、いまから約240年前、まさしくフランス革命期の1780年代にまでさかのぼる。

 1789年、腎臓結石を患っていたフランスのドゥ・レセール公爵がカシャの泉を発見した。ドゥ・レセール公爵は、そのカシャの泉、エビアンの水を飲み続けた結果、病は癒され、その評判がヨーロッパ中に広まった。そして1824年、温熱療法が開始され、健康と若々しい身体と心を促進する療法用として、カシャの源泉は飲料水と風呂用水に使用された。

 その約50年後の1878年には、「健康上有益な水」としてフランス国立医学アカデミーで認定されることとなった(http://www.evian.co.jp/より)。

  ミネラルウォーターの差別化は『クリスタルガイザー』の記事でも触れたように、多様な容器に表れている。『エビアン』はレギュラーの手軽につぶせるペットボトルのほかにも、様々な形状のボトルで販売されてきた。

 一方、1820年代からダノン社が販売以来用いてきたガラス製のボトルは現在でも使われ、いまも毎年のようにビジュアル的な志向を狙ったイヤー・ボトルが発売されている。たとえば、直近の2017年3月には、エビアン史上最小・超軽量の『エビアン 』220mlペットボトルを全世界で日本だけに限定発売している。

カルピスが『エビアン』を日本市場の大型ブランドに

 フランス国立アカデミーで健康上有益な水と認定された約110年後、いまから約30年前の1987年、カルピスが『エビアン』の独占販売権を取得した。世界中で愛飲されているミネラルウォーターの日本上陸である。

 2000年4月には、伊藤忠商事<8519>と味の素<2802>との合弁会社・カルピス伊藤忠ミネラルウォーターを設立し、輸入販売を拡大する。合弁会社設立当初の出資比率はカルピス60%、伊藤忠商事35%、味の素5%だった。

 日本のミネラルウォーター黎明期とされる1980年代後半、カルピスが『エビアン』を日本市場に浸透させ、ミネラルウォーターの大型ブランドに育て上げた功績は大きい。伊藤園に独占販売権を譲る前年の2007年には、『エビアン』の販売数量を合弁会社設立当時の2倍以上に伸長させるなど、カルピスは『エビアン』事業の強化・拡充を図ってきた。

我が道を行く『カルピス』に対し、『エビアン』は……

 カルピスは20年ほど独占販売を続けてきたが、2008年、以前からカルピスとの契約で『エビアン』の500ml・1Lペットボトルを販売していた伊藤園が、フランスのダノングループから『エビアン』の日本国内での独占販売権を取得する。同時にダノングループは、これまで独占販売権を保有していたカルピスとの契約を解除した。

 この販売権の“鞍替え”にはどんな理由があったのか。2008年3月当時のカルピスのニュースリリース「ナチュラルミネラルウォーター『エビアン』販売終了について」を見ておきたい。

鞍替えした理由とは

 カルピスは『エビアン』の販売終了の経緯を「策定している2008-2010年中期経営計画において、経営資源を国内外の『カルピス』などの既存ブランドや健康を基軸とした付加価値型商品の強化・育成に注力していくことを決定した。そのなかで、ダノングループとの『エビアン』ブランドに関する将来ビジョンが異なった」としている。

 ブランドをどのように育てていくか。しかも、自社が生み出したとはいえないないブランドをどう育てていくか。生みの親か、育ての親かーー。『エビアン』の販売終了の経緯は、そのことのむずかしさを滲ませているように思える。

 また、『エビアン』の販売終了後の展開についてカルピスは、「今後は『カルピス』ブランドを中心とした国内飲料事業、独自の乳酸菌と発酵技術を活かした国内と海外における健康・機能性食品事業、ならびにアジアを中心とした海外飲料事業の3つの事業分野に集中し、企業価値向上を目指していく」とした。

 2008年、『エビアン』の国内独占販売権を取得した伊藤園は、カルピスのブランド戦略と同様に、伊藤忠商事と共同で合弁会社、伊藤園・伊藤忠ミネラルウォーターズを設立し、『エビアン』事業を推進する。合弁会社の出資比率は伊藤園が65%、伊藤忠商事が35%だった。

 伊藤園は「緑茶飲料や野菜飲料に次ぐ重要分野として、ミネラルウォーター事業を強化する」と意気込みを新たにした。その結果を示すように、2008年5月以降の『エビアン』の月次販売は、カルピスが独占販売していた同年3月以前に比べ前年同月比で倍増させている(数量ベース。伊藤園2009年4月期、第1四半期決算補足資料より)。

 その後、『エビアン』は順調に推移してきた。その大きな要因は、2500万人に迫る勢いの日本への外国人旅行者の増加、いわゆるインバウンド需要だろう。伊藤園としては750mlペットボトルをはじめ、500mlや330mlなどで個人需要もより取り込み、2016年時点での目標は460万ケース(前年比3%増)をめざしている。

 世界130か国で親しまれ、240年という長い歴史を持つ『エビアン』。その世界ブランドにとって、“世界(の人々)が日本にやってくる国内のインバウンド需要は、今度も相当な追い風になるはずだ。

文:M&A Online編集部