【M&Aの現場】ドラッグストアを支えてきた夫婦の決断

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画像はイメージです。

会社は好調。しかし後継者不在、夫の健康など、
これ以上問題を先送りにはできない
 日本海を望む地方都市で武田雅夫・佐恵子夫妻(仮名)が営むドラッグストアチェーン「タケダ薬局」(仮称)は、10店舗、売上高50億円。どの店舗も業績好調であったが、後継ぎはいない。

 経理・総務関係の仕事を一手に引き受け、社長の雅夫を支えてきた妻・佐恵子は、日々の業務に追われて後継者問題に対処する余裕がなく、大切に育ててきた会社を手放す決心がつかない夫を見て、このままでは問題が先送りになるばかりだと思い、情報収集を始めた。休みなく働き続ける夫の健康も気にかかり、佐恵子の気持ちを焦らせた。

 しばらくして佐恵子は、知人の会計士からM&Aによって第三者に売却し、将来を託す選択肢があることを知った。混乱なく会社を託せるのか、いくらで売却できるのか、など不安に思うことを専門家に相談をしようと考えたが、地元で相談して「会社を売るつもりらしい」などという噂が広まっては困る。そんなことを考えながらインターネットでM&A専門会社を調べていたところ東京の会社が目にとまった。タイミング良く上京する予定があり話だけであればという軽い気持ちで東京のM&A専門会社に行ってみることにした。

M&A決断こそ最大の難関
タイミングを見逃さず実行
 M&Aやドラッグストア業界の動向やについて説明を受けた佐恵子は、「M&A成功のカギはタイミングであり、売り時を見極めるのは非常に難しいが、ドラッグストア業界は大手企業のニーズが高い今が、売り時である」とアドバイスをもらい、雅夫に伝えた。夫にリタイアを勧めるのは気まずかったが、株式譲渡後も顧問などのかたちで経営に関与できると聞き、その言葉に背中を押された。

 雅夫は戸惑いもあったが、「お店やスタッフを大切にしてくれる買い手が見つかれば、会社の将来は安泰。みんなも安心して働ける」という佐恵子の意見に納得した。決断してからの展開は早く、約4カ月のスピード成約で全国大手チェーン会社に株式を譲渡することになった。譲渡価額は10億円ほど。タケダ薬局の社名、店名、社員の待遇などはほぼそのまま引き継がれるという好条件だった。

 雅夫は相談役として会社に残ったが、肩の荷を下ろしたいという気持ちが次第に強くなり、約1年後、顧問に退いた。その後は、夫婦2人で旅行を楽しむなど、充実した時間を過ごしている。もし決断できずにいたら、今も会社の行く末を悩み続けていたことだろう。会社を存続・発展させる道筋をつけることこそ、経営者として果たすべき最後の責任だったのだと雅夫はかみしめている。

まとめ:M&A Online編集部