DDホールディングスが6億円超で買収するSLDは小悪魔な存在か?

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DDホールディングス(旧ダイヤモンドダイニング)<3073>が、「kawara CAFE&DINING」などを運営するエスエルディー<3223>に対して公開買い付けを行います。買い付け予定金額は6億8000万円。エスエルディーはチェーン化しない戦略で、かつてのDDホールディングス「100店舗100業態」を彷彿とさせる路線。経営のズレはなさそうですし、DDホールディングスが手薄な仙台、福岡エリアにカフェダイニングを積極展開しているので、ポートフォリオも強固なものに。店づくりもお洒落で若者に人気です。しかし、そんな可愛い顔の裏には、棘が潜んでいるのではないですか、という話です。

この記事では、以下の情報が得られます。

①DDホールディングスの経営戦略
②エスエルディーの店舗展開
③エスエルディーの業績
④「脱」画一飲食ブランドの難しさ

商業藝術 HPより

今期エスエルディーと商業藝術買収でカフェ業態をマシマシ

DDホールディングスは、首都圏を中心に全国で飲食店を展開しています。2017年2月末の段階で、飲食店の店舗数は221。主力は「わらやき屋」や「九州 熱中屋」、「アリスのファンタジーレストラン」など。

代表・松村厚久氏の強烈なカリスマ性により、飲食店の常識だった画一ブランド化を打破。100店舗100業態という、常識破りな目標を10年余りで達成しました。その名残を今も引き継いでいて、売上規模が似た外食企業、チムニーやダイナックなどと比べてもブランド数は多いです。

2010年ごろまでは、飲食企業の中で知られるくらいの会社でした。しかし、2011年にダーツ・ビリヤードの「バグース」を買収してから、広く知られるようになりました。2015年に一部上場してからは、ゼットン、商業藝術、そして今回のエスエルディー買収で、株式市場を賑わす存在となっています。

DDホールディングスは2015年に3ヵ年中期連結経営計画を発表していますが、今はまさに種まきに奔走する時期。オリンピックの刈り取り期に向けて、投資を拡大する様が見えます。

DDホールディングス「3ヵ年中期連結経営計画(2016年2月期~2018年2月期)」より

ちなみに、業績はこんな感じです。順調に伸びていますね。

▼DDホールディングス2016年・2017年2月期業績と2018年2月期予想   ※( )は前期比

売上高 経常利益
2016年2月期 298億2000万円(14.3%増) 8億8900万円(6.9%減)
2017年2月期 305億900万円(2.3%増) 14億3500万円(61.4%増)
2018年2月期(予想) 317億6900万円(4.1%増) 15億5900万円(8.6%増)

実はこの会社、10月12日2826円だった株価が、11月9日に5220円まで急騰しています。これは10月13日に発表した上期の決算を受けたもの。

発表によると、連結経常利益が前年同期比3倍の16億1000万円となりました。通期計画を軽々と超える見通しとなったのです。

背景にあるのが、ゼットンと商業藝術の買収。第2四半期から連結対象にしたことにより、店舗数はゼットンの72店舗と商業藝術の84店舗を加えて、424店舗へ。売上高は上期で前年同期比約40%増の208億5100万円と膨らみました。

DDホールディングスは積極的な買収を仕掛けて拡大する戦略をとったのです。しかも、同業態を取り込むのではなく、業態を散らしてポートフォリオを強固にする戦略をとりました。

2016年に子会社化したゼットンは、アロハテーブルなどのカフェレストラン業態が主力。商業藝術もchano-maなどの和風カフェに強味を持っています。

そしてエスエルディーを買収しました。居酒屋として発展してきたDDホールディングスが、別の方向へと食指を伸ばす姿が見えてきます。

エスエルディーHPより

華やかな見た目のエスエルディー、その悲惨な内情

エスエルディーは、音楽業界に身を置いていた青野玄氏が立ち上げた会社。飲食店運営を全国で67店舗展開しています。kawara CAFE&DINING(以下:瓦カフェ)が有名です。渋谷タワーレコードの中にあるカフェを運営していたりもします。

同一ブランドであっても、店舗の雰囲気はガラリと変わります。地域に合わせたチューニングが必要、という社長の想いが反映されています。100店舗100業態を掲げたDDホールディングスの松村社長と意気投合するわけです。

※ここからは筆者の主観と余談ですので、エスエルディーの業績が気になる方は次の▼まで飛んでください。

エスエルディーが展開する、20代・30代女性をターゲットとした店舗はとにかくお洒落です。うっかりスーツ姿の中年男性が、打ち合わせ場所に瓦カフェを選んだら大変です。「カフェごはん」を主食とする女子大生に白い目で見られます。

ちなみに、瓦カフェはランチが終わると比較的空いていて、Wi-Fiの使えるお店が多いので打ち合わせにはもってこいです。「カフェごはん」女子の目線に耐えられる強靭な男性には、おすすめします。

このお店がヒットした要因は、「ドトール<スターバックス<瓦カフェ」という、(元)サブカル系女子の不思議な”優越感”にあると思います。それは中高生のときに感じていた、「近所の書店<ヴィレッジヴァンガード」と近いものがあります。

さて、かわいい見た目とは裏腹なのが、業績。

▼エスエルディー2016年・2017年3月期業績と2018年3月期予想    ※( )は前期比

売上 経常利益
2016年3月期 52億7200万円(16.4%増) 2億4000万円(37.1%増)
2017年3月期 55億500万円(4.4%増)
マイナス4100万円
2018年3月期(予想) 55億5600万円(0.9%増)
4100万円

見ての通り、売上は順調です。問題は利益面。“やばい”何かを隠し持っている感じがしますよね。

何が問題なのか。理由は単純、バラバラの店舗を管理する費用です。

脱チェーン化は人材強化と管理のシステムが必須要件に

地域やターゲットに合わせて、きめ細やかな業態を開発する。それは飲食店のあるべき姿です。しかしながら、実際にやるとなると、凄まじい労力がかかります。エスエルディーが苦労しているのも、店舗を細かく切り分けているから。

苦労するポイントは2つです。

①人材育成
②販促

一つ目から説明します。

店舗を稼げる形にするには、当然スタッフの連携が重要です。繁盛店はスタッフ同士が共通言語を持っていると言われています。これは本当に重要です。広い店舗をランチから深夜まで回すためには、志を一つにしたスタッフが効率よく働かなければなりません。

下のグラフを見ていただくとわかる通り、飲食店のスタッフの離職率は他業種と比べて極めて高いです。待遇の良い他業種に転職したり、優秀な社員が他社に引き抜かれるケースもしょっちゅうあります。

出典:「平成28年雇用動向調査結果の概況」(厚生労働省)(http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/17-2/dl/gaikyou.pdf

エスエルディーにとって痛手なのが、マネージャーが抜けてしまうこと。チェーン系のお店であれば、マネージャーとスタッフにズレはほとんど生じません。しかしながら、多様な店舗を展開するエスエルディーの場合、共通言語を作るところから始めなければなりません。

そこが上手くかみ合わないと、オペレーションが回らずに顧客を取り逃がすことになるのです。

もう一つは販促面。飲食店の集客はグルメ媒体が主流。同ブランドの場合は、ぐるなびに〇〇万円、食べログに●●万円、ホットペッパーに△△万円。といった形で比較的画一的なパッケージで収まります。

しかしながら、業態がまちまちな場合、販促担当の勘や経験で微妙に比率を変えなければなりません。その匙加減を間違えると、とんでもない落ち込み方をしたりします。

エスエルディーが苦しんでいるのは、このあたりだと考えられます。

好待遇でやりがいがあり、将来のビジョンが描ければ社員が抜けることはありません。販促はAI技術などによってシステム化できれば解決できます。

店舗開発に優れたエスエルディー。DDホールディングスが上の二つを上手く支援できれば、成長する会社であることは間違いなさそうです。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由