ユニゾン・キャピタルが出資していた居酒屋「鳥二郎」のダイナミクスが倒産

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※画像はイメージ

居酒屋「鳥二郎」を運営するダイナミクス(東京都中央区)が、2023年2月27日東京地裁に自己破産を申請し、破産手続きの開始決定を受けました。負債総額は106億7,800万円。飲食店の倒産としては、2022年4月に破産したアンドモワ(東京都港区)の負債総額80億円を超える大型のものとなりました。

投資ファンドのユニゾン・キャピタル(東京都千代田区)は、2017年6月に組成したファンド「ユニゾン・キャピタル4号投資事業有限責任組合」及び「Unison Capital Partners IV(F), L.P.」を通してダイナミクスの株式を取得したと発表しています。同社の公式ホームページでは、転売等のエグジット情報は記載されていません(2023年2月28日現在)。

飲食店の中でも、空中階の低価格系大衆居酒屋は苦戦が続いており、協力金を失って倒産するケースは増加することも予想できます。この記事では以下の情報が得られます。

・ダイナミクスの詳細
・飲食企業の協力金の影響

パクリ疑惑で鳥貴族や物語コーポレーションから訴訟を起こされる

ダイナミクスの前身となる会社が、2003年3月京都府に設立された秀インターワン。全品270円均一の焼き鳥居酒屋「鳥二郎」が人気店となりました。しかし、均一価格であることや看板、ロゴが「鳥貴族」に酷似していたため、2015年4月に鳥貴族ホールディングス<3193>がロゴの使用禁止や6,000万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こしました。

訴訟を起こされた当時、「鳥二郎」は京都や大阪、神戸を中心に12店舗を展開していました。2015年7月の時点で、鳥貴族は関西圏に215店舗を出店しています。全店舗の半分以上が関西圏で占められており、「鳥貴族」が出店を強化していたエリアです。しかも、65%はフランチャイズ加盟店が運営する店舗。「鳥二郎」が「鳥貴族」と同じビル内で営業しているケースもあったことから、フランチャイザーとしても見過ごすことができなかったのでしょう。この訴訟は同年に和解が成立しています。鳥貴族は和解内容について公にしていません。

なお、「丸源ラーメン」を運営する物語コーポレーション<3097>も、ラーメン店の商品や店舗の外観、のぼりなどが酷似していると、営業停止を求めて秀インターワンを訴えました。

会社のイメージが悪化した秀インターワンは、各社との和解が成立した後にダイナミクスに社名を変更しました。2017年6月にユニゾン・キャピタルが買収しています。

コロナ禍になる前、ユニゾン・キャピタルはホテルやレストランを運営するミナシア(東京都千代田区)、うどん店の資さん(北九州市)など、外食系企業の買収に力を入れていました。

買収当時、ダイナミクスは全国で100店舗以上を展開しており、勢いのある会社でした。2018年5月期は6億円の純利益を出しています。

ダイナミクスは秀インターワン時代の代表だった橋本秀恒氏が社長を務めていましたが、買収後しばらくしてオムライス店「ポムの樹」を拡大させ、「北前そば高田屋」を再生させた守部英喜氏が社長となりました。2022年8月、ユニゾン・キャピタルのマネージメントアドバイザーや資さんの特別顧問を務めた斎藤泰氏がダイナミクスの代表取締役社長に就任しています。

手も足も出せない中規模の居酒屋企業へのダメージが大きい

繁華街のビルの地下や二階以上に出店する、いわゆる空中階の居酒屋は苦戦が続いています。宴会需要が消失し、客足が戻らないためです。空中階の居酒屋は客席の多い店が多く、1組当たりの単価が高い宴会客で利益を得ていました。多額の広告費をぐるなびなどのグルメサイトに投じ、金曜日や祝日前を中心に宴会客を獲得。収益を得るというのが定石でした。

空中階の居酒屋は路面店と違って通行人の目に留まりづらいため、一般客の集客は不得意。コロナ以降は利益を出すことが難しくなりました。これまでは時短協力金の力で急場を凌ぐことができましたが、それも途絶えました。

居酒屋「はなの舞」などの店舗を全国で518店舗運営(2022年12月末時点)するチムニー<3178>は、2023年3月期第3四半期に15億4,300万円の経常損失を計上しました。前年同期間は34億8,500万円の経常利益でした。赤字に陥った要因として、協力金や助成金を失ったことが挙げられます。

■チムニー損益計算書(一部)

※決算説明資料より作成

2022年3月期第3四半期は29億3,100万円の営業損失を出していますが、13億1,000万円の雇用調整助成金、51億1,700万円の新型感染症拡大防止協力金を得て黒字化しています。

2023年3月期第3四半期は合計で3,100万円程度であり、営業損失の穴を埋めることができていません。

ワタミ<7522>のように外食以外の事業を展開している企業は営業黒字化を果たしていますが、外食中心の会社は回復していません。特に資本力に欠けた中規模の会社の苦境が鮮明です。

2022年12月末時点で「テング酒場」を23店舗、「神田屋」29店舗など、居酒屋を中心に97店舗を展開するテンアライド<8207>は、2023年3月期第3四半期に11億5,500万円の営業損失(前年同期間は24億4,100万円の営業損失)、6億7,900万円の経常損失(前年同期間は7,900万円の経常利益)を計上しました。

状況はチムニーとよく似ています。

■テンアライド損益計算書(一部)

※決算短信より作成

チムニーは居酒屋から食堂への業態転換や、不採算店の撤退を進めました。しかし、中規模の会社は店舗の閉鎖による原状回復費用や、減損損失に耐える資本力に欠けており、アフターコロナに向けた備えが十分にできません。

宴会需要の回復を粘り強く待っている会社もありますが、2019年の水準に戻る見込みはないように見えます。ダイナミクスのように、投資ファンドの支援を受けていても倒産を避けられないというケースは、今後も起こるかもしれません。

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