【クレディ・スイス】知っているようで知らない、外資系金融機関まとめ<3>

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 新聞やテレビのニュースで名前は知っているけれど、街中で店舗を目にすることはあまりないし、敷居もちょっと高そう。そんな「知っているようで知らない、外資系金融機関」シリーズの第3回は欧州を代表する世界的な金融グループの「クレディ・スイス(CREDIT  SUISSE)」です。

「プライベートバンキング」「投資銀行」「資産運用」が3本柱

 クレディ・スイスはスイスのチューリッヒを本拠に50カ国・地域以上で業務を展開し、従業員数は約4万6000千人。創立は1856年。UBS(スイス銀行とスイス・ユニオン銀行が1998年合併して誕生)と並んでスイスの2大銀行をなしています。スイスの銀行といえば、匿名性と守秘性の高さで語られることがしばしばです。クレディ・スイスも150年を超える歴史と伝統の中で、世界中の富裕層を相手にするプライベートバンキング業務で国際的に高い評価を受けてきました。

 現在は「プライベートバンキング」、「投資銀行」、「アセットマネジメント(資産運用)」の3業務を基軸にさまざまな金融サービスを提供しています。投資銀行業務は株式・債券の売買や引き受け、M&Aのアドバイザリー業務などをいいます。アセットマネジメント業務では、機関投資家向けに株式や債券といった伝統的な投資に代わるオルタナティブ(代替)投資商品の販売などを主力としています。

日本でのクレディ・スイスの沿革(太字は本国での動き)
1856 クレディ・スイスがチューリッヒで設立
1940 スイス国外初の支店をニューヨークに開設
1959 ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)が日本政府の戦後初の国債起債で単独引受幹事を務める
1972 ザ・ファースト・ボストン・コーポレーション東京駐在員事務所を開設
1977 クレジット・スイス(現クレディ・スイス銀行)東京支店が銀行免許を取得
1978 クレディ・スイスと米国ザ・ファースト・ボストン・コーポレーションが提携
1985 ファースト・ボストン証券東京支店(現クレディ・スイス証券の母体)を開設
1988 クレディ・スイスがザ・ファースト・ボストン・コーポレーションを買収
1996 持ち株会社名をCSホールディングスから、クレディ・スイス・グループに変更
2006 クレディ・スイスとクレディ・スイス・ファースト・ボストンが統合し、新「クレディ・スイス」が発足
 〃 日本法人に移行に伴い、「クレディ・スイス証券」として営業開始
2009 日本国内でプライベートバンキングを開始
2012 英HSBC(香港上海銀行)から、日本国内のプライベートバンキング業務を継承

1970年代から日本に進出。2006年に日本法人を設立

日本での拠点を置くビル(東京・六本木)

 日本では、クレディ・スイス証券、クレディ・スイス銀行東京支店を拠点としています。1972年、東京に駐在員事務所を置いたのが始まりです。いくつかの変遷を経て、2006年、クレディ・スイス証券が日本法人として営業開始(それ以前は日本支店)し、投資銀行、アセットマネジメント、プライベートバンキングの主要3業務すべてを展開しています。一方、クレディ・スイス銀行東京支店は1977年に開設し、現在、プライベートバンキングを中心に銀行業務を手がけています。

 このうち日本国内でのプライベートバンキングの取り扱いは2009年にスタート。外資系金融機関としては後発の部類ですが、口座を開設できるのは何と金融資産10億円以上の資産家からで、この点が通常の銀行とまったく異なるといえるでしょう。2012年に英HSBC(香港上海銀行)の日本でのプライベートバンキングを継承し、顧客基盤が厚みを増しました。顧客にはオーナー経営者が少なくなく、資産運用にとどまらず、M&Aや事業承継のサポートを行っています。

日本での展開 代表者
クレディ・スイス証券 CEO・社長  マーティン・キーブル氏
クレディ・スイス銀行東京支店 在日代表     マーティン・キーブル氏
  支店長    市東 久氏

M&Aで存在感を発揮。北越製紙の敵対的買収阻止で名を上げる

 投資銀行業務の花形であるM&Aのアドバイザリー業務では世界的プレーヤーの一員としての実力を随所に発揮しています。

 なかでも、クレディ・スイスが存在感を一躍高めたのは2006年のこと。その出来事とは日本企業同士で初めての本格的な敵対的買収とされた王子製紙<3861>(現・王子ホールディングス)による北越製紙<3865>(現・北越紀州製紙)へのTOB株式公開買い付け)です。クレディ・スイスが被買収側の北越製紙の単独アドバイザーを担当し、防衛に成功したのです。

 2017年には、2兆円にのぼった最大案件の東芝メモリ売却にかかわり、買い手側である日米韓連合の一員、韓国SKハイニックスのアドバイザーを務めました。

〇クレディ・スイスが日本企業関連のM&Aでアドバイザーを担当した主な案件(※被買収側の日立国際電気のアドバイザーについた。その他は買収側のアドバイザー)  トムソン・ロイターの資料を基に作成

被買収側 買収側 買収額
2017 東芝メモリ パンゲア 2兆円
※日立国際電気 KKR 1554億円
2015 米HCCインシュアランスHD 東京海上日動火災保険 9253億円
2014 米ビーム サントリーホールディングス 1兆6161億円
2013 独グローエ LIXILグループ 3917億円

 調査会社トムソン・ロイターがまとめた2017年の日本企業のM&Aに関するアドバイザリー業務(買収金額ベース)ランキングによると、クレディ・スイスは野村証券、三菱UFJモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスに続く4位(2兆6652億円)につけています。今回は東芝メモリ案件を手がけたこともあり、前年の20位から急浮上した格好ですが、案件数も前年の9件から15件に増え、躍進ぶりをうかがい知ることができます。

文:M&A Online編集部