ハンバーガー、回転寿司、老人ホームまで 居酒屋企業はウィズコロナでどう変わる?

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老人ホーム事業への進出を計画する「や台ずし」のヨシックスホールディングス

新型コロナウイルス感染拡大と緊急事態宣言に翻弄される居酒屋企業が、ウィズコロナを見据えて変化しています。鳥貴族ホールディングス<3193>は、チキンバーガー専門店「TORIKI BURGER」の1号店を8月25日大井町に出店。寿司居酒屋「や台ずし」のヨシックスホールディングス<3221>はM&Aを通して有料老人ホーム事業に進出すると発表しました。「とらふぐ亭」の東京一番フーズ<3067>は「寿し常」を譲受して、回転寿司事業へと進出しています。この記事は居酒屋企業の新たな取り組みを紹介するものです。以下の情報が得られます。

・コロナで居酒屋企業はどう変わったか
・新事業の詳細

需要回復を粘り強く待つか先手必勝か

新型コロナウイルス感染拡大前の居酒屋ビジネスは、比較的単純な構造をしていました。目立つ場所に出店をしてグルメメディアに広告を出し、集客するというものです。お通し、アルコールを提供しているために客単価が高く、家賃が高額でも十分負担ができました。その参入障壁の低さから数多くの店舗が生まれ、いかにして差別化を図るかといったところに難しさがありました。コロナはこのビジネス構造そのものを壊してしまいます。

鳥貴族は2020年8月から2021年6月までの全店の売上高が前年比58.1%に留まりました。2021年7月期第3四半期は14億6,300万円の純損失を計上しています。「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングス<3175>は2022年3月期第1四半期の3億4,100万円の純損失を計上し、自己資本比率はコロナ前の2020年3月末の14.5%から1.0%まで激しく落ち込んでいます。

危機的状況に見舞われ、居酒屋企業がとったスタンスは大きく2つです。1つは既存の居酒屋を食堂などに転換し、需要が回復するのを待つタイプです。もう1つは全く別の事業を立ち上げるタイプです。

前者は転換に費用をかけず、増資などで資金を調達しながら急場を凌いでいます。エー・ピーホールディングス、チムニー<3178>がこちらに該当します。後者は自社で新たに事業を立ち上げたり、M&Aを活用して手っ取り早く新たな事業を創出しています。鳥貴族、ヨシックス、ワタミ、東京一番フーズがこちらに該当します。

ヨシックスはワタミの成功パターンを踏襲できるか

大胆な一手を繰り出したのが「や台ずし」のヨシックスです。ヨシックスは2021年8月17日に新会社ヨシックスキャピタルを立ち上げました。事業内容はベンチャー企業への投資とM&Aの仲介です。ヨシックスはこの会社を通して有料老人ホームへの進出を計画しています。

老人ホームや介護事業で一時成功したのがワタミ<7522>です。ワタミは2005年に高齢者住宅の1号棟をオープンしました。そこから介護事業を本格化させます。ワタミはこの介護事業を2015年にSOMPOホールディングス<8630>に売却することになりますが、この事業は好調でした。

2013年3月期の国内外食事業の売上高は740億7,500万円、セグメント利益は30億8,900万円でした。利益率は4.2%です。一方、介護事業の売上高は388億4,600万円、セグメント利益は36億3,100万円。利益率は9.3%です。利益率は外食事業の2倍以上でした。この数字はワタミの外食事業の業績が大幅に悪化する前のもの。介護事業は極めて経営効率の良いものでした。

ヨシックスはもともと生産性の高い会社です。コロナ前の2020年3月期の売上高が187億900万円で営業利益は20億3,600万円。営業利益率は10.9%です。高利益体質だったため、自己資本比率が高くなっていました。2021年3月末時点で自己資本比率は56.7%です。ヨシックスは大規模な増資は行っていません。資金的な余裕が残されていたことが、今回の一手に繋がっています。

マクドナルドの戦略を再現する鳥貴族

トリキバーガー
TORIKI BURGREのセットメニュー(画像は「「TORIKI BURGER」8 月 23 日グランドオープンが決定!」より)

自社での業態開発にこだわっているのが鳥貴族とワタミです。

鳥貴族の「TORIKI BURGER」は席数が54席で店舗面積は186㎡。外観や内装、価格帯はマクドナルドと近いですが、チキンバーガー専門店として差別化を図っています。また、鳥貴族の均一価格を踏襲しており、セットメニューは590円に揃えられています。売上目標は2億円。客単価700円として年中無休だとすると、この目標達成に必要な1日の客数は783。この数字はマクドナルドとほぼ同水準であり、ベンチマークしているのは間違いありません。鳥貴族は3年で直営店10~20店舗の出店を計画しています。

鳥貴族はフランチャイズ加盟店が多いことが特徴の一つです。2021年4月末時点で617店舗のうち、232(37.6%)がフランチャイズ加盟店です。直営のハンバーガーショップが軌道にのれば、フランチャイズビジネスの拡大が見込めます。フランチャイズでの事業拡大という点もマクドナルドの戦略とよく似ています。

ワタミは居酒屋を焼肉店へと転換しました。焼肉店への転換は排煙装置やグリルなどの設備投資費が重く、資金が必要になります。ワタミは日本政策投資銀行が出資をする「DBJ飲食・宿泊支援ファンド」から120億円を調達し、転換費用に充当しています。ワタミの2022年3月期第1四半期の国内外食事業の売上高は前期比130.2%増の28億5,900万円となったものの、21億6,700万円のセグメント損失(前年同期は33億1,100万円の損失)を計上しています。赤字幅は縮小していますが、回復の兆しはまだ見えていません。好調の焼肉店は「焼肉きんぐ」などのロードサイド型が多く、繁華街型の出店が多いワタミは焼肉店への転換後も集客に苦戦している可能性があります。

厳しい船出となった寿し常の買収

東京一番フーズは2020年6月に豊田(2020年6月に自己破産)が運営していた回転寿司「寿し常」の26店舗を譲受しました。日本フードサービス協会によると、回転寿司業態の2021年6月の売上高は2019年比で94.9%。回転寿司の需要はコロナ禍でも旺盛です。また、東京一番フーズはふぐ料理などをメインで扱っており、漁業生産者などとの連携も強固です。買収によって食材網を活用でき、原価率を低減するなどシナジー効果も期待できます。

ただし、その船出は順風満帆ではありません。破産した豊田の破産管財人から、事業の一部と不動産が不当な価格で売却されたとして、2億円の支払いを求めました。東京一番フーズは適正な価値を提示しているとして、真っ向から対立しています。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由