スタートアップのグループインと新事業創造を成功させるカギは?

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イベントに登壇したメンバー

ストライク<6196>は7月30日、VC(ベンチャーキャピタル)の集積拠点「Tokyo Venture Capital Hub」(東京都港区)でスタートアップと事業会社の提携促進を目的としたイベント「第26回 Conference of S venture Lab.」を開いた。オンラインを含めて140人以上が参加し、「M&A当事者が語る、スタートアップのグループインと新事業創造」をテーマにしたトークセッションやスタートアップ3社によるピッチ、名刺交換会などで交流を深めた。

IPOがM&Aのきっかけ?

トークセッションでは福田升二kubellの取締役 兼 上級執行役員COO(最高執行責任者)と、同社にグループインしたミナジンの代表取締役CEOと、kubellパートナーのグループシナジー部門で執行役員を兼任する佐藤栄哲氏が登壇。スタートアップのグループインと、それによる新事業創造をいかに進めるべきかについて語り合った。松本直人ABAKAM代表取締役がモデレーターとして議論が進行した。

グループインのきっかけになったのは、意外にもIPO(新規上場)準備だったという。佐藤社長は「IPOに向けた座組み(資本提携の枠組みづくり)の中で、Chatwork(現 kubell)にマイナー出資をお願いに行った。そこで100%出資でのM&Aを持ちかけられた」と振り返る。

M&Aを持ちかけた福田COOは「ミナジンが手がけるBPaaS(業務プロセスそのものをクラウド経由でアウトソースできるサービス)は大きな成長が見込め、まさにわが社がやりたかったビジネス。ダメ元でM&Aできないかと考えた」という。

申し出を受けた佐藤社長は、熟考の上IPOからM&Aへ方向転換する。「目先のお金ではなく、事業成長を最優先で考えた。IPOもM&Aによるグループインも手段であって、目的ではない。Chatworkからの申し出を検討したところ、圧倒的に事業成長のスピードが速いことが分かった。それでM&Aに方向転換した」(佐藤社長)という。

最大の要因はChatworkの持つSMB(中堅・中小企業)顧客層。「グループイン前のユーザーは大企業が中心。SMBは社数が非常に多く、非常に有望な市場だ。うまく取り込めれば、急成長が期待できる」(同)とChatworkからの送客に期待する。

一方、福田COOは「ミナジンのグループインでBPaaS事業のショートカットが実現できる。同様のサービスを一から作るコストと時間を考えれば、何としても実現したい案件だった」と話す。トントン拍子で交渉は進み、開始から半年ばかりでクロージングできたという。

自力よりも圧倒的なスピードで成長を実現

実際にミナジンがグループインしてみると「自力よりも圧倒的なスピード感で、資金と人材のリソースが入手できた」(佐藤社長)。特に人材については「1年間で2倍の陣容になった」(同)というから驚きだ。「kubellの皆さんは一緒に働いていて楽しい。ミナジンの社員も一緒に仕事ができて良かったと全員が言っている」(同)ほど、PMI(M&A成立後の統合プロセス)も順調に進んだ。

コーディネーターの松本氏は「グループインで事業戦略に必要なパーツを集める未来選択型のM&Aだ。事業会社にとっては大いに参考になる事例だ」と締めくくった。

福田COOは伊藤忠商事に入社後、インターネット関連の新規事業開発・投資業務に携わった。2013年にエス・エム・エスに入社し、介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」や介護職向け求人・転職情報サービス「カイゴジョブ」などを中心とする介護領域全体を統括。2018年には同社執行役員に就任した。2020年4月Chatwork(現 kubell)に入社し、2022年4月に取締役COOに就任している。

佐藤社長は大学在学中に、エイブルワーク(現 ミナジン)を創業。大学卒業後に一旦、丸紅に入社し、ジョイントベンチャーの立ち上げなどに関わる。2003年にエイブルワークに戻り、労務管理SaaS(サービスとしてのソフトウェア)、BPaaS、コンサルティングなどの事業を次々と立ち上げた。2022年にIPO準備に取り組む過程でChatworkとのM&A交渉が始まり、2023年1月に完全子会社としてグループイン。自身はミナジン社長に加えてkubellの子会社を統括するkubellパートナーの執行役員に就任、グループシナジーの創出にも取り組んでいる。

スタートアップ3社がピッチ

ピッチでは「デジタルの力でダイバーシティ&インクルージョンがあたりまえの社会を創る」を目指し「EXCEL女子」「デジマ女子」「RPA女子」「AI女子」などの事業を展開するコクー(東京都千代田区)、法務データ基盤システムや契約書レビュー支援クラウドなどの四つのサービスを提供するGVA TECH(東京都渋谷区)、企業年金制度「はぐくみ企業年金」の導入推進などで中小企業従業員の退職金給付や資産形成を支援するベター・プレイス(東京都新宿区)の3社が、自社のビジネスモデルを紹介。参加者は真剣な表情で聞き入っていた。

第27回の「Conference of S venture Lab.」は8月21日、YOXO BOX(横浜市)で「事業拡大のための方法論としてのマイノリティ出資とM&A」をテーマに、坂本惇日揮未来戦略室マネージャー兼日揮みらい投資事業有限責任組合フロントチームリーダーと木村亮介Lifetime Ventures代表パートナーが登壇する。

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文:糸永正行編集委員