カーライル・グループ(ワシントン)は、1987年に設立されたプライベート・エクイティ・ファンドです。世界中で365ものファンドを抱え、2,220億ドル(22兆2000億円)の資産を運用しています。北米や欧州、アジアだけでなく、南米、中東、アフリカ、オーストラリアなど33か所に拠点を設け、1,775名以上のプロフェッショナルを擁する世界最大級の投資会社です。
日本では2019年1月に仕掛けた、オリオンビール(沖縄県浦添市)へのTOBで世間を驚かせました。国内での存在感を増すカーライル・グループとは、どのような投資ファンドなのでしょうか?
この記事では以下の情報が得られます。
・カーライルの概要
・投資実績
・チムニーの投資で得た金額
・オリオンビールの動向
カーライル・グループは、ウィリアム・E・コンウェイ・ジュニア氏、ダニエル・A・ダニエッロ氏、デイビット・ルーベンスタイン氏が共同で設立しました。2000年に日本に拠点を設け、現在のオフィスは新丸の内ビル内にあります。日本代表には2003年にカーライルに参画した安達保氏と、2001年に入社した山田和広氏が就任しています。
安達氏は三菱商事<8058>に10年勤務。在籍中に第二電電(現在のKDDI)に出向しました。1988年に戦略コンサルティングファームの世界的なトップ企業マッキンゼー・アンド・カンパニー(本社:ニューヨーク)に入社し、主に製造業やハイテク企業の企業ビジョンや戦略の策定にかかわっています。1997年にゼネラル・エレクトリック(本社:ボストン)の事業の一つであるGEキャピタルに移籍。東邦生命の買収などを担当した後、日本GE(本社:東京都港区)の代表に就任しています。その後、カーライルに参画しました。2016年にはベネッセホールディングス<9783>の代表取締役社長を務めています。
山田氏は2012年1月に共同代表に就任。三井住友銀行<8316>に16年間勤務し、ロスアンゼルス支店や大和証券でのM&Aアドバイザリーなどの投資銀行業務に従事。主にアパレル、小売り、機械、海外不動産業界にかかるクロスボーダーM&Aを担当しました。2001年にカーライルに入社しています。
ホームページによると、国内拠点には共同代表の2人を含めて16名が在籍しています。
国内での投資実績は26社。製造業、小売、外食、通信など幅広い業種に投資をしています。
▼日本での投資実績一覧
投資先 | 業種 | 投資時期 | 現在の状況 |
---|---|---|---|
株式会社トキワ | 消費財・小売 | 2019年 4月 | 投資継続中 |
三共理化学株式会社 | 製造業 | 2019年 3月 | 投資継続中 |
オリオンビール株式会社 | 消費財・小売 | 2019年 1月 | 投資継続中 |
ウイングアーク1st株式会社 | テクノロジー・ビジネスサービス | 2016年 4月 | 投資継続中 |
名水美人ファクトリー株式会社 | 消費財・小売 | 2016年 3月 | 投資継続中 |
株式会社マネースクエアHD | テクノロジー・ビジネスサービス, 金融サービス | 2016年 10月 | 投資継続中 |
センクシア株式会社 | 製造業 | 2015年 3月 | 投資継続中 |
アルヒ株式会社 (旧:SBIモーゲージ株式会社) | 金融サービス | 2014年 8月 | 譲渡又は上場済み |
三生医薬株式会社 | ヘルスケア | 2014年 8月 | 投資継続中 |
株式会社おやつカンパニー | 消費財・小売 | 2014年 5月 | 投資継続中 |
シンプレクス株式会社 | テクノロジー・ビジネスサービス | 2013年 8月 | 譲渡又は上場済み |
Walbro Co., Ltd. | 製造業 | 2012年 9月 | 投資継続中 |
シーバイエス株式会社(旧:ディバーシー株式会社) | 製造業 | 2012年 11月 | 譲渡又は上場済み |
株式会社ツバキ・ナカシマ | 製造業 | 2011年 3月 | 譲渡又は上場済み |
株式会社ソラスト(旧:株式会社日本医療事務センター) | ヘルスケア | 2011年 11月 | 譲渡又は上場済み |
チムニー株式会社 | 消費財・小売 | 2009年 12月 | 譲渡又は上場済み |
株式会社ブロードリーフ | テクノロジー・ビジネスサービス | 2009年 11月 | 譲渡又は上場済み |
AvanStrate株式会社 | テクノロジー・ビジネスサービス | 2008年 6月 | 譲渡又は上場済み |
コバレントマテリアル株式会社(現:クアーズテック株式会社) | テクノロジー・ビジネスサービス | 2006年 12月 | 譲渡又は上場済み |
株式会社学生援護会(現:株式会社インテリジェンス) | 通信・メディア | 2005年 9月 | 譲渡又は上場済み |
クオリカプス株式会社 | ヘルスケア | 2005年 10月 | 譲渡又は上場済み |
株式会社リズム(現:THKリズム株式会社) | 運輸 | 2004年 12月 | 譲渡又は上場済み |
株式会社ウィルコム | 通信・メディア | 2004年 10月 | 譲渡又は上場済み |
株式会社キトー | 製造業 | 2003年 9月 | 譲渡又は上場済み |
コーリンメディカルテクノロジー株式会社(現:フクダコーリン株式会社) |
ヘルスケア | 2003年 12月 | 譲渡又は上場済み |
株式会社アサヒセキュリティ | テクノロジー・ビジネスサービス | 2002年 2月 | 譲渡又は上場済み |
※カーライル・グループのウェブサイトを基に筆者作成
カーライルは2009年に居酒屋「はなの舞」を運営するチムニー<3178>のMBOを支援しました。チムニーはイオン<8267>がFC展開を目指して設立した居酒屋企業。業績不振が続いて1997年に食肉メーカーの米久(静岡県沼津市)に譲渡されていました。
カーライルは1株2,260円でTOBを実施すると同時に、米久から株式を買い取りました。買い付け金額は208億円。2010年にチムニーは上場廃止。そして2012年に東証2部に再上場しています。
チムニーは上場時、2009年に締結した長期借入金が82億5000万円ありました。これはカーライルが買収した際のレバレッジド・ファイナンスと考えられます。カーライルの実質的な投資額は、125億円前後だったと推測できます。
新規公開時の有価証券届出書によると、上場時にカーライルが売り出した株数は790万株。公募価格1,000円で総額79億円を得ました。
その後、2013年11月に酒販大手のやまや<9994>がTOBでチムニーの株式を取得することを決めました。カーライルは保有していた936万5200株を売却。この取引で、およそ141億円を手にしたことになります。チムニーの上場とやまやへの売却で220億円を稼ぎました。
オリオンビールのTOBは、2019年1月野村ホールディングス<8604>とカーライルが共同で実施。応募数は60万6325株でTOBが成立しています。買い付け額は570億円に上るとみられています。
オリオンビールは1957年創業。沖縄を代表する企業の一つで、ビール系飲料では国内5位の規模。業績は堅調ですが、大幅な増収が実現できていません。
▼オリオンビール業績
(百万円) | 2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 |
---|---|---|---|
売上 | 27,669 (9.6%増) |
28,009 (1.2%増) |
28,317 (1.0%増) |
経常利益 | 3,249 (64.2%増) |
3,607 (11.0%増) |
3,713 (2.9%増) |
※有価証券報告書より筆者作成
今回のTOBにより、海外の販路を開拓するなど、規模拡大を見込んでいます。
オリオンビールは、沖縄地盤の百貨店リウボウ(沖縄県那覇市)や近鉄グループホールディングス<9041>などと共同で、沖縄県今帰仁村の「オリオン嵐山ゴルフ倶楽部」の用地にテーマパークを開業する計画を立てています。
総事業費は600億円規模となり、2024年末ごろを目途に開業予定。USJの再建で名を馳せた日本を代表するマーケッター・森岡毅氏が代表を務める株式会社刀(東京都品川区)も出資をしています。
カーライルのもとでオリオンビールがどのような変貌を遂げるのか、注目が集まっています。
麦とホップ@ビールを飲む理由