【キャリア危機への処方箋(2)】「正論で反論」は逆効果。社内抗争をうまく切り抜けるには?

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第2回は、M&Aを機会に起きうる社内抗争について、前回に続きキャリアバランスの弓代表と赤堀取締役に話を伺った。実例を引き合いに出しながら傾向と対処法を探る。

仕事・情報を回さない、極端な席配置・・・社内で起きた、いがみ合い

異なる企業同士が1つの会社となるM&Aにおいては、以前に所属していた企業の違いによって対立が起きることも想定されるだろう。例えば、A社とB社が合併してC社となった際に、旧A社と旧B社の社員が対立する、といったことである。

自身も大手企業の会社員としてM&Aを体験し、組合でさまざまな苦情を聞いてきたという赤堀氏は、当時の社内の様子を次のように振り返る。

「極端なところでは、旧A社の社員グループが旧B社の社員には回覧板を回さない、仕事を与えないといったことが起きていたようです。そのほか、わざと旧B社の社員の席をメインのシマから離れた位置に配置するなど、大小さまざまな社内不和のタネがありました」。

回覧板を回さない、といったあからさまな行為は、「いじめ」や「嫌がらせ」の領域に達しており、まさか大の大人がそのようなことをするとは信じがたいかもしれないが、実話だそうである。さらに仕事を与えないともなると深刻だ。

このような状況に自身が直面した場合、メンタル面もダメージを受け、旧A社の社員全員を憎んでしまいそうである。このM&Aでは旧A社が強い立場で、旧A社社員は弱い者いじめをしようとしていたのだろうか。

それに対し、弓代表は、嫌がらせをしてしまう側の社員の心理を次のように分析する。
「ほとんどの場合、嫌がらせをするのは、強い立場だからではありません。その根本的な心理は相手への『恐れ』であることが多いのです。自分たちのやり方が旧B社の社員によって否定されてしまうのではないか? 旧B社社員によって何か変わってしまうのではないか? といった潜在的な恐れが、旧B社社員を排除したい、という気持ちにつながり、嫌がらせという形で表れてしまったのでしょう」。

つまり、このような相手に対して、憎んだりすることはもちろん、正論で反論したりすると、恐れを助長することになってしまい、逆効果になるというわけだ。そこで、弓代表は次のようにアドバイスする。

「『恐れ』を抱いている相手に対しては、自分は相手にとって安全な存在だよ、怖くないよ、ということを伝えなければなりません。そのために効果的なのは、相手に対して『リスペクト』の意を表すことです」。

自分に尊敬の念を抱いている相手に対して敵意は生じにくい。そのため、このような嫌がらせを受けた時こそ相手のよいところを見つけ、「旧A社のやり方はさすがですね、勉強したいです。(旧A社の)〇〇さんはこうするんですね、ぜひマネしたいです」というように、具体的に褒めるとよいという。

最初は心理的なハードルが高いかもしれないが、このような対処法は、M&Aが起こった際に限らず、嫌がらせを受けた場合全般で効果的なものとなりそうだ。

対立を避けるためには・・・結婚に例えると?

結婚と一緒!旧組織のルールの押し付け合いはNG

弓代表は、M&Aの際にこのような対立を避けるために、すべての社員が心掛けてほしいことを、結婚に例えて説明する。

「A家の夫とB家の妻が結婚してC家という新しい家庭を築いた場合を考えてみてください。結婚したのに、夫や妻が自分の家のルールに固執していては対立を生みます。自分たちでC家をつくったのだから、新しいC家としてのルールを生み出そうという姿勢が大事です」。

確かに、実家のよさを主張し相手を否定するよりも、夫や妻が自分たちの家庭をどのように築いていくかを話し合う方が建設的といえそうだ。

企業もまったく一緒で、とくに大企業同士の合併の場合、自分の組織のやり方を少しでも残したいと思う経営者や社員の気持ちは強いだろうが、新しい企業としてのやり方を議論していくべきということになる。

そして、嫌がらせをしてしまう人は、変化全般に対して強い恐れを持つ傾向があると弓代表は指摘し、「前向きに捉える努力を」と、促す。

「何か起こったときに、『なんでこんなことが起こったんだ』という人と、『「プランドハップンスタンス(計画された偶発性)』として、チャンスと捉えるかでその後の人生が違うものになると思います」。

プランド・ハプンスタンス理論(Planned Happenstance Theory:計画された偶発性理論)
1999年にスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱したキャリア理論。
クランボルツ教授らは、数百人に及ぶ成功したビジネスパーソンのキャリアを分析したところ、
その内の8割が「いまある自分のキャリアは予期せぬ偶然に因るものだ」と答えたという結果を得た。
著書「その幸運は偶然ではないんです!(J.D.クランボルツほか、ダイヤモンド社)」

この姿勢は、リストラなど想定外の事態に直面した際こそ、その後の人生に違いをもたらすものになるという。

次回は、従業員にとってのまさに一大事、M&Aによってリストラを宣告されても、動じないためにどうすべきかをお伝えする。

取材・文:M&A Online編集部

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株式会社キャリアバランスについて

株式会社キャリアバランス 代表取締役 弓ちひろ(ゆみ・ちひろ)弓ちひろ
1級キャリコンサルティング技能士(国家資格) JCDA会員 国家資格キャリアコンサルタント養成講座講師。
電子機器メーカー退社後独立。フリーアナウンサー業と共に、コンサルティング会社等に所属し、キャリア開発、マネジメントスキルなど企業人の能力開発に携わる。株式会社キャリアバランス設立後、企業、行政、大学などでキャリアカウンセリングや キャリア開発系のプログラム開発・管理職研修の講師を務める。 企業研修および講師経験は25年間に渡り、年間200回を越えるペースで講演を行っている。 これまで延べ1500人のキャリアカウンセラーを世に送り出している。現在は、後進養成のほか、講演・メディアを通じ、ダイバーシティの推進支援に力を注いでおり、特に企業における女性の活躍推進のための支援に取り組んでいる。著書に働き続ける女性を応援した「無理しないほうがうまくいく!ナチュラルキャリア実践術(朝日新聞出版)」がある。

株式会社キャリアバランス 取締役 赤堀吉昭(あかほり・よしあき)
キャリアコンサルタント(国家資格)。2級キャリコンサルティング技能士(国家資格)。
神戸大学大学院総合人間科学研究科修了後、総合商社へ入社。総合商社では人事部にて、採用のほか研修等の企画・講師、新規設立会社の人事制度設立業務や関連子会社への採用コンサルティング、また航空機ビジネスを行う営業部署にて欧米企業の事業コンサルタントに従事。2009年から現職。内定率100%の就職活動塾を主宰しているほか、主に20代のビジネスパーソンを中心に、キャリア開発とビジネスセンス向上のためのビジネス塾を運営している。
詳しくはこちらから http://www.careerbalance.co.jp/