新生銀行TOBにSBIが主張する「株価引き上げ」効果はあるか

alt
(Photo By Reuters)

SBIホールディングス<8473>の新生銀行<8303>に対するTOB(株式公開買い付け)が敵対的買収に発展する可能性が高まった。SBIは大手金融機関では唯一、公的資金を返済していない新生銀行を再建し、完済を実現するプランを提案。提案を受けた新生銀行は「実現の可能性が極めて低い」と反発しているのだ。

TOBと公的資金返済は両立しない?

SBIが提案したのは、同社がTOBで新生銀行株の48%を上限に取得して連結子会社化する一方、自社株買いなどで一般株主の比率を引き下げる。国とSBIの議決権が合わせて90%に達した段階で上場を廃止し、国の保有株を買い取って公的資金を返済するというスキーム。

これに対して新生銀行は公的資金を完済するには、国の保有株を1株7500円程度で買い取らねばならない。現在、SBIのTOB価格は同2000円。SBIのスキームに従えば、最終的に少数株主の株式を強制的に買い取る「スクイーズアウト」を実施することになる。一般株主にとってはスクイーズアウトまで待つ方が5500円も高く売れるので、TOBは不成立に終わるのではないかと指摘している。

スクイーズアウトに当たり相対取引で国の保有株のみ7500円で買い取って、一般株主からは2000円でしか引き取らないとなると、少数株主に対する差別的な取り扱いとなり、訴訟リスクを負うことになる。

もちろん同スキームの実現可能性はゼロではない。SBIが同2000円のTOBで新生銀行を連結子会社化し、いずれ業績を向上させて株価を上昇させ、その上でTOBで国と残る少数株主の保有株を同7500円で買い取り、全株式を取得する。少数株主は現在のTOBで確実に2000円を手にするか、あるいは将来の業績向上に期待して未来の7500円でのTOBを待つかの選択になる。

SBI傘下に入れば本当に株価は上がるのか?

SBIの北尾吉孝社長は「地銀の株価は安すぎる。わが社と組めばもっと値上がりする」と地方銀行に資本提携を働きかけ、現在は島根銀行、福島銀行、筑邦銀行、清水銀行、大東銀行、東和銀行、きらやか銀行(山形市)と仙台銀行(仙台市)を傘下に置く じもとホールディングスに出資している。

SBIが資本提携している7社の、この半年間の株価を見てみよう。北尾社長の発言通り、株価は上昇しているのだろうか?実はこの半年間で株価が上昇しているのは2社、下落しているのは5社となった。株価が最も値上がりしたのは大東銀行で、半年間に4.6%値上がりしている。反対に最も値下がりしたのは東和銀行の-17.2%だった。

ただ、同期間は日経平均株価も7.3%値下がりしている。それを加味すると、日経平均よりも下落幅が小さかったのは3社、大きかったのは4社だった。7社平均では7.5%の値下がりで、日経平均を0.2ポイント下回っている。株価だけを見れば、SBIとの資本提携には目立った「株価引き上げ」効果はなかったようだ。

半年間の株価の推移
社名 4月6日 10月6日 変動率 日経平均との差 出資比率
島根銀行 688 582 -15.4% -8.1% 28.73%
大東銀行 674 705 4.6% 11.9% 18.33%
じもとホールディングス 775 670 -13.5% -6.2% 18.19%
福島銀行 250 259 3.6% 10.9% 17.86%
筑邦銀行 1785 1620 -9.2% -1.9% 2.98%
清水銀行 1677 1587 -5.4% 1.9% 2.46%
東和銀行 661 547 -17.2% -9.9% 最大で1%
7社平均 -7.5% -0.2%

もっとも資本提携している7社の出資比率は、最大でも島根銀行の28.73%に過ぎない。全てマイノリティー出資で、経営への影響力は小さい。SBIは新生銀行を連結子会社化する方針で、TOB成立後は経営を完全にコントロールする見通しだ。

そうなると経営に深く関わるSBIが、どこまで新生銀行の株価を引き上げることができるかがカギになる。ただ悩ましいのは株主が「SBI傘下で新生銀行の株価が上がる」と確信すれば、現在のTOBへの応募を見送る可能性が高いこと。一方、TOB後の株価引き上げは難しいと判断されれば、新生銀行の経営陣のみならず国もTOBに難色を示すだろう。いずれにせよSBIは難しい舵取りを迫られそうだ。

文:M&A Online編集部