「東急ハンズ」は「カインズ」に変わってしまうのか

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東急ハンズ渋谷店

ホームセンター最大手のカインズ(埼玉県本庄市)は2022年3月31日に、東急不動産ホールディングス<3289>子会社の東急ハンズ(東京都新宿区)の全株式を取得し、子会社化する。

東急ハンズはDIYを中心に新たな生活様式を提案する小売業態の先駆者的存在として知られるが、コロナ禍で業績が悪化しており、カインズの傘下で経営を立て直すことになった。

一方、カインズは郊外型の店舗が多く、都心を中心に店舗展開している東急ハンズを子会社化することで、新たな客層の開拓が可能と判断した。

子会社後も当面は、東急ハンズの店名を使用するが、いずれは変更する計画で、変更の際にはカインズ色が強まりそうだ。半世紀近い歴史を持つ東急ハンズは、カインズに変わってしまうのか。

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M&Aというよりはパートナー

カインズの高家正行社長は、2021年12月22日の会見で「東急ハンズの店舗をカインズの店舗に変えていくことはない」と、東急ハンズのカインズ化をきっぱりと否定した。

同社はこれまでM&A(他企業の子会社化)は実施しておらず、これについては「M&Aを否定していたわけではないが、規模拡大のためのM&Aは考えていなかった」とし、今回の東急ハンズの子会社化についても「M&Aというよりはパートナーとして名乗りを上げた」と対等に近い関係を強調する。

両社が同質化することなく、それぞれの価値や個性を磨き上げることに重点を置き、両社が互いをパートナーとすることで、それぞれが目指してきた「新たなDIY文化の創造」を実現できると判断したという。

では「新たなDIY文化の創造」とは何なのか。高家正行社長は、「困った時にカインズに行く」「何か始めたい時にハンズに行く」「家事を少しでも楽しく、楽に、早くできるようにする」「暮らしを自分らしくする」といった言葉で説明する。

これは、日曜大工という言葉で説明されてきたDIYに留まらず、調理、洗濯、掃除、アクセサリーづくり、キャンプ、ガーデニング、仕事、勉強、さらには手を動かすことや考えることなどすべてをDIYとして広く捉えて、事業展開することを意味する。

こうした行動を日本に根付かせ世界に広げていくことが「新たなDIY文化の創造」だという。

具体的には、カインズのオリジナル商品開発力を活用したハンズ商品の開発、物流仕入れ機能の共通利用やサプライチェーンの効率化などを進める一方、ハンズが開発した商品をカインズの店舗で販売することなどにも取り組む計画だ。

ハンズは2期連続の当期赤字

東急ハンズは1976 年に創業し、「手の復権」を掲げ、DIY を中心とした提案型ライフスタイルショップとして成長してきた。現在、国内海外合わせて86店舗(フランチャイズ24店舗を含む)を展開している。

2020年3月期はコロナ禍で業績が悪化し、13億3400万円の当期赤字に陥った。2021年3月期は当期赤字幅が71億3600億円に拡大するなど、厳しい経営状況にある。

カインズは群馬県を地盤とするベイシアグループの中核企業で、設立は1989年。2021年2月期の売上高は4854億円で、現在の店舗数は227店に達する。

ベイシアグループは物販チェーン6社を中心に28社からなる組織で、2021年2月期のグループ全体の売上高は1兆271億円となった。グループの母体はショッピングセンターチェーンのベイシアだが、カインズはベイシアの売り上げを上回り、グループ最大企業となっている。

【東急ハンズの業績推移】単位:億円

2019年3月期 2020年3月期 2021年3月期
売上高 973.67 965.28 631.13
営業損益 7.05 1.81 ▲44.73
経常損益 6.14 0.85 ▲46.10
当期損益 1.72 ▲13.34 ▲71.36

文:M&A Online編集部