ブライダル企業「経営危険度ランキング」超大手も苦境に

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ワタベが事業再生ADRを申請、大手も苦境が続く

ブライダル大手のワタベウェディング<4696>が事業再生ADRを申請しました。同社は海外ウェディングへの依存度が高く、新型コロナウイルス感染拡大による渡航制限でキャンセルが増加。3月末に支払期限を迎える借入金の返済が困難になりました。

ワタベウェディングが事業再生ADRを申請する前の決算では、8億6,300万円の債務超過に陥り、100%の維持が望ましいといわれる流動比率は54.2%まで低下していました。

ウェディング需要の回復には時間がかかるとみられており、ブライダル企業の苦境は続きそうです。今回は、ブライダル企業の経営危険度をランキング形式で紹介します。

下記のブライダル企業経営危険度ランキングは、経営の安全性を見る3つの指標(自己資本比率、流動比率、総支払利息比率)をまとめたものです。自己資本比率の基準値を30%、流動比率を105%、総支払利息比率を1%として設定し、基準値からの差異をスコアリングして危険度としました。業界の一般的な数値を基準値として設定しています。

数字はすべて直近の決算のものです。

ブライダル企業経営危険度ランキング

危険度が最も高いのはテイクアンドギヴ・ニーズ

危険度が最も高くなっていたのはテイクアンドギヴ・ニーズ(T&G)<4331>でした。T&Gは全国61店舗87会場を運営している業界最大手の一つで、2019年4月から2020年3月までの1年間に13,000組の結婚式を手掛けていました。

しかし、緊急事態宣言によって2020年5月の取扱数は前年比0.3%にまで激減。2021年に入っても組数は42.1%で半分も回復していません。

売上が前期比70%以上も減少したT&Gは、海外ウェディングを手掛ける子会社グッドラック・コーポレーション(品川区)を2020年9月にケン不動産リース(港区)に売却しました。

再編を進めたものの、国内の事業規模が大きく財務状況は改善していません。

2020年12月末の時点で自己資本比率は20.0%。基準となる30.0%から10ポイント下回りました。短期的な支払い能力をみる流動比率は43.4%。業界基準となる105.0%を大きく割り込んでいます。事業再生ADRを申請したワタベウェディングの流動比率は54.2%でしたが、それを下回る水準となっています。

T&Gはこの状況を打開するため、第三者割当増資を4月に実施する予定です。農林中央金庫などを割当先として30億円を調達する計画。しかし、2021年3月期で180億円程度の赤字となる見込みです。前事業年度に237億円あった純資産は12月末で102億円まで減少。損失額に対する調達額が小さく、コロナ禍の長期戦に持ちこたえられるかはわかりません。

T&Gは売上に対する支払利息が占める割合が突出して高いのも特徴的。基準値1.0%に対して2.0%となりました。苦しい戦いは続きそうです。

2位は自己資本比率が1.3%まで低下したジェイグループホールディングス

危険度総合第2位は名古屋駅前の結婚式場「ルーセントタワー」の運営やレストランウェディングを手掛けるジェイグループホールディングス<3063>です。居酒屋「芋蔵」なども運営しており、飲食店とブライダルのダブルパンチとなりました。

自己資本比率が1.3%と極めて低く、債務超過寸前です。ただし、ジェイグループホールディングスは不動産業も行っており、固定資産の売却で資金を調達しています。2020年6月には名古屋のビルを10億円で譲渡しました。また、12月23日に日本政策金融公庫から資本性劣後ローンによる9億円の資金調達をすると発表しました。不動産の売却と資本増強で需要回復を待つことになります。

3位はMSワラントで資金調達したDDホールディングス

3位は結婚式場「京都祝言」やレストランウェディングを手掛けるDDホールディングス<3073>です。自己資本比率は2.0%とこちらも債務超過に近いところまで落ち込みました。また、流動比率も60.3%でT&G、ブラスに次いで3番目に悪い水準です。

実は上位3つの中で最も困難に直面しているのがこのDDホールディングスです。DDは11月20日にモルガン・スタンレーMUFG証券を引き受け先とした新株予約権を発行して30億円を調達すると発表しました。いわゆる「行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)」です。なりふり構わない手段で資金調達をせざるを得ない状況に追い込まれています。

買収を繰り返して成長してきたDDはのれんが31億6,700万円積み上がっていることも弱点の一つ。純資産の2.3倍にものぼる額です。需要が回復することなく、減損へと至れば純資産が一撃で吹き飛ぶ額です。

そして、財務の困難な状況と同じく経営を揺るがしているのが、役員だった稲本健一氏の辞任です。稲本氏はDDが一時子会社化していたゼットン<3057>の創業者。DDの松村厚久社長とは盟友と呼ばれた仲で、長年病気と闘いながら会社を牽引してきた松村氏の後継者と目されていました。コロナの混乱で鍵となる役員を一人失いました。

今後は子会社の整理を進めるものと考えられますが、財務状況の悪化に加えて事業を推進する力も失っており、ランキングの中では最も苦戦する会社の一つであることは間違いありません。

■自己資本比率の低い企業

順位 企業名 自己資本比率 危険度
1 ジェイグループホールディングス 1.3% 9.6
2 DDホールディングス 2.0% 9.3
3 一家ダイニングプロジェクト 7.0% 7.7
4 ゼットン 10.1% 6.6
5 エスクリ 15.1% 5.0
6 クラウディア 18.1% 4.0
7 テイクアンドギヴ・ニーズ 20.0% 3.3
8 ブラス 20.1% 3.3
9 ひらまつ 20.7% 3.1
10 一蔵 21.5% 2.8
11 ツカダ・グローバルホールディングス 26.3% 1.2
12 アイ・ケイ・ケイ 43.8% -4.6

■流動比率の悪い企業

順位 企業名 流動比率 危険度
1 テイクアンドギヴ・ニーズ 43.4% 5.9
2 ブラス 47.8% 5.4
3 DDホールディングス 60.3% 4.3
4 アイ・ケイ・ケイ 65.1% 3.8
5 エスクリ 66.5% 3.7
6 ゼットン 68.2% 3.5
7 クラウディア 71.2% 3.2
8 一蔵 79.2% 2.5
9 ひらまつ 85.2% 1.9
10 一家ダイニングプロジェクト 86.9% 1.7
11 ジェイグループホールディングス 106.3% -0.1
12 ツカダ・グローバルホールディングス 159.5% -5.2

■総支払利息比率が高い企業

順位 企業名 総支払利息比率 危険度
1 テイクアンドギヴ・ニーズ 2.0% 9.6
2 ツカダ・グローバルホールディングス 1.6% 5.8
3 ジェイグループホールディングス 1.4% 3.9
4 ひらまつ 0.9% -0.9
5 エスクリ 0.7% -2.7
6 クラウディア 0.7% -3.4
7 DDホールディングス 0.6% -4.0
8 アイ・ケイ・ケイ 0.4% -6.3
9 一家ダイニングプロジェクト 0.3% -6.9
10 ブラス 0.3% -6.9
11 ゼットン 0.3% -7.3
12 一蔵 0.2% -8.3

文:麦とホップ@ビールを飲む理由