数あるM&A専門書の中から、新刊を中心にM&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。選書の参考にしてみては。
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『M&Aで創業の志をつなぐ 日本の中小企業オーナーが読む本 』 中村悟著、日経BP刊
事業承継が中小企業経営者の切実な問題として浮上して久しい。2025年までに後継者不在を理由に120万社を超える中小企業が廃業の危機にあるといわれる。こうした中、従来主流だった親族や従業員に代えて、M&Aを通じて第三者にバトンタッチするケースが急速に増えつつある。
著者は中小企業M&Aの現場を最も知る人物の一人。M&Aキャピタルパートナーズを2005年に立ち上げ、2013年に東証マザーズに上場(14年に東証1部)。現在、年間140組以上のM&A案件を仲介している。かかわった数多くの案件の中から、厳選した10社の事例を紹介した。M&Aを決断した過程は文字通り、十人十色だということが分かる。
鍛造品製造の羽咋金属(石川県羽咋市)は1968年の創業から50年の2018年、長年の取引先だった大手ベアリングメーカーのNTNの傘下に入った。決断したのは創業者の長女で社長を引き継いだ平美都江さん。
リーマンショックで130億円あった売上高が10分の1まで激減するという経営危機を乗り越え、父親の会社を守ってきた。業績は回復したものの、中小企業単独での成長に限界を感じ、M&Aを模索した。
北海道で「ごまそば遊鶴」を10店舗経営する、はしもと(札幌市)は大手外食のクリエイト・レストランツ・ホールディングスに全株式を譲渡した。元は橋本毅社長の両親が1960年に創業。一時、M&Aによる規模拡大を検討したが、自身の病気を機に、M&Aによる売却に方向転換し、条件として東証1部上場企業に限定したという。
このほかの顔ぶれは、▽家具卸売りのミヤコ商事(東京都中央区)▽ネジ製造の山添製作所(埼玉県川口市)▽ウエディングプロデュースのかわの(広島市)▽保育・教育サービスのアソシエ・インターナショナル(東京都目黒区)▽キノコ栽培のミスズライフ(長野県飯綱町)▽スポーツクラブ運営のブルーアースジャパン(甲府市)▽人材サービスのメイン(東京都港区)▽医療用品販売のアズテック(東京都文京区)。
大手企業だけでなく、株式の譲渡先として投資ファンドを選んだケースも3件紹介している。
本書で取り上げた10社の事例に共通するのは事業承継を先送りせず、M&Aを有力な選択肢としたことにある。企業価値が残っているうちが相手を見つけるチャンスだということだ。タイミングを逸すれば、譲渡条件が悪くなり、業績が手をつけられなくなれば、買い手の出現はおぼつかない。
自分で立ち上げたり、親から引き継いだりした会社を誰にどうやって託すのか。そんな問いに対する「解」が見つかるかもしれない一冊だ。(2019年12月発売)
文:M&A Online編集部