アパレル・サバイバル|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。

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「アパレル・サバイバル」齊藤 孝浩著(日本経済新聞出版社刊)

社長の宇宙旅行やツイッターでの炎上騒動で注目を集めたアパレルネット通販のZOZO<3092>。しかし、ZOZOがアパレル市場を一変させた「ゲームチェンジャー」であることは間違いない。本書はZOZOをはじめとするアパレル販売の「ゲームチェンジャー」を取り上げ、それらの戦略と業界・社会に与える影響を明らかにする一冊だ。

アパレル・サバイバル
アパレル・サバイバル

著者は「ファッション流通改革は10年周期で起こる」と分析。1990年代後半に「自社開発による低価格商品の品質の向上」、2000年代後半には「トレンドデザインの低価格化」が起こり、2010年代後半の現在は「ファストファッションを下回る、さらなる低価格化」「デジタルコマース化」に代表される大変革期を迎えているという。

本書では「ファッション流通革命は欧米から起こる」として、欧米アパレル市場の現状を紹介している。たとえば、低価格アパレルチェーンの英プライマーク。これは欧州で増加している低所得の移民を対象にしたビジネスの成長を取り上げている。

日本でもファーストリテイリング<9983>が展開するユニクロの低価格版「ジーユー」や、しまむら<8227>、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス<7532>が展開するドン・キホーテのアパレル部門といった低所得層向けブランドが都市部で出店を増やすなど、同様のトレンドが見て取れる。

さらにデジタルコマースにより毎日100点の新商品を発売し、常時2万9000アイテムを販売するウルトラファスト・ファッションの英ブーフーなど、今後の日本市場でも登場しそうな新業態について紹介している。

アパレルサービスのトレンドは、消費者を「ショッピングのストレス」から解放することだという。店舗を訪れたのに、在庫切れや欲しい商品を取り扱ってなかったという残念な経験は誰でもあるだろう。米国ではデジタル化により、近隣店舗の在庫状況をオンラインで公開・販売し、店舗で受け取る「ストアピックアップ」が普及してきた。

ネット販売と実店舗を組み合わせた、いわゆる「オムニチャンネル化」だ。試着予約と組み合わせるケースも増えており、日本のアパレル販売でも「実店舗生き残り」のカギとなるかもしれない。

日本のアパレル販売については、ZOZOの百貨店や専門店で扱っていたセレクトショップ商品から低価格商品、そして自社プライベートブランドまでの幅広い品ぞろえ戦略や、事実上の割引戦略などを紹介。ZOZOが成功した理由を明らかにしている。

著者の視線はアパレルだけでなく、アマゾンやフリマアプリのメルカリ<4385>、トランクルームの寺田倉庫などの「異業種」にも注がれている。今後10年のアパレル市場の行方を知りたい人には必読の書だろう。(2019年2月発売)

文:M&A Online編集部