『蒼いトゥーム・ストーン 企業買収小説』|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中からM&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。連載100回記念となる今回は、絶版本の企業小説を紹介します。編集部おすすめの100冊はこちらから

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『蒼いトゥーム・ストーン  企業買収小説』 伊門 朔 著・市田印刷出版 刊

タイトルのトゥーム・ストーンは墓石を意味する。M&A業界では買収が成立したとき、プラスチックでできた長方形の板を作り、記念として残す習慣がある。形が墓石に似ていることから、その名が付いたとされる。

本書の舞台は関東港湾。全国の港湾の利用権を一手に握る同社の前では、名だたる海運会社もひれ伏すしかない。そんなガリバー企業を一代で育て上げた実力社長・山崎正義が倒れる。後継者不在、既得権益に依存してきた企業体質のツケが回りかねない事態に…。

蒼いトゥーム・ストーン

会社が大きく揺らぎ始める中、海運大手3社の末席、明星海運から合併の申し入れが舞い込む。企業規模が同程度で、対等合併を目指すものだったが、関東港湾の取締役会は反対票が勝り、合併話は消滅。すると、今度は明星海運が力ずくの手段に出る。関東港湾に敵対的TOB(株式公開買い付け)による買収を仕掛けてきたのだ。

関東港湾が対抗策として選んだのはMBO(経営陣による買収)。紀尾井ファンドという名の投資ファンドと組んで、明星海運を上回る条件でTOBを開始した。MBOによる非公開化は究極の買収防衛策とされる。

軍配が上がるのは明星海運か関東港湾か。実は両社の背後でアドバイザーを務めるのはメガバンクの飛鳥銀行。二股をかけていたのだが、そこには色と欲、行員同士の足の引っ張り合いが絡んでいたのだ。

ラストはどんでん返しが待っている。TOBの攻防戦を制した関東港湾だったが、勝利の余韻にひたるのは一瞬でしかなかった。その結末は読んで確かめてほしい。

本書が出た2010年当時といえば、村上ファンドの暗躍や海外投資ファンドの上陸をはじめ、日本でアクティビストの登場が本格化した直後。タイムリーな一冊だったといえる。

版元を見る限り、事実上の自費出版だったと思われる。著者の伊門朔さんの経歴は巻末の奥付に記されておらず、その後の執筆活動など去就も定かでない。(2010年1月発売)

文:M&A Online編集部