ビズサプリの久保です。日産のカルロスゴーン会長が金商法違反容疑で逮捕されました。 これは有価証券報告書における役員報酬の虚偽記載の疑いということです。それ以外に同氏による不正もあったようです。会社は、第三者委員会により調査をするそうですので、今後いろいろと明らかになると思います。
さて、今回の話題は米国における物言う株主の動向です。日本でも今後同様の動きが見られることになるかもしれません。
アクティビストは「物言う株主」とも呼ばれ、株式を買い占めた後、配当の増額や事業の切り売りなどなどを主張し、株価が上がったところで売り抜けて大金を儲けるような人たちと、一般には考えられているのではないでしょうか。
有名な村上ファンドは、東京スタイルに対して議決権争奪戦(プロキシ―ファイト)を行ったのち、ニッポン放送株式買い付けに関するインサイダー取引で実刑判決を受けています。しかし、最近では、出光の創業家に対して昭和シェルとの経営統合を受け入れるよう助言をしたことが報道され、少しイメージが好転しているとは言え、悪者のイメージが付きまといます。
一方、野村證券(ホールディングス)に対して、社内のトイレを和式にすべきだという不合理な提案をする株主もいました。これも物言う株主ではありますが、株主提案権を濫用しているだけであり、ここでのアクティビストには含まれません。
いずれにしても、多額の資金によって株式を買い占めて、会社を手玉に取る「悪玉株主」というのがアクティビストのイメージだと思います。
最近米国では機関投資家がアクティビストの主張を支持するようになり、結局のところ長期的な企業価値が上がっている上場会社が増えてきているようです。悪者イメージのアクティビストが、株主や会社のために良い提案をする人たちに変わってきたそうです。それはなぜでしょうか、またそれにはどのような背景があるのでしょうか。一橋大学大学院の田村俊夫教授によれば次のとおりです。
米国では、年金、保険、投信などの機関投資家による上場会社の株式所有比率が増加しています。個人株主が大部分であった米国では、今や上場会社株式の70%を機関投資家が所有しています。これは特に年金ファンドの資金が増加していることが要因です。
昔、米国ではウォールストリート・ルールが支配していました。それは、そもそも株式投資は経営者を信頼して行うものであり、その経営に不満があれば株式を売却すればよいという考え方です。経営者の経営が悪いと株が売られ、株価が下がるので、経営者が経営を改めるという市場原理が働くという考え方です。
しかし、機関投資家は薄く広く多くの会社に投資をするため、もはや特定の会社の経営に不満があったとしても、株式を売却することができなくなってしまいました。例えば年金は典型例です。多額の資金を運用するためには分散投資をする
必要があります。
インデックス投信は、企業業績に関わらず、株価と連動するように運用します。このようなパッシブ運用ではなく、アクティブ運用を行うファンドであっても、機関投資家が株主権を行使して、会社の経営方針を変えさせることをするための人材がおらず、そのコスト負担をすることもできません。
すなわち、機関投資家は、会社の経営戦略を十分調査研究して長期的な視点で投資するのが本来の姿であることは認識しているものの、その調査研究を丹念に行い、各会社の経営方針に反対する意見を提案するところまではできないというのが現状です。
これに対して、アクティビストは少数の会社に集中投資するため、投資先の企業を研究することができます。アクティビストは特定の上場会社の事業環境や経営戦略を徹底的に調査し、その結果に基づいて株式を買い付けます。彼らは優秀な人材を抱えており、場合によっては業界に詳しい元経営者をヘッドハンティングしています。
従って、これらのアクティビストの提案は、短期的な利益を得るために自分勝手な無理難題を会社に押し付けるようなものではありません。アクティビストが提案する経営方針の変更は、プロが徹底的に調べ上げた結果に基づいているので、
会社の経営者にとっても容易に反対できない戦略であることが多いようです。
田村教授によると、アクティビストは1000億円ぐらいを1社に投資するようなことをして、物言う株主として経営方針の変更を迫るとのことです。しかし、米国の時価総額が大きい大会社の場合、アクティビストが1000億円出資したとしても、持株比率が1%に満たないことがあります。例えば、時価総額が100兆円を超えるアップルの株式を1000億円分買ったとしても、0.1%しか取得できません。
それでは株主権を行使して経営方針を変更させることはできません。多くの株式を所有している機関投資家の賛同がないと、経営を変えることはできません。
ここで、アクティビストの提案が非常に筋の通るものだったらどうでしょうか。機関投資家としても「渡りに船」の状況になります。
前述のとおり機関投資家には、特定の会社について詳しく調べる人材もお金もありません。アクティビストが丹念に調べ上げた結果に基づき、経営方針の変更をすれば企業価値が上がるというのであれば、その提案に乗らない手はありません。
このように最近では、機関投資家がアクティビストの主張を積極的に後押しするようになったというのです。しかし、実際にこれらの株主の提案に基づいて会社が経営方針の変更をしたことによって、その企業価値が向上したのでしょうか。
米国でこの分野で大きな影響力があるべブチャク教授(ハーバードロースクール)が、1994年から2007年のアクティビストの活動約2000件を実証分析した結果、「アクティビスト活動が長期的な業績を低下させる統計的根拠はない」、「アクティビストの株式売却後、長期的に株価が下落する傾向は見いだせない」などの結論が出されました。
米国ではその後も同様の実証分析が行われていますが、この結論を否定するような結果は出ていないとのことです。ということは、アクティビスト活動は、企業業績や株価に良い結果をもたらすことはあるとしても、悪い結果をもたらすことはないという結論になります。
このように、これまで悪玉だと考えられていたアクティビストたちに対する考え方が、最近米国では大きく変わったのが現状のようです。すべてのアクティビストが善玉であるとは限りませんが、アクティビストは悪者であるという一方的な見方は改める必要がありそうです。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。