【ビックカメラ】再編が続く家電量販店業界で「M&A巧者」への転換なるか?

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提携解消が続いたビックカメラ

 ビックカメラ<3048>は、売上高7790億円を誇る日本を代表する家電量販店である。業界内では売上高第2位だが首位のヤマダ電機<9831>(売上高1兆6127億円)とは倍以上引き離される形となっている。ヤマダ電機がM&Aを通じて住宅事業に進出し、多角化する一方で、ビックカメラは本業から大きく離れる事業展開は今のところ見られない。ただ、自社でリフォーム事業を立ち上げており、今後はM&Aを含めた事業展開に関心が集まる。

 ビックカメラは、同業のエディオン<2730>と経営統合を目指して2007年2月に資本業務提携をを締結、同年9月にベスト電器<8175>第三者割当増資30億円を引受け、その後も段階的にベスト電器の株式を追加取得し、2008年10月に持分法適用会社とした。しかしエディオンとは2009年に、ベスト電器とは2013年に資本業務提携を解消している。一方で2012年にコジマ<7513>を子会社化し、現在経営再建中である。

【企業概要】出店場所を絞って店舗ごとの採算を重視した展開

 ビックカメラは新井隆二氏が1968年に群馬県高崎市で創業した「高崎DPセンター」という、いわゆる写真現像取次所がもとになっている。ビックカメラの創業自体は、家電量販店として出店を始めた1978年。ちなみに、ヤマダ電機も同じ群馬県発祥の企業で、創業はビックカメラ創業の5年前、1973年である。

ビックカメラは、創業の高崎東口店を皮切りに、現在は39店舗(売上高4266億円、1店舗当たり売上高109億円)を展開している。いずれの店舗も都市圏を中心に出店し、1店舗ごとの床面積も広いところが特徴である。

 一方で、ビックカメラが買収したソフマップやコジマの売上高は2016年8月現在で、それぞれ589億円(35店舗、1店舗当たり売上高16億円)、2262億円(139店舗、1店舗当たり売上高16億円)となっている。コジマは一時期すべての都道府県に出店していたこともあり、その積極展開がビックカメラの収益率の悪化を招いていた。そのような点では、ビックカメラは出店先を絞りながら、1店舗ごとの採算を重視してきた企業と言える。

【経営陣】2代目社長の宮嶋宏幸氏は初の大卒採用

経営陣は下表のとおり。創業者の新井氏が経営の第一線から離れて以降、経営陣に同族色はない。ちなみに、現社長の宮嶋宏幸氏はビックカメラ初の大卒採用者であり、創業者の新井隆二氏の指名で就任した2代目にあたる。

役職名 氏名 経歴
代表取締役社長 宮嶋 宏幸 昭和59年3月当社入社。平成8年4月当社取締役池袋本店店長
代表取締役副社長 川村 仁志 昭和51年4月株式会社ビックカラー(昭和53年5月に株式会社ビックカメラ(高崎)に)入社
取締役 専務執行役員 野口 進 昭和50年4月株式会社西友ストアー(現合同会社西友)入社
取締役 専務執行役員内部統制担当 浦西 友義 昭和49年4月大蔵省(現財務省)入省 平成10年1月在英国日本大使館公使

2016年8月時点、有価証券報告書を元に作成

【株主構成】創業者の資産管理会社が筆頭株主

 筆頭株主のラ・ホールディングスは、創業者・新井氏の資産管理会社にあたり、実質的には個人株主と言える。その意味では、新井氏は経営の第一線からは距離を置いているものの、資本的には大きな影響力を有している。

 その他株主は、機関投資家や個人投資家が占める一方、TBSが法人株主として名を連ねている。ビックカメラは2006年にTBSの第三者割当増資を引き受け(79億円)行った。これはTBSオリジナル映像の放映や、TBSグッズの販売、Webサイトの相互リンクなどの業務提携に絡むものである。

ビックカメラの大株主

氏名又は名称 所有株式数(千株) 持ち株比率(%)
(株)ラ・ホールディングス 18,662 10.23
日本トラスティ・サービス信託銀行 17,448 9.56
みずほ信託銀行 13,257 7.26
SMBC信託銀行 8,898 4.88
三井住友信託銀行 8,618 4.72
野村信託銀行 7,500 4.11
SMBC信託銀行 6,800 3.73
(株)TBSテレビ 6,119 3.35
日本マスタートラスト信託銀行 4,647 2.55
野村信託銀行 3,758 2.06
95,707 52.45

2017年2月時点、有価証券報告書を元に作成

【M&A戦略】同業を中心にM&Aを推進

 ビックカメラのM&A戦略を見ると、下表のように、同業ないし周辺業種のM&Aを推進してきたことがわかる。直近では旅行会社への投資をしているものの、金額は微々たるものである。

 着目すべきは、エディオンとベスト電器との資本業務提携が両方とも解消となっていることである。ベスト電器はヤマダ電機の傘下に入ることになったため、業界首位の座はさらに遠のいた。

 個別のM&Aに目を向けると、2010年にソフマップを完全子会社にしているが、ソフマップは2016年8月期で2億円の営業赤字である。ところが、同社の売上高が589億円あることを考えると、ソフマップの完全子会社化はビックカメラの収益率の悪化を招いていると言え、このM&A自体が失敗だったと言わざるを得ない。救済色の強かったM&Aだが、当時から新品の電化製品の低価格化が続いており、中古製品市場の先行きも厳しいといわざるを得ない。

 また、2012年に子会社化したコジマも厳しい状況が続いている。M&A前の損益状況と、直近のものを比較した下表をご覧いただきたい。M&A前に3%あったコジマの営業利益率が、直近では1%にまで低下している。ビックカメラの営業利益率が3%強を維持できているのに対して、コジマは利益率が悪化しているという厳しい状況だ。

ビックカメラとコジマの損益状況

 詳細を見ると、販管費率が悪影響を与えていることがわかる。同業首位のヤマダ電機の販管費率と比較しても、高い水準である。一方で、売上総利益率は27%と、ビックカメラと同水準で、仕入れの一本化が成功していると思われる。上記をもってコジマのM&Aは失敗だったと断ずることはできないが、これからの取り組み次第では失敗だったと言われかねない状況で、販管費率の低減は急務と言える。

 なお、2014年12月にドコモショップ12店舗をM&Aにより買収しているが、現在、大手キャリアショップの多くが苦戦していることを考えると、このM&Aの成否もこれからの取り組み次第と言える。

ビックカメラの年表と主なM&A

年月 内容
1968年3月 新井隆二氏が群馬県高崎市で高崎DPセンターを創業
1978年5月 同社創業
2005年1月 丸紅などからパソコン等の中古買取をおこなうソフマップ(売上高1060億円、経常利益6億6000万円の株式19.84%を取得
2006年2月 ソフマップの第三者割当増資20億円を引き受け、株式保有割合を61.56%とし子会社化
2006年8月 ジャスダックに上場
2006年9月 TBSの第三者割当増資79億円を引き受け、株式3.2%を取得
2007年2月 エディオンとの経営統合を目指して、ビックカメラがエディオンの株式3%を58億円、エディオンがビックカメラの株式3%を37億円でそれぞれ取得し、資本業務提携を開始
2007年9月 ベスト電器(売上高3689億円、営業利益20億円)の第三者割当増資56億円を引き受け、株式2.86%を取得し株式保有割合を9.33%とする
2008年6月 東京証券取引所1部に上場
2008年8月 ベスト電器の第三者割当増資30億円を引き受け、株式5.53%を取得し株式保有割合を14.86%とする
2008年10月 ベスト電器の株式0.17%を追加取得し株式保有割合を15.03%とし、持分法適用会社化
2009年1月 虚偽記載を理由に監理銘柄に指定
2009年2月 エディオンとの資本業務提携を解消
2009年3月 監理銘柄指定が解除
2010年1月 ソフマップを株式交換(ビックカメラ:ソフマップ=1:0.005)により取得(普通株式の時価:15億円)し、同社を完全子会社化
2012年6月 コジマ(売上高3700億円、営業利益36億円)の第三者割当増資141億円を引き受け、株式50.06%を取得し、子会社化
2013年3月 ベスト電器との資本業務提携を解消
2014年12月 NTTドコモのショップ12店舗を運営するネプロモバイル関東など3社の全株式を取得し、完全子会社化
2015年12月 中国最大の旅行会社グループのLCCである春秋航空日本の第三者割当増資を引き受けるファンドに10億円を出資し、6%の株式を間接的に取得

M&A Online編集部作成

【財務分析】物流拠点の統合により営業利益率の改善を進める

 2012年8月期を除くと、売上総利益率、営業利益率は概ね改善傾向にあることがわかる。2012年8月期の低落は、アナログ放送からデジタル放送への移行に伴うデジタルテレビ需要等が一段落したことに起因している。

 特筆すべきは、コジマを買収した後の決算に当たる2013年8月期に売上総利益率、営業利益率ともに改善している点である。短期的な目線では、まずまずの結果を残したと言える。現在も利益率の改善のために、2016年10月時点で17か所ある拠点を1年間で9か所にまで集約する物流拠点の統合を打ち出しており、今後も販管費率が下がり営業利益率が改善することが予測される。

ビックカメラの売上高・利益率の推移

(単位:億円) 2009/8 2010/8 2011/8 2012/8 2013/8 2014/8 2015/8 2016/8
ビックカメラ 4,655 4,947 4,959 3,986 4,037 4,455 4,448 4,266
ソフマップ等 1,236 1,135 1,161 1,194 800 1,221 1,243 1,261
コジマ         2,817 2,622 2,261 2,262
5,891 6,082 6,120 5,180 7,654 8,298 7,952 7,789

 次に、セグメント別の売上推移を見てみよう。セグメント情報は、2009年に発覚した虚偽記載の影響を排除するため、2009年8月期以降の数値を採用している。また、上記のセグメントは有価証券報告書上で公表されているセグメントとは異なる点にご留意いただきたい。

 2013年8月期は、コジマ買収による効果が大きく、既存事業はむしろ減少傾向にあることが読み取れる。これは不採算店舗の撤退によるもので、利益率は改善している。そのため、積極的な施策とも言える。しかしながら、直近3年間の傾向から、現在の利益率を維持したまま規模を拡大することは難しいことも読み取れる。その意味では、ジリ貧になっていると言うことができる。


ビックカメラのセグメント別売上高

  2007/8 2008/8 2009/8 2010/8 2011/8 2012/8 2013/8 2014/8 2015/8 2016/8
売上高 565,751 630,740 589,177 608,274 612,114 518,057 805,378 829,833 795,368 779,081
売上総利益率 23.6 23.5 24.2 24.7 25.6 24.2 24.8 25.6 26.4 27.1
営業利益率 3.4 2.6 1.5 2.4 3.3 0.8 1.6 2.3 2.4 2.8

【株価】長期的に見ると、概ね安定傾向に

 ビックカメラの株価は日経平均と概ね連動し、一進一退を繰り返すものの、長期的に見ると安定傾向にあると言うことができる。なお、直近では2017年4月19日から同社が首都圏のネット通販で配達時間を延長するという報道を受け、20日から4日続いて大幅高で取引された。

株価推移グラフ

【まとめ】独自の商品・サービスでの差別化や他分野との複合化でのM&Aが課題

 ビックカメラの本業である家電量販店事業は、消費者動向がリアルからインターネットへ移行しつつある影響もあり、厳しい状況が続くことが予想される。

 EC事業にも注力を始めているが、先行者であるamazonや楽天の壁は高く、EC上でも厳しい価格競争にさらされることになる。そのような中、独自商品やサービス(例えば宅配サービス、ポイントサービスなど)での差別化や、他分野との複合化(例えばリフォームサービスと家電製品をセット販売するなど)が生き残りの選択肢として挙げられる。

 時代の流れがますます早くなっていることもあり、自社独自での事業の立ち上げにも限界がある。そのため、今後は上記のような切り口からM&Aが行われることになるのではないだろうか。

 同業のヤマダ電機はハウスメーカーのエスバイエルを、ノジマはキャリアショップを運営するIT系商社のITXをそれぞれ買収して多角化を進めている。これまでのビックカメラは「M&A巧者」とは言いがたく、競合他社に出遅れた感はあるが、本業が利益を出している今こそM&Aを仕掛けなければならない時でもある。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部

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