倒産した日本海洋掘削のスポンサーになった投資ファンド・アスパラントグループとは

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※画像はイメージ

2022年2月投資ファンドのアスパラントグループ(東京都港区)が、関連ファンド「SPC8号」を通じて日本海洋掘削(東京都台東区)に38億円の出資をしました。海洋油田の掘削設備・リグを運用する日本海洋掘削は、2018年3月期に155億円の債務超過に陥り、2018年7月に東京地方裁判所から会社更生手続きの開始決定を受けていました。

2019年3月にヘッジファンドのファラロンキャピタル(サンフランシスコ)と、国内の投資ファンド・マーキュリアホールディングス<7347>をスポンサーとする再生計画を立てていたものの、新型コロナウイルス感染拡大で契約を解除。アスパラントグループが新たなスポンサーとして手を挙げました。

アスパラントグループとはどのような会社なのでしょうか。この記事では以下の情報が得られます。

・アスパラントグループの概要
・投資先一覧
・日本海洋掘削が倒産した理由

創業者は事業再生のプロフェッショナル

アスパラントグループは2012年10月に設立した会社で、事業再生や事業承継、カーブアウトを得意としています。一案件当たりの投資金額は100億円程度まで。印刷や運送、外食、求人広告など、中堅企業を中心に投資をしています。居酒屋「さくら水産」のテラケン(東京都千代田区)を買収し、2019年3月に梅の花<7604>に16億3,200万円で売却しました。

2019年までで4つのファンドを組成しており、運用額は累計で910億円に上ります。2019年7月に500億円規模の「AG3号」への出資を締め切っています。

アスパラントグループの創業者で代表取締役社長を務めるのが中村彰利氏。中村氏は東京大学法学部を卒業した後、日本とアメリカの法律事務所で弁護士業務を経験しました。その後、投資銀行や投資ファンドで投資業務に従事しています。2003年5月に産業再生機構(東京都千代田区)の常務取締役に就任。2007年4月には日興プリンシパル・インベストメンツ(現:シティグループ・キャピタル・パートナーズ)の取締役副会長を務めています。

2001年2月に会社更生法の適用を申請したフェニックスリゾート(宮崎市)や、2004年6月に産業再生機構の経営支援を受けたスカイネットアジア(現:ソラシドエア)の再建に携わってきました。日本航空<9201>の再生では、会長補佐という肩書で稲盛和夫氏を支えました。

事業再生に対する深い知見と実績を持っています。

■アスパラントグループ投資先一覧

会社名 業種 出資内容 投資時期 エグジット
三浦印刷株式会社 ビジネスサービス 事業承継 2014年3月 2017年4月
株式会社テラケン 消費者サービス 事業承継 2015年1月 2019年5月
りんかい日産建設株式会社 ビジネスサービス 会社更生手続き終結支援 2015年3月 2016年9月
株式会社ヒューマニック ビジネスサービス 事業承継 2015年7月 2019年1月
株式会社駐車場綜合研究所 ビジネスサービス 事業承継 2016年1月 2018年6月
株式会社FILWEL テクノロジー 企業グループからの独立 2016年1月 2019年9月
さが美グループホールディングス株式会社 消費者サービス 企業グループからの独立 2016年10月 2018年6月
株式会社ヤマト 消費者サービス 事業承継 2017年3月 -
⾧崎運送株式会社 ビジネスサービス 企業グループからの独立 2018年1月 -
ユメックス株式会社 ビジネスサービス 企業グループからの独立 2018年8月 2019年5月
FCM株式会社 テクノロジー 企業グループからの独立 2018年12月 -
NJT銅管株式会社 テクノロジー 企業グループからの独立 2019年9月 -
丸喜産業株式会社 テクノロジー 事業承継 2016年11月 2019年10月
株式会社インフォマティクス ビジネスサービス 事業承継 2017年6月 2020年12月
株式会社ソード テクノロジー 企業グループからの独立 2018年2月 2021年1月
ファーマライズ ホールディングス株式会社 ヘルスケア 事業承継 2018年11月 -
アウトルックコンサルティング 株式会社 ビジネスサービス 事業承継 2019年3月 -
株式会社緑測器 テクノロジー 事業承継 2019年12月 -
ブレクスHD株式会社 テクノロジー 企業グループからの独立 2020年1月 -
株式会社タンケンシールセーコウ テクノロジー 事業承継 2020年3月 -
ディップソール株式会社 テクノロジー 事業承継 2020年9月 -
興人フィルム&ケミカルズ株式会社 テクノロジー 企業グループからの独立 2021年8月 -
日本海洋掘削株式会社 ビジネスサービス 会社更生手続き終結支援 2022年1月 -
株式会社ジョンマスターオーガニックグループ 消費者サービス 事業承継 2022年7月 -

公式ホームページより

天然由来化粧品にシリコーン混入でブランドが毀損

よく知られているのが、化粧品を扱うジョンマスターオーガニックグループ(東京都目黒区)の案件。この会社の前身は1991年に誕生したJohn Masters Organics(ニューヨーク州)でした。2007年にスタイラ(東京都渋谷区)が日本及び東アジアでの総代理店となり、天然由来のオーガニック化粧品というブランドイメージを確立しました。

2016年に投資ファンドのパルミラ・アドバイザーズ(ロンドン)が370億円で、John Masters Organicsとスタイラの株式を取得。ジョンマスターオーガニックグループがJohn Masters Organicsとスタイラを子会社化しました。

ジョンマスターオーガニックの化粧品は、天然由来成分が最大のセールスポイントでした。しかし、2017年9月にシャンプーなど一部の商品にシリコーンが入っていたと発表し、突然の自主回収を実施しました。アメリカの製造委託業者が不正を行っていたと明らかにしますが、消費者への説明は不十分でした。それが不信感を生み、ブランドイメージが著しく毀損します。

2022年6月にアスパラントグループがジョンマスターオーガニックグループの株式を取得しました。ジョンマスターオーガニックグループは2020年9月期に16億7,100万円、2021年9月期に3億200万円の純損失を計上しており、業績回復の道半ばにあります。

日本海洋掘削はなぜ倒産したのか?

日本海洋掘削は日本でただ一つの海洋掘削専門企業。石油メジャーから依頼を受け、海底の石油や天然ガス田の掘削を行います。日本海洋掘削は、リグと呼ばれる人工島型の海洋構造物と、掘削設備を備えたドリルシップの運用を行っています。

日本海洋掘削の元社長・市川祐一郎氏は、倒産時の記者会見で石油市況の急激な悪化で業績が傾いたと説明しました。2014年、日本海洋掘削は老朽化していたリグの代替物が必要となり、この時期に巨額の投資を決定しました。2014年といえば、原油価格が高騰していた時期です。

■原油価格とリグ数の推移

※日本海洋掘削2018年3月期決算説明資料

投資を決定した2014年ごろは、倒産前の2017年と比較してリグの稼働率が2倍程度ありました。作業料金は3倍あったといいます。原油価格の高騰が長期化すると判断し、大型投資へと踏み切ります。

日本海洋掘削の2014年3月期の売上高は前期比37.8%増の401億3,400万円、純利益は141.1%増の61億600万円でした。業績はかつてないほど絶好調でした。しかし、市況の悪化で2017年3月期の売上高は前期比57.6%減の153億7,600万円まで縮小。230億5,300万円の純損失を計上します。

原油価格が下がったことにより、石油メジャーが採掘への投資規模を縮小。プロジェクトの中止や延期、早期解約が相次ぎいました。ただし、このとき日本海洋掘削は自己資本比率が36.2%あり、財務体質が脆弱とまでは言えませんでした。

2018年3月期は売上高が前期比31.8%増の202億7,200万円まで回復。ところが過去に投資したリグの減損損失151億8,900万円を計上します。また、2014年に日本海洋掘削が発注したリグ「HAKURYU-15」の契約獲得の見込みが立たなくなり、建造プロジェクト損失引当金171億100万円を特別損失に計上。純損失は454億5,900万円にも上り、債務超過へと転落しました。

原油価格の乱高下と、新型コロナウイルス感染拡大で一度決定したスポンサーが下りるという不運に翻弄された日本海洋掘削ですが、アスパラントグループの支援を得てようやく再建に向けて動くことができるようになりました。

しかし、脱炭素化を進めようとする今の時代にマッチしたビジネスとは言えません。しかも、リグへの投資が巨額で、原油価格に左右されるという事業計画を立てづらい難易度の高い事業です。日本で唯一無二の会社ということもあり、他社を参考にすることもできません。アスパラントグループの手腕に注目が集まります。

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