機関投資家はなぜ「アルヒ」を買い増しするのか

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アルヒ<7198>は、「フラット35」の販売でトップシェアを誇る住宅ローンを専門に扱う金融会社である。直近では主力商品のフラット35の不正利用が発覚して株価が大きく下落する局面もあったものの、2019年3月期の決算を好感して反発。現在も堅調な株価で推移している。

同社の外国人持ち株比率は42.5%と高く、機関投資家の買いが続いている。

今回は、なぜアルヒ株が、プロの機関投資家に買い増しされているのかを検証していく。

ARUHI(アルヒ)はどんな企業か

アルヒ(当時の社名はSBIモーゲージ)はSBI グループの一員として発展を遂げてきたが、2014年8月に米大手投資ファンドのカーライル・グループに売却。カーライル傘下である CSM ホールディングスが筆頭株主となった。

2015年1月にデル日本法人社長、リヴァンプ代表パートナー、HOYA執行役最高執行責任者を務めた浜田宏氏を顧問に招聘。 現在は浜田氏が代表取締役会長兼社長(CEO兼COO)として経営の最前線で指揮を執っている。

2019年3月に筆頭株主カーライルとSBIホールディングスが持ち株を売却し、エグジットを完了した。

〇アルヒの沿革

年月 沿革
2000年6月 ソフトバンク・ファイナンスカード株式会社を設立
2000年11月 グッドローン株式会社に社名変更
2001年5月 日本初のモーゲージバンク*(1)として「グッド住宅ローン」を提供
2005年1月 グッド住宅ローン株式会社に社名変更
2005年5月 SBIモーゲージ株式会社に社名変更
2006年9月 生命保険代理店との提携により、日本初の本格的な住宅ローン代理店制度を構築
2014年8月 親会社のSBIホールディングスが米カーライル・グループへSBIモーゲージを売却。売却額は2841億ウォン(約284億円)
2015年5月 アルヒ株式会社に社名を変更
2017年12月 東京証券取引所市場第一部上場
2019年3月 カーライル・グループとSBIホールディングスが持ち株を市場外で売却

*(1)モーゲージバンクとは、証券化を資金調達手段とした住宅ローン貸出専門の金融機関のこと

有価証券報告書などから抜粋

アルヒの強みとは

アルヒの強さは、「フラット35*(2)」の圧倒的な販売シェアと、そのビジネスモデルにある。

*(2)「フラット35」とは、民間の金融機関と行政独立法人の住宅金融支援機構が提携している長期固定金利の住宅ローン。借入時に返済終了までの借入金利が確定し、返済中に市場金利が上昇しても下降しても、資金受取時に確定した借入金利で返済が続く。また保証人が不要で、返済中に繰上返済や返済方法の変更を行う場合の手数料もかからない。

強みその1「フラット35で9年連続トップ」

アルヒのフラット35の融資実行件数は9年連続トップ。2018年の融資実行件数の約4分の1(約26%*(3))を占めている。しかも「業界最低水準の金利」(2019年6月時点での実行金利は1.210%)であり、事前審査は最短1営業日、本審査も最短3営業日で「スピーディーな融資」とくれば、アルヒが選ばれるのもうなずける。

販売力も大きな強みだ。全国155の拠点(2019年3月時点)で住宅ローン専門の店舗展開を行っている。

*(3)ARUHI住宅ローン HPより

強みその2「リスクを最小化したビジネスモデル」

住宅ローンを専門に扱う会社ー「モーゲージバンク」の仕組みはこうだ。アルヒでオリジネート(貸付)した住宅ローン債権は、原則として住宅金融支援機構や信託銀行などに債権譲渡する。その後、住宅ローン債権を裏付け資産とする住宅ローン担保証券(モーゲージ・バックト・セキュリティ)、または信託受益権が発行され投資家に販売される。

つまり、アルヒ自身はローン貸付に伴う金融リスク(金利変動リスク・資金調達リスク・信用リスク)を ほとんど取ることなく、住宅ローンを提供できるのだ。

アルヒが融資した住宅ローンの債権は原則として債権譲渡され、媒介または代理で販売した住宅ローンの商品は貸借対照表(バランスシート)に計上されない。また、住宅支援機構や信託銀行などの金融機関から委託を受けて、債権譲渡後の住宅ローンに関する債権の管理回収を行っている。

アルヒは、あくまでもローンの貸付や債権を請け負う手数料(フィー)型ビジネスである。ローンの金利から収益を生み出すモデルではないため、市場の金利変動などのリスクを受けにくい。

このように、アルヒは年間約20兆円と言われる住宅ローン市場で、金融危機や東日本大震災など外部環境の変化にも大きく影響を受けず、着実な成長を実現してきた。

不正利用疑惑が発生したアルヒ

しかし今年5月に、フラット35の資金使途が自己の居住用ではなく投資用に使用されたという不正利用疑惑が生じた。年間300億円弱の補助金を国から受けているフラット35は、本人や親族が住む住宅の購入資金を融資するものであり、不動産投資目的の利用は認めていない。

これを受け、アルヒもフラット35の審査を厳格化。さらに住宅金融支援機構と組んで融資の調査に乗り出したのだが、その過程で投資用物件への流用が疑われる案件が見つかる事態となった。

その結果、アルヒは連休明けの5月7日に制限値幅の下限(ストップ安水準)まで売り込まれ、翌日の8日も5%超も下落した。

しかし、アルヒは5月14日の大引け後に決算を発表。2019年3月期の連結税引前利益は前期比20.5%増の62.6億円。2020年3月期も前期比12.1%増の70.2億円に伸びる見込みであり、5期連続で過去最高益を更新する見通しであると発表した。

上場年度の2018年3月期からの税引前利益の年平均成長率は、16.2%の見込み。決算発表後に株価は大幅に上昇し、その後も堅調に推移している。

フラット35の不正利用という悪事が露呈したアルヒだが、機関投資家などは買い増しを続けている。それは5期連続最高益という好決算だけが理由ではないようだ。

それでもアルヒ株を買う理由

アルヒの株が買われる理由は、どこにあるのか。

アルヒの株主構成と株主還元策

大量保有報告書の提出状況を見ると、外資系を中心とした機関投資家の保有割合が高くなっている。(→提出状況のデータベースはこちら

保有者名 保有割合 報告日 提出理由
フィデリティ投信 9.80% 2019/03/07 買い増し
レオス・キャピタルワークス 7.98% 2019/04/19 買い増し
JPモルガン・アセット・マネジメント 7.83% 2019/06/20 買い増し
テイムズスクエア・キャピタルマネジメント 7.58% 2019/05/15 買い増し
ティー・ロウ・プライス・ジャパン 7.38% 2019/05/21 新規保有

2019年6月25日現在。M&A online編集部調べ

アルヒは株主を強く意識した経営をしていることが考えられる。その理由は以下の3つだ。

理由1「ROE目標は15%」

一般的に10%以上あれば優良企業と判断されるが、アルヒのROE目標は15%。2019年3月期は19.1%を達成している。

アルヒの外国人持ち株比率は42.5%と高い。外国人投資家は、投資判断としてROEを重視する傾向にあるので、自己資本比率が高いアルヒは投資対象として魅力だ。

アルヒ決算説明資料「2020年3月期業績見通し」
アルヒ決算説明資料 2019年3月期「2020年3月期業績見通し」より

ROE(Return On Equity)とは、自己資本比率のことである。株主が拠出した自己資本を用いて企業がどれだけの利益を上げたか、つまり株主としての投資効率を測る指標だ。計算式は以下の通り。

ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

自己資本比率が高い会社というのは、自分が投資したお金を使って効率よく稼いでいる会社だといえる。

理由2「配当性向の目標は30~40%」

さらにアルヒは株主還元として配当も重視しており、配当性向の目標は30~40%である。

配当性向とは、純利益(税引き後利益)から配当金をどれくらい支払っているかをパーセンテージで表したもの。企業が1年間で儲けたお金からどれだけ配当として株主還元しているかは、配当性向を見ることでわかる。

配当性向(%)= 配当金の支払い総額 ÷ 当期純利益 × 100

アルヒの配当性向は目標の30~40%に対し、2019年3月期の配当性向は36.5%。2020年3月期は36.9%を見込んでいる。今期の年間配当は、前期比6円増の50円に増配する方針とした。

アルヒ決算説明資料 2019年3月期「株主還元」より
アルヒ決算説明資料 2019年3月期「株主還元」より

2019年6月25日現在の株価2,070円での配当利回りは2.13%。配当利回りとは、購入した株価に対して1年間でどれだけの配当を受け取るかを示す数値だ。

配当利回り(%)= 1株当たりの年間配当額 ÷ 1株の購入価額 × 100

高配当銘柄の目安となる3%には届かないものの、株主重視の姿勢は外国人投資家や機関投資家に評価されていると考えられる。

理由3「自社株買いを実施」

株主重視の姿勢は、自社株買いの実施にも現れている。2019年3月期の決算発表と同時に50万株(発行済み株数の1.42%)、または8億円を上限として自社株買いを実施すると発表。決算や増配と合わせて好材料視されている。

アルヒは「買い」か

ROE、配当性向など株主重視の経営姿勢が評価され、外国人投資家や機関投資家の買いが入っており、下値は底堅いと推測される。

ただし、現在のPER(株価収益率)は15.17倍と東証一部全銘柄の13.40倍を上回っているので割安感はない。今後は、アルヒのフラット35の不正融資問題に対する強化策がどのようになるかが注目される。

ご注意:当記事の個別の銘柄および企業については、あくまで説明のための例示であり、個別企業の推奨を目的とするものではありません。

文:M&A online編集部