【千趣会】ネット通販との競争で「生き残る」ための異業種M&A

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千趣会<8165>は「ベルメゾン」など、女性をターゲットにした通信販売を手がける国内大手。ビジネスの原点は創業者の高井恒昌氏が1953年に個人で創業した働く女性向けに、こけし人形を頒布する「味楽会」だった。後に「こけし千体趣味蒐集の会」と改称されるが、この名称を省略した「千趣会」が社名として使われることになる。

こけしの頒布会からスタートした千趣会

早くから通販事業に参入していたこともあり、働く女性の増加などライフスタイルの変化を追い風に通販市場が拡大すると社業も拡大した。1984年に大阪証券取引所2部へ、1988年に東京証券取引所2部へ、それぞれ上場を果たす。1990年には東証、大証ともに1部へ昇格。通販業界では押しも押されもせぬ大手として君臨する。

カタログ通販大手の千趣会大阪本社ビル(Photo by Googleストリートビュー)

1998年3月期に売上高1869億円と過去最高を記録するが、その後は売り上げの減少が続く。理由は景気の長期低迷に伴う消費減退と、電子商取引(EC)いわゆる「ネット通販」の台頭だ。2000年に「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング<9983>や「無印良品」の良品計画<7453>がECを開始したほか、イオン<8267>が通販子会社イオンビスティー(現・イオンドットコム)を設立するなど、大手量販店がネット通販に相次いで参入した。

同年には米アマゾンの日本語サイトがオープンしたが、当初は書籍販売のみ。後に国内通販を脅かす巨大ECサイトになるとは誰も予想していなかった。分厚い冊子を各家庭に配送し、郵送や電話、ファクスで注文を受け付ける、旧来のカタログ通販事業は「時代遅れ」になっていく。

千趣会も手をこまねいていたわけではない。「ネット通販元年」といわれる2000年に、ECサイト「ベルメゾンネット」を開設。カタログに掲載している、ほぼ全ての商品をECサイトで販売するようになった。それでも相変わらず主力はカタログ通販のままで、ECサイトはカタログの補完もしくはカタログ通販の注文ツールとして活用される時代が続く。

カタログからネットへ

しかし、EC市場の拡大に伴い、千趣会も「カタログ依存」の販売戦略を見直さざるを得なくなり、2006年ごろから徐々にECへと軸足を移す。カタログと連動せず、ECサイトだけで販売する専用商品の開発などに取り組んだ。その結果、ECサイト経由の売上も増加し、2009年にEC売上高は全通販売り上げの56.1%を占める671億円に達した。

ECサイト開設当初はカタログに掲載されている品番をサイトの発注フォームで入力する、注文ツールとしての「カタログ経由売上」が多かった。が、2008年頃にはカタログを見ずに、サイト上の商品をダイレクトに購入する「純ネット売上」の比率が逆転。「ネット通販主導型」への転換を果たす。

「ベルメゾン」の通販カタログ(同社ホームページより)

ネット通販の依存度が高まると、それに伴う問題も出てくる。かつては各事業部の要望や企画を、社内のサイト運営部隊が個別対応していた。そのためECサイト更新のリクエストが殺到すると作業が遅れ、ビジネスの判断精度やスピードが落ちるという弊害があった。

そこで、2010年1月には事業本部ごとに取り組んでいたインターネット通販を、組織横断型の一元管理によって全社的なECの売上と利益の最適化を図る「ベルメゾンネット推進室」が新設された。

デリバリー(配送)体制にもメスを入れざるを得なかった。実は同じ通販でも、カタログとネットでは大違いだったのだ。カタログの場合、大量に注文が入ることを前提に、時間をかけて選りすぐりの商品を大ロットで用意する。注文が来る期間も、多くがカタログ掲載後半年と長い。ところがECサイトは週単位という短い周期で、小ロットの商品を次々と販売していくビジネスとなる。

ネット通販で利益が出ない!

そのためカタログ通販が主力だった時代は1日数万件という大量出荷に対応しなくてはならなかったものの、掲載カタログや商品の大きさ・形状別に全国各地の商品センターに出荷拠点を分散できた。

ところがECサイトが主流になると、カタログ単位ではなく、各商品単位での注文となるため、従来のカタログ販売では起こりえなかったデリバリー問題が出てくる。たとえばカタログ通販のような分散在庫のままだと、ECサイトからの注文に対してさまざまな拠点から商品をかき集めなくてはならない。

さらに、大量に商品を用意するカタログ通販だと「売り切れ後免」で済んだものが、小ロット在庫のECサイトだと在庫切れとなった商品はすぐに新しい商品に入れ替える必要があるなど、在庫管理の方法はより短時間勝負になる。

カタログというまとまった単位ではなく、個々の商品別に受注がやって来るネット通販が主力になると、物流拠点が分散しているのは望ましくない。そこで2013年にソニーイーエムシーエス美濃加茂サイト(岐阜県美濃加茂市)の跡地を取得。2015年には同跡地に子会社・ベルメゾンロジスコの物流センターを開設し、日本のほぼ中央部にある地の利を生かし、送料コストを引き下げるなどのコスト見直しも図った。

それでも千趣会の業績は好転しない。2014年12月期から2017年12月期までの4期で売上高は11.5%も減少。しかも、うち2期は赤字決算だった。ネット通販専業組のサイトは商品戦略や顧客管理、ネット上での販売プロモーションなどでカタログ通販組の千趣会よりも一枚上だったのだ。

千趣会の財務状況(2014年12月期以降)

決算 2014年12月期 2015年12月期 2016年12月期 2017年12月期 2018年12月期(予想)
売上高 142,526 134,321 129,074 125,999 119,000
営業利益 3,088 -3,437 1,194 -4,287 300
経常利益 3,549 -2,540 1,673 -4,206 400
親会社株主に帰属する当期純利益 1,798 -5,307 1,420 -11,090 200
純資産合計 53,160 53,705 52,572 41,548  
現預金同等物及び短期性有価証券 7,910 14,303 16,605 17,328  
有利子負債残高 15,775 19,981 19,108 18,172  
営業活動によるキャッシュフロー 2,722 3,400 3,825 1,952  
投資活動によるキャッシュフロー -1,540 -8,053 94 -397  
財務活動によるキャッシュフロー -91 11,060 -1,580 -1,148  
フリーキャッシュフロー 1,182 -4,653 3,919 1,555  
EBITDA 5,763 -516 4,425 -2,091 2,150
EBITDAマージン 4.0 -0.4 3.4 -1.7 1.8
営業利益率 2.2 -2.6 0.9 -3.4 0.3
経常利益率 2.5 -1.9 1.3 -3.3 0.3
親会社株主に帰属する当期純利益率 1.3 -4.0 1.1 -8.8 0.2
売上原価率 52.6 54.7 52.0 56.7  
ROE 3.47 -9.93 2.67 -23.60  
ROA 1.80 -5.15 1.37 -11.53  
総資産経常利益率 3.56 -2.46 1.61 -4.37  

「脱・通販」の動きも加速

他のカタログ通販組もネット通販専業組との競争で苦戦している。千趣会と業態が似ているスクロール<8005>も赤字だ。堅実に利益をあげているのは、シニア向け通販の「全国通販」を展開するノーリツ鋼機や会員制通販サイトの夢みつけ隊など、個性的な品ぞろえで勝負できる中位以下の通販企業ぐらい。

カタログ通販大手が生き残るには、通販以外のビジネスに乗り出すしかない。ベルーナ<9997>は2012年にリアル(実)店舗事業へ参入し、全国のショッピングモールに「BELLUNA」を出店。2018年には東証1部に上場していた着物販売チェーンのさが美グループホールディングスを100%子会社化した。

千趣会も2015年に大阪ガスの子会社から、ゲストハウスウェディングやイタリアンレストランを展開するプラネットワークの全株式を取得して、ブライダル事業に参入。2015年にはワタベウェディングに対して株式公開買付け(TOB)を実施し、持分法適用関連会社化するなどブライダル事業を強化している。ブライダル事業の2017年12月期売上高は約181億円と総売上高の14.4%を占める。

2017年には日水製薬の連結子会社だった化粧品製造販売を手がけるニッスイファルマ・コスメティックスの全株式を取得した。同社は「ユイット・ラボラトリーズ」に社名変更し、2018年10月に千趣会初となるオリジナル化粧品「ハルカ」を発売した。

製品ラインナップは、クレンジングウォーター(200ml、税別2,600円)、洗顔フォームのクリーミーウォッシュ(90g、同2,600円)、エッセンシャルローション(150ml、同3,600円)、ジェルクリーム(40g、同3,600円)の4種類で、初年度にシリーズ合計で2億円の売り上げを目指す。

同業他社との比較(ニッセンホールディングスなど非公表会社を除く)

会社名 決算期  売上高合計 (百万円) EBITDA (百万円) EBITDAマージン (%) 営業利益率 (%) 経常利益率 (%) 当期純利益 (百万円) 当期純利益率 (%) 有利子負債 (百万円) D/Eレシオ (倍) ROE (%) ROA (%)
ベルーナ 2018/03 161,673 16,031 9.9 8.0 8.2 9,665 6.0 64,330 0.70 10.91 5.16
千趣会 2017/12 125,999 -2,091 -1.7 -3.4 -3.3 -11,090 -8.8 18,172 0.44 -23.60 -11.53
スクロール 2018/03 62,207 2,483 4.0 2.1 2.3 -1,035 -1.7 2,629 0.12 -4.76 -2.64
全日空商事(非上場) 2018/03 61,256 N/A N/A N/A N/A 1,025 1.7 N/A N/A N/A 1.96
ノーリツ鋼機 2018/03 57,089 6,588 11.5 8.8 9.0 8,970 15.7 38,308 0.51 13.51 6.77
フェリシモ 2018/02 29,285 935 3.2 2.9 3.1 996 3.4 3,040 0.19 6.44 3.38
アイケイ 2018/05 18,337 1,002 5.5 4.9 4.9 642 3.5 961 0.38 29.03 11.17
ヒラキ 2018/03 17,788 1,372 7.7 5.9 6.0 729 4.1 8,831 1.52 12.98 4.13
夢みつけ隊 2018/03 460 45 9.8 8.7 15.7 62 13.5 1,201 0.67 3.55 1.99
平均値
217,409 22,553 3.9 2.5 7.0 8,596 0.8 64,876 1.33 -1.76 -0.03
中央値
62,207 3,844 5.8 6.0 6.0 1,426 3.5 6,436 0.69 10.33 2.95

「守り」と「我慢」の3年

2つの新規事業の共通点は、女性をターゲットにしていること。ブライダル事業で獲得した顧客は、通販事業の新規顧客になりうる。化粧品は長期的な継続購入の比率が高く、通販事業の商材に適しているという。千趣会は女性という従来の顧客層を深耕する新規事業を選んだのである。

一方で、従来の通販は苦戦が続く。通販事業のテコ入れ策として2015年に大手百貨店J.フロント リテイリングの持分法適用関連会社となり、通販とリアル店舗販売を両立するオムニチャンネル化を狙った。2017年にはJ. フロント リテイリングの連結子会社で通信販売業を営むJFRオンラインの全事業を、千趣会の100%子会社・フィールライフを通じて買収している。

オムニチャネル販売を前提とした百貨店での千趣会との共同ブランドの展開や、百貨店のネット通販事業での千趣会の物流網の活用、両社のノウハウを活かしたギフトカタログの開発などに取り組んだ。千趣会の商品を百貨店で販売するなどの成果はあったが、百貨店の商品をECに落とし込む取り組みには至らなかった。

加えて千趣会の業績悪化で、REVIC パートナーズが無限責任組合員として運営管理する地域中核企業活性化投資事業有限責任組合に優先株を発行。その結果、千趣会はJ. フロント リテイリングの持分法適用関連会社から外れ、両社の資本・業務提携は解消された。

千趣会は2020年12月期を最終年度とする中期経営計画に取り組んでいる。売上高は1290億円と横ばいながら、ベルメゾン事業での在庫削減や販売費削減、グループ全体の⼈件費、管理費カットにより、営業利益35億円を目指す。つまりは「守り」の経営戦略だ。

千趣会の中期経営計画は「守り」が主眼(同社発表資料より)

本格的な売上増を狙う「攻め」の戦略は2021年12月期以降になりそうだ。千趣会にとっては「我慢」の3年となる。次の飛躍ではブライダルや化粧品に次ぐ、新たなM&Aが飛び出すことになるだろう。

関連年表

千趣会の沿革
年 月 出 来 事 形 態
1946年 3月 現法人が協和海運として設立。  
1953年 10月 高井恒昌氏が、こけし人形頒布の「味楽会」を個人で創業。  
1955年 11月 味楽会を法人化し、(旧)千趣会設立。  
1975年 12月 協和海運が(旧)千趣興産を吸収合併し、(新)千趣興産に商号変更。 グループ内再編
1977年 9月 休眠会社の(新)千趣興産が(旧)千趣会を吸収合併し、千趣会に商号変更(いわゆる株式額面変更目的の合併)。 グループ内再編
1984年 5月 大阪証券取引所2部上場。 株式上場
1988年 7月 東京証券取引所2部上場。 株式上場
1990年 9月 東京証券取引所、大阪証券取引所各1部上場。 一部指定
2008年 1月 東京支社を東京本社とし、2本社制に移行。  
2013年 12月 ソニーイーエムシーエス美濃加茂サイト(岐阜県美濃加茂市)跡地を取得。2015年に同跡地に子会社・ベルメゾンロジスコの物流センターを開設。 用地取得
2015年 3月 大阪ガスの孫会社で、ゲストハウスウェディング事業やイタリアンレストラン事業を営むプラネットワークの全株式を取得して子会社化。 企業買収
2015年 5月 J.フロント リテイリングに対し、第三者割当増資及び自己株式の処分を行い、同社の持分法適用関連会社となる。 資本提携
2015年 9月 ワタベウェディングに株式公開買付け(TOB)を実施し、同社を持分法適用関連会社とする。(取得した株式のうち一部を完全子会社であるディアーズ・ブレインに譲渡) 企業買収
2017年 3月 J. フロント リテイリングの連結子会社で通信販売業を営むJFRオンラインの全事業を、100%子会社のフィールライフが買収。 企業買収
2017年 6月 日水製薬の連結子会社だった健康・化粧品製造販売を手がけるニッスイファルマ・コスメティックスの全株式を取得。 企業買収
2017年 9月 子会社であるベルメゾンロジスコ株の一部を住商グローバル・ロジスティクスへ譲渡し、連結子会社から持分法適用会社となる。 企業売却
2018年 2月 地域経済活性化支援機構による支援が決まる。  
2018年 4月 J.フロント リテイリングとの資本・業務提携を解消。同社の持分法適用会社ではなくなる。 提携解消
2019年 1月 食品通販子会社のベルネージュダイレクトを雪印メグミルクへ譲渡。 企業売却

文:M&A Online編集部

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。