しゃぶしゃぶの「木曽路」や、焼肉の「大将軍」などを展開する木曽路<8160>が、コロナ後を見据えて攻勢に転じた。
同社は2022年3月末に食肉加工の建部食肉産業(名古屋市)の全株式を取得し子会社化することを決めた。
経営基盤の拡充を目指し、木曽路や大将軍などの出店拡大を計画しており、こうした今後の出店戦略を踏まえて、食肉加工会社を傘下に収めることにしたのだ。
木曽路の2021年9月末の店舗数は、「木曽路」122店、「大将軍」12店のほか、国産牛焼肉の「くいどん」 25店、居酒屋の「素材屋」3店、鶏料理専門店の「とりかく」7店など合計196店。建部食肉産業の株式を取得する2022年10月以降は、この数字が大きく変わることになりそうだ。
木曽路は「木曽路」の出店による店舗網の拡大とともに、「大将軍」「くいどん」の東海地区での出店、新規業態の多店舗化などを進め、東海地区、関東地区、関西地区を中心に事業基盤の拡充に取り組む計画だ。
子会社化を予定している建部食肉産業は1973 年に設立し、現在は名古屋市守山区に本社工場を、名古屋市港区に港工場を構え、流通大手、学校給食、飲食店向けに食肉を販売している。
2021年3月期の売上高は前年度比2.7%減の8億7550万円で、同期の純資産は前年度より541万円多い3060万だった。
現在、木曽路の工場は、木曽路の名古屋工場、大将軍の千葉工場が稼働しているが、これに建部食肉産業の2工場が加わることにより、食肉を安定して確保することが可能になり、仕入コストを低減することができる見込みだ。
子会社化が連結の売上高に与える影響はそれほど大きくはないが、店舗網拡大戦略を推進するうえでは一つの転換点となりそうだ。
関連記事はこちら
・木曽路<8160>、食肉加工の建部食肉産業を子会社化
・木曽路<8160>、焼肉店を首都圏で展開する大将軍を子会社化
・野村證券が木曽路<8160>株式の変更報告書を提出(保有減少)
木曽路が適示開示したM&Aは建部食肉産業のほかにもう一件ある。2021年1月に子会社化した大将軍(千葉市)がそれで、同社の2020年6月期の売上高は47億4200万円に達しており、木曽路の売上高に占める割合は10%を上回る。
大将軍は1974年の創業で「大将軍」「くいどん」の焼肉店を、千葉県を中心に東京都、神奈川県などの首都圏で店舗展開している。木曽路、大将軍両社の強みを生かすことで、商品やサービスの価値を高めることができると判断し、子会社化に踏み切った。
すでに「大将軍」「くいどん」の東海地区への出店を計画を打ち出しており、名古屋市内に2工場を持つ建部食肉産業との相乗効果も見込まれる。
木曽路は1950年に名古屋市内で「喫茶まつば」を開業したのが始まりで、しゃぶしゃぶの「木曽路」を開業したのは「喫茶まつば」の開業から16年後の1966年。1971年にはファミリーレストラン「地中海」を開業(1999年に撤退)を、1976年には居酒屋の「居来瀬」(現「素材屋」)を開業した。
1996年に焼肉の「じゃんじゃん亭」を開業したのに続き、2000年に鶏料理の「とりかく」を、2007年に和食しゃぶしゃぶの「鈴のれん」を、2012年にワイン食堂の「ウノ」を、2018年にからあげ専門店の「からしげ」を、2019年に酒場の「大穴」を次々に開業。新業態の開拓に力を注いできた。
この間、M&Aには縁がなかったが、2021年に大将軍、2022年に建部食肉産業と2年連続でM&Aを実施しており、「時間を買う」と言われるM&Aの活用にカジを切ったことがうかがえる。
同社は、中期的経営方針の一つに「新規出店と新事業の開発を推進し、事業基盤を拡充する」ことを掲げており、今後M&A戦略を加速させる可能性は低くはなさそうだ。
年 | 木曽路の沿革 |
---|---|
1950 | 名古屋市内で「喫茶まつば」を開業 |
1966 | 民芸風しゃぶしゃぶ「木曽路」を開業 |
1971 | ファミリーレストラン「地中海」を開業 |
1976 | 居酒屋の「居来瀬」(現「素材屋」)を開業 |
1987 | 名古屋証券取引所2部に上場 |
1994 | 名古屋工場を建設 |
1996 | 焼肉「じゃんじゃん亭」を開業 |
1999 | ファミリーレストラン「地中海」を撤退 |
2000 | 鶏料理「とりかく」を開業 |
2000 | 東京証券取引所2部に上場 |
2001 | 東京証券取引所、名古屋証券取引所1部に上場 |
2007 | 和食しゃぶしゃぶ「鈴のれん」を開業 |
2012 | ワイン食堂「ウノ」を開業 |
2018 | からあげ専門店「からしげ」を開業 |
2019 | 酒場「大穴」を開業 |
2021 | 大将軍を子会社化 |
2022 | 建部食肉産業を子会社化(10月の予定) |
コロナ禍で木曽路の業績は振るわない。コロナの影響が少なかった2020年3月期は売上高が439億2400万円、営業利益が14億2600万円だったのに対し、大きく影響を受けた2021年3月期は売上高が128億5700万円も減少し310億6700万円に、営業損益は42億1900万円の赤字に陥った。
2022年3月期は当初、大将軍が子会社に加わることもあり業績の回復が見込まれたが、時間の経過とともに厳しさが増してきた。
2022年3月期第1四半期時点では、売上高は409億円、営業損益は17億5000万円の赤字見込みだったのが、第2四半期時点では、営業損益は変わらないものの売上高は9億円少ない400億円に引き下げた。
第3四半期時点ではさらに数字は悪化し、売上高は28億円少ない372億円に、営業損益は15億3000万円赤字が拡大し、32億8000万円の赤字となる。時短営業や酒類の販売制限などにより客数が減少したのが響いたものだ。
ただ、経常利益と当期利益は新型コロナウイルス感染防止対策に伴う助成金を営業外収益に計上することで、黒字を確保できる見込みで、経常利益は前年度の35億6700万円の赤字から11億2000万円の黒字に、当期損益は55億7700万円の赤字から5億1000万円の黒字になる見込み。
2023年3月期は、新たに建部食肉産業の数字が加わるほか、仕入れコストの削減などもあり、業績の回復が見込まれる。新型コロナウイルスが業績を大きく左右することは避けられないものの、M&Aの活用や新業態の開発などで、新型コロナウイルスの影響をどこまで小さくできるのか。攻勢に転じた同社の動向が注目される。
文:M&A Online編集部