【JSR】アクセルを踏み込んだ4年後の姿とは 

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JSR本社のある東京都港区内のビル

半導体材料などを手がけるJSR<4185>がM&Aにアクセルを踏み込んだ。同社は2021年9月17日に、最先端の半導体製造に用いるEUV(極端紫外線)用フォトレジスト(感光材)メーカーの米国インプリア(オレゴン州)の株式79%を追加取得し、完全子会社化すると発表した。

2021年3月に発表した2022年3月期から2025年3月期までの4カ年の中期経営計画の中で、フォトレジストなどの半導体事業(デジタルソリューション事業)に資源を集中し、M&Aなどを通じて事業規模と分野を拡大する方針を打ち出しており、今回のインプリアの子会社化はこの一環だ。

同中期経営計画では設備投資よりもM&Aへの投資を優先する考えを示しており、前中期経営計画(2018年3月期~2021年3月期)で1660億円だった設備投資を1000億円に抑え、M&A資金を増やすことにしている。

具体的なM&A資金の額は示していないが、事業成長への総投資額が前中期経営計画とほぼ同じとすれば、M&A資金は前中期経営計画の600億円から一気に倍増の1200億円ほどになる。

インプリアの子会社化には560億円ほどを投じる見込みのため、さらなるM&A関して資金面での問題はなさそうだ。JSRの4年後の姿とはどのようなものになのるだろうか。

過去最高益を更新

JSRは中期経営計画で、半導体事業のデジタルソリューション事業と医薬品事業のライフサイエンス事業を強化し、2025年3月期に、2008年3月期に記録した過去最高益(営業利益600億円)を上回る目標を掲げた。

デジタルソリューション事業とライフサイエンス事業が中核となり、創業時から続く石油化学系事業は縮小する形となる。

石油化学系事業ではすでに、タイヤ素材のエラストマー事業をENEOSホールディングス<5020>に2022年4月をめどに売却することを決めた。

さらに新型コロナウイルス感染症拡大の影響で販売が落ち込み、赤字が拡大しているエラストマー事業では4月に早期退職者を募集し、同月末までに128人が応募している。

では中核となるデジタルソリューション事業とライフサイエンス事業2つの事業では、どのような計画を練っているのか。

M&Aで顧客ニーズに対応

デジタルソリューション事業では、半導体材料事業の拡大に力を注ぐ。同社は半導体の回路形成に必要なフォトレジストなどを手がけており、高いシェアを持つArF(フッ化アルゴン)レジストで高シェアを維持するとともに、EUV用フォトレジストを本格的に立ち上げ、需要の取り込みを目指す。

その対策の一つとして実施するのがインプリアの完全子会社化だ。インプリアは2007年の設立以来、EUV用フォトレジストの開発に取り組み、スズ酸化物を主成分とした製品はEUV露光系で世界最高性能の解像度を達成しているという。

JSRでは以前からEUV向けフォトレジストで高い信頼を得ており、買収によってインプリア製品が加わることで、より微細化を求める顧客のニーズに応えていくことができるという。

このほかにも洗浄剤や研磨剤、実装材料、ディスプレー材料なども品ぞろえしており、次のM&Aはこうした分野で実施される可能性もありそうだ。

市場を上回る成長速度

一方のライフサイエンス事業はどうか。実はこちらはすでにM&Aを実施済みだ。2015年に米国のバイオ医薬品開発、製造受託会社のKBI Biopharma, Inc.を子会社化したほか、2018年には創薬支援サービスを提供しているCrown Bioscience International(英国領ケイマン諸島)を子会社化した。

KBI Biopharmaはバイオ医薬品に特化した開発、製造受託を展開し、先進的な医薬品開発を支援している。Crown Bioscience Internationalは、がん、炎症性疾患、心血管疾患などの基礎研究成果を臨床研究や実用化にまで高める創薬探索開発受託サービスを提供している。

さらに2020年12月には株式の50.8%を保有していた医学生物学研究所をTOB株式公開買い付け)で完全子会社化した。創薬支援分野や、医薬品の効果を投薬前に予測する、コンパニオン診断薬開発での競争力を強化するのが狙いだ。

中期経営計画では、これら企業が中心となって事業を拡大していく計画で、2025年3月期にはライフサイエンス事業だけで2021年3月期比約1.7倍の1000億円の売り上げを目指す。営業利益率も2021年3月期に9%だったのを、2025年3月期には20%に高める目標だ。同社では市場を上回る成長速度で、こうした数値を実現するとしている。

2022年3月期は黒字転換

では足元の業績はどうなのか。同社が2021年8月に発表した2022年3月期第1四半期決算によると、2022年3月期は売上高3180億円、営業利益430億円、税引き前利益425億円、当期利益270億円の見込み。

2021年3月期は営業、税引き前、当期ともに赤字に陥っていたため、全段階で黒字転換することになる。2025年3月期に営業利益600億円以上を目標とする中期経営計画の初年度としては好スタートを切れそうだ。

残りの3年間で170億円を上積みしなければならない計算だが、既存事業の成長にM&A を加えれば、実現可能な数字に見える。

【JSRの業績推移】単位:億円、2022年3月期は予想

2020年3月期 2021年3月期 2022年3月期
売上高 4719.67 4466.09 3180
営業利益 328.84 △616.33 430
税引き前利益 326.29 △624.3 425
当期利益 226.04 △551.55 270

計画達成のポイント握るM&A

同社は1957年に合成ゴム製造事業特別措置法により日本合成ゴムとして設立されたのがスタート。1969年に日本合成ゴムに関する臨時措置に関する法律を廃止する法律が可決成立し、民間会社になった。

設立当初の石油化学系事業に加え、1979年にフォトレジストの販売に乗り出し、その後、光ファイバーコーティング材や液晶ディスプレー材などを手がけ、業容を拡大してきた。

1997年に日本合成ゴムからJSRに社名を変更したあと、2015年に米国のバイオ医薬品開発、製造受託会社のKBI Biopharma, Inc.を子会社化して以降、M&Aを活発化させている。

次に繰り出すM&Aがどのような内容となるのか。計画達成のポイントはここに絞られそうだ。

JSRの沿革と主なM&A
1957 合成ゴム製造事業特別措置法により日本合成ゴムが発足
1964 合成樹脂の生産を開始
1969 日本合成ゴムに関する臨時措置に関する法律を廃止する法律が可決成立し、民間会社に
1970 株式を東京、大阪両証券取引所市場第二部に上場
1971 株式を東京、大阪両証券取引所市場第一部に指定替え
1979 フォトレジストの販売を開始
1982 光ファイバーコーティング材の輸入販売を開始
1988 液晶ディスプレイ材料の販売を開始
1993 UCB-JSR ELECTRONICS S.A.(現・JSR Micro N.V.)の株式を追加取得し、同社とUCB-JSR ELECTRONICS, INC.(現・JSR Micro, INC.)を子会社化
1997 日本合成ゴムからJSRに社名を変更
2015 米国のバイオ医薬品開発、製造受託会社のKBI Biopharma, Inc.を子会社化
2018 創薬支援サービのCrown Bioscience International(英国領ケイマン諸島)を子会社化
2020 子会社の医学生物学研究所を完全子会社化
2021 ENEOSホールディングスにエラストマー事業を譲渡
2021 米国のEUV(極端紫外線)用フォトレジストメーカーのインプリアを子会社化

文:M&A Online編集部