【アイスタイル】アマゾン、三井物産の支援で競争力アップへ

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アイスタイルの東京都千代田区内の店舗

化粧品口コミサイトや、化粧品の実店舗、EC(電子商取引)サイトなどを運営するアイスタイル<3660>が、180億円を超える資金調達を実施し、メディア、店舗、ECの連携や、ネットワークの拡充などを通じた競争力強化に乗り出した。

オンラインストアなどを運営する米国のアマゾン(ワシントン州)と、三井物産<8031>の両社との間で資本業務提携を結び、出資を仰ぐとともに両社の持つ強みを活用して、競争の激しいインターネットサービスやEC分野などで一気に、競合他社に差をつけようという作戦だ。

アイスタイルは、これまで積極的なM&Aで、いくつもの企業を傘下に収めることで業績を伸ばしてきた。今回はこれとは違い、大手の支援を受けることで一段の成長を目指すことにしたものだが、厳しかった業績に回復の兆しが現れれば、企業買収が復活する可能性は低くはなさそうだ。

183億円を調達

アイスタイルは2019年10月に、借入金返済と事業拡大を目的に60億円を借り入れており、この一括返済が2022年10月末に迫っている。

また、インターネットサービスやECサイトの競争激化に伴い、低価格化への対応や、サービスの品質向上などが求められているほか、情報セキュリティーや、IT基盤の強化などへの投資も必要となる。

このため他社と連携することが不可欠と判断し、アマゾンと三井物産などからの出資を受け入れることにした。

アマゾンからは第1回新株予約権付社債と第24回新株予約権で合計140億円ほどを、三井物産からは第2回新株予約権付社債で15億円を、その他から28億円ほどの合計約183億円を、2022年9月6日に調達した。

これによって、アマゾンはアイスタイル株式の36.95%を保有し、筆頭株主になったほか、三井物産も3.98%を保有する5番目の株主として名を連ねることになった。

アイスタイルは、消費者の購買意欲の低下や外出自粛による化粧をする機会の減少、インバウンド需要の減少などに伴って、不採算事業からの撤退やこれに伴う特別損失の計上、新型コロナウイルスの感染拡大による損失計上などを余儀なくされてきた。

アマゾンや三井物産などから調達した潤沢な資金を基に、今後はこれまでの不振を一気に解消することになる。

【アイスタイルの資金調達状況】 合計約183億円

調達内容 調達資金 割当先
第1回新株予約権付社債 25億円 アマゾン
第2回新株予約権付社債 15億円 三井物産
第3回新株予約権付社債 10億円 トリプルフォー
第24回新株予約権 約115億円 アマゾン
第25回新株予約権 約18億円 ワイ

4期ぶりの営業黒字に

アマゾンと三井物産との提携は事業の連携にも及ぶ。アマゾンとは、アマゾンジャパンが販売事業者向けに日本国内で提供している各種サービスやテクノロジーと、アイスタイルが展開するコスメ、美容に特化したクチコミ、品ぞろえ、店舗づくりの知見を活用して、利便性や満足度を高めていく。

具体的にはアマゾンのオンラインストア内に「@cosme SHOPPING」をオープンし、コスメや美容に関する情報を提供し、幅広いブランドの化粧品を販売していく計画だ。

将来は「@cosme SHOPPING」と、アイスタイルのオンラインとの連携や、アイスタイルがオフラインで実施しているさまざまな施策でも連携を検討していく。

アマゾンは、オンラインストアを中心とした事業を展開しており、2021年12月期の売上高は63兆円を、営業利益は3兆円を超えている。

これまで日本企業への出資には積極的とは言えなかったが、日本国内で知名度のあるアイスタイルに出資するとともに事業でも連携することで、アマゾンの化粧品事業の存在感を高めるのが狙いだ。

一方、三井物産とは、海外パートナーの発掘や紹介、各国の経済情報や市場の情報、さらに企業情報などに基づいた支援を受けるほか、ECサイト、店舗開発などでの支援も見込む。

三井物産は、ECや店舗を中心とした小売りや商品開発、物流などの事業を通じて、アジアを中心にグローバルなネットワークを持っており、これら分野の知見を活用することができると判断した。

アマゾン、三井物産両社の連携の成果を見越してか、2022年8月15日に発表した2023年6月期の業績予想は売上高が400億円(前年度比16.3%増)と初の400億円台乗せを見込んでいる。

利益の方も営業利益は5億円(前年度は4億5300万円の赤字)、経常利益は1億7000万円(同5億9300万円の赤字)、当期利益は3000万円(同5億7100万円の赤字)といずれも黒字化する見込みだ。2020年6月期に営業赤字に転落して以来、3期連続で赤字経営が続いているだけに、業績回復に向けた期待は高そうだ。

【アイスタイルの業績推移】単位:億円 2023年6月期は予想

2020年6月期 2021年6月期 2022年6月期 2023年6月期
売上高 305.64 309.5 344.01 400
営業損益 △23.25 △6.04 △4.53 5
経常損益 △24.38 △7.95 △5.93 1.7
当期損益 △50.2 3.79 △5.71 0.3

コロナ禍で目立つ売却

アイスタイルは1999年に創業し、インターネットのコスメ情報ポータルサイト「@cosme(アットコスメ)」を立ち上げ、3年後の2002年にEC事業に参入した。2012年に東京証券取引所マザーズ市場に上場した後、急成長したものの、コロナ禍で業績が悪化。それまでは積極的なM&Aで事業領域を拡げていたが、2020年以降は企業買収が影を潜め、売却が目立つようになった。

その2020年は経営資源の選択と集中を目的に、美容、化粧品のECサイトを運営するマレーシアのHermo Creative (M) Sdn. Bhd.の全保有株式(保有割合83.1%)を売却。

2021年には、化粧品の口コミやランキングの情報サイト「GLOWPICK」を運営する韓国Glowdayz,Inc.(ソウル)子会社したものの、2022年5月には食品口コミサイト「もぐナビ」を運営するEat Smart(東京都港区)を、グルメコミュニティーサービスのSARAH(東京都千代田区)に売却した。

Eat Smart は2016年に子会社化した企業で、主力事業の美容関連情報サイトとの連携を進めてきたが、コロナ禍によって経営環境が大きく変わったことから、売却に踏み切った。

アイスタイルは、ECサイト、実店舗からなる「Beauty Service事業」(2022年6月期の売上高は219億200万円)、コスメ、美容の総合サイトを基盤とする「On Platform事業」(同73億1700万円)、外国で展開するECサイト、小売りなどの「Global事業」(42億4700万円)、美容部員を派遣する人材派遣事業などの「その他事業」(9億3500万円)の4つの事業を展開している。

創業の事業である「On Platform事業」の売上高構成比は21%ほどで、他の事業が80%弱を占めている。アマゾン、三井物産支援の基、業績が回復すれば、売りから買いに転じることは十分考えられる。

アイスタイルの沿革と主なM&A

1999 有限会社アイ・スタイルを設立。化粧品に関する消費者情報をデータベース化し、マーケティング活動を支援
1999 インターネットのコスメ情報ポータルサイト「@cosme(アットコスメ)」をオープン
2002 化粧品オンラインショッピングサイト「cosme.com(コスメ・コム)」(現:@cosme SHOPPING)を開設
2008 転職・求人サイト「@cosme CAREER」をオープン
2008 @cosme、登録メンバー数が100万人突破
2010 コスメネクストを完全子会社化
2012 東京証券取引所マザーズ市場に上場
2012 「ispot」の運営会社であるサイバースターを子会社化(2017年にアイスタイルに吸収合併)
2012 @cosme、累計クチコミ投稿数1000万件突破
2012 東京証券取引所市場第一部へ市場変更
2014 「GLOSSYBOX」を運営するビューティー・トレンド・ジャパンの全株式を取得(2015年にアイスタイルに吸収合併)
2015 美容専門PR会社メディア・グローブを子会社化
2016 食品口コミサイト「もぐナビ」を運営するEat Smartを子会社化(2022年に売却)
2017 美容、化粧品のECサイトを運営するマレーシアのHermo Creative (M) Sdn. Bhd.を子会社化(2020年に売却)
2017 台湾最大級の化粧品クチコミサイト「UrCosme」(現UrCosme (@cosme TAIWAN))を運営するi-TRUE Communications Inc.を子会社化
2017 北米最大級の化粧品クチコミサイト「MUA」を運営するMUA Inc.を子会社化
2020 マレーシアの Creative (M) Sdn. Bhd.を売却
2021 通販サイト「@cosme」を運営するコスメ・コムと、コスメのセレクトショップ「@cosme STORE」を運営するコスメネクストを統合
2021 韓国最大級の化粧品クチコミサイト「GLOWPICK」を運営するGlowdayz, Inc.を子会社化
2022 Eat SmartをグルメコミュニティーサービスのSARAHに売却
2022 米国アマゾン、三井物産と資本業務提携

文:M&A Online編集部