【DCMホールディングス 】巨人ニトリと激突するホームセンター再編の旗手

alt

2020年10月2日、ホームセンター大手のDCMホールディングス<3050>は、同業中堅の島忠<8184>TOB株式公開買い付け)で子会社化すると発表した。ホームセンター業界の大再編を加速するTOBだが、思わぬ相手から「待った」がかかりそうだ。その相手とは国内家具販売最大手のニトリホールディングス<9843>。異業種間の「TOB戦争」にDCMはどう立ち向かうのか?

島忠TOBに「ニトリ参入」の衝撃

10月20日の「ニトリ参入」報道を受けて、島忠は翌21日に「具体的な提案は受領しておらず、決定している事項もありません」と静観の構え。DCMも計画通りTOBを進める方針だ。突如として「台風の目」となったニトリは同日「現時点で決定している事実はございません」としつつも、「島忠も含め、M&Aを通じた成長の可能性を日々検討しています」と、名指しで買収のターゲットであることを明らかにしている。

「ニトリ参入」報道が飛び出すと、4190円前後で張り付いていた島忠株が翌21日午前9時30分には買付価格を500円も上回る4735円に急騰。22日朝には4980円で寄り付いた。DCMは島忠株を1株4200円で11月16日まで買い付けているが、ニトリが参入すれば島忠株がさらに高騰するのは避けられない。そうなるとDCMは買付価格を引き上げるか、TOBから撤退するしかなくなる。

ニトリの2020年2月期売上高は6422億円。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大にもかかわらず、2021年2月期の業績予想では売上高7026億円と増収を見込んでいる。豊富な手持ち資金もあり、TOB合戦となるとDCMは厳しい戦いを強いられそうだ。

対するDCMはM&Aの経験が豊富だ。ホームセンター再編の旗手として、M&Aで同期に売上高4373億円と、業界首位でベイシアグループ傘下にあるカインズ(埼玉県本庄市)の売上高4410億円に迫る大手グループに成長した。

順位(統合時) 社  名 売上高
(1) DCMホールディングス・島忠 連合(TOB進行中) 5908
(1) DCMホールディングス・ケーヨー 連合(予定なし)
5449
1 カインズ 4410
2 DCMホールディングス 4373
3 コーナン商事 3746
4 コメリ 3485
(5) アークランドサカモト・LIXILビバ 連合(TOB成立) 3011
5 ナフコ 2177
6 LIXILビバ 1885
7 島忠 1535
8 アレンザホールディングス 1376
9 ジョイフル本田 1249
10 アークランドサカモト
1126
11 ケーヨー 1076

ホームセンター再編を主導してきたDCM

そもそも、同社の成り立ちは中・四国地方を拠点とするダイキ(現・DCMダイキ。松山市)と、中部地方を拠点とするカーマ(現・DCMカーマ。愛知県刈谷市)、それに北海道・東北・関東地方に店舗展開するホーマック(現・DCMホーマック。札幌市)が2006年に実施した経営統合だ。

2020年8月にオープンした北海道津別町の「ホーマックニコット津別店」(同社ホームページより)

その後はローカルのホームセンターを相次いで買収していく。2007年6月にホームセンタータテヤマ(富山県高岡市)を子会社化(2008年3月にカーマが吸収合併)、同12月にはオージョイフル(大阪府豊中市)を子会社化(2009年3月にダイキが吸収合併)している。

2008年6月にイエローハット<9882>からホームセンターサンコー(熊本市)の株式を取得して子会社化(2012年12月 にダイキが完全子会社化)するなど、3年連続でM&Aを繰り広げ、全国にホームセンター網を拡充した。

その後しばらくは目立った動きはなかったが、6年を経てDCMのM&Aが再始動する。2014年10月 に家電量販店大手のエディオン<2730>からホームエキスポ(愛知県刈谷市)の株式を収得して子会社化したのに続き、フジタ産業(北海道苫小牧市)からホームセンター「ハッピーワン」を取得している。2015年7月にはサンワドー(現・DCMサンワ。青森市)を株式交換で完全子会社化した。

こうしたM&Aラッシュの背景には、地域ごとに棲(す)み分けていたホームセンターの再編が最終段階に入るという業界地図の激変があった。中小ローカルホームセンターが競合大手の進出にさらされ、DCMのような別の大手傘下に入るケースが増えたのである。

島忠を奪われると遠のく「業界トップ」

競争が激しさを増す一方で、ついには大手小売系ホームセンターもDCMの傘下に入った。2016年3月、ユニーグループ・ホールディングス(現・ユニー。愛知県稲沢市)がホームセンター事業から撤退するのを受け、「ユーホーム」事業を買収した。

同12月には山梨県、神奈川県、東京都で店舗展開するくろがねや(現・DCMくろがねや。甲府市)を簡易株式交換により完全子会社化するなど、ローカルホームセンターとの経営統合にも引き続き取り組んだ。

そしてDCMのM&Aは新たな段階に入る。ついに同業大手にも手を伸ばしたのだ。2017年1月に業界11位のケーヨー<8168>と資本・業務提携契約を結び、同社へ20%出資して持分法適用関連会社化した。そして2020年10月には業界7位の島忠へのTOBを発表したのである。

島忠を子会社化すれば、年間売上高は5908億円。DCMはカインズを1500億円近く引き離して、ホームセンター業界単独トップの地位を確立できる。その矢先のニトリによる「島忠買収」報道だった。DCMにとってはM&A戦略どころか経営戦略をひっくり返しかねない「大事件」といえるだろう。

DCMホールディングス のM&A年表
2006年 9月 - カーマ、ダイキ、ホーマックの経営統合により、DCM Japan ホールディングスを設立。
2007年 6月 - カーマがホームセンタータテヤマの株式を収得し、子会社化。
  12月 - オージョイフルの株式を取得し、子会社化。
2008年 3月 - カーマがホームセンタータテヤマを吸収合併
  6月 - ダイキがホームセンターサンコーの株式を取得。
2009年 3月 - ダイキがオージョイフルを吸収合併
2010年 6月 - DCMホールディングス株式会社に商号を変更。
2014年 10月 - カーマがホームエキスポの株式を収得し、子会社化。
2015年 7月 - サンワドー(現・DCMサンワ)を株式交換で完全子会社化。
2016年 3月 - DCMカーマがユニーグループ・ホールディングス(現:ユニー・ファミリーマートホールディングス)のホームセンター事業撤退に伴い、「ユーホーム」8店舗を買収。
  12月 - 山梨県地盤のくろがねや(現:DCMくろがねや)を簡易株式交換により完全子会社化。
2017年 1月 - ケーヨーと資本・業務提携契約を結び、同社を持分法適用関連会社化。
2020年 11月20日 - 島忠をTOBで子会社化(予定)。

島忠がダメならケーヨーか?

異業種とはいえ、ニトリはTOBの競合相手として手強い。同社は店舗数こそDCMの9割と少ないが、売上高は約1.5倍と大きく上回る。利益はいずれもDCMの5倍を超え、売上高営業利益率が3.5倍という圧倒的な高収益企業だ。現・預金も約1591億円と、DCMの約383億円の4倍以上だ。島忠のTOB争奪戦で買取価格がつり上がれば、DCMは不利になる。

業績比較
(単位:億円)
  DCMHD ニトリHD 対DCM比率(倍)
売上高 4,373.71 6,422.73 1.5
営業利益 208.32 1,074.78 5.2
経常利益 201.07 1,095.22 5.4
当期純利益 137.83 713.95 5.2
売上高営業利益率 4.8%
16.7% 3.5
現・預金 383.06 1,591.90 4.2
店舗数(海外含む) 673 607 0.9

ニトリが島忠にTOBを仕掛ける理由には諸説ある。祖業が家具販売でホームセンターの中では業態がニトリに近いことや、島忠が東京都(15店舗)、埼玉県(24店舗)、神奈川県(11店舗)、千葉県(5店舗)、栃木県(1店舗)、大阪府(3店舗)、兵庫県(1店舗)など首都圏に店舗網を持つことなどから首都圏攻略の足がかりではないかとの見方もある。

しかし、国内家具販売では圧倒的な最大手のニトリが、島忠を買収してまで家具販売を強化するメリットがあるのか。さらにニトリは「デコホーム」などの派生店を含めて、すでに東京都に52店舗、埼玉県に39店舗、神奈川県に38店舗、千葉県に34店舗、栃木県に12店舗を展開しており、島忠の店舗網を必要にしているとも考えにくい。

一方でニトリが主力とする家具・インテリアが少子高齢化やライフスタイルの変化で、買い替え需要が減退しているのは事実。これを受けてニトリでは寝具や雑貨、家電などSPA(製造小売業)の強みを生かした低価格のオリジナル商品を拡大している。

島忠はTSUTAYAとのコラボ店舗など、斬新な出店戦略が光る。 さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、旅行や外食を控えた消費者がDIYや園芸などに時間とカネを投入する「巣ごもり消費」が盛り上がり、ホームセンター業界の業績は好調だ。ニトリとしても、島忠が持つ巣ごもり消費に対応した商品ラインナップや異業種との協業ノウハウに関心はあるだろう。

ニトリの思惑はどうあれ、島忠を逃してはDCMがホームセンター業界トップに立つのは厳しくなる。同社としては何としても島忠のTOBを成功させたいだろうが、ニトリに競り負けた場合は持分法適用関連会社であるケーヨー(売上高約1076億円)のTOBに切り替えて再び業界トップを狙う可能性もありそうだ。

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online編集部