【セブン&アイ・ホールディングス】総合小売業の旗を降ろしコンビニ事業に注力

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東京都千代田区の店舗

セブン&アイ・ホールディングス<3382>が、総合小売業を目指す方針を転換し、国内外のコンビニエンスストア事業の強化にアクセルを踏み込んでいる。

日本では高齢化や単身化、共働き化などの進展によって、自宅近くの店舗で生鮮食品や惣菜などを購買するニーズが高まっており、米国でも新鮮な食品を取り扱うコンビニへのニーズが高い。さらに世界の他の国々でも安全、安心な食品を求める声が高まっていることからコンビニ事業の拡充を決断した。

すでに2021年に買収した米国のコンビニSpeedwayが業績に大きく寄与しており、今後さらなる買収を進める計画だ。同社はどのような将来像を描いているのだろうか。

米国やベトナムでM&Aを検討

セブン&アイは2023年3月9日に、2030年に「セブン-イレブン事業を核としたグローバル成長戦略と、テクノロジーの積極活用を通じて流通革新を主導する、食を中心とした世界トップクラスのリテールグループ」を目指すとの目標を掲げた。コンビニと食品を中心に成長を加速させるというもので、これに沿った具体的な戦略も策定した。

それによると北米のコンビニ事業では、米国子会社の7‐Eleven, Inc.とSpeedwayとの統合を成し遂げ、2023年に8億ドル(約1072億円)分の相乗効果を生み出す計画だ。さらにコンビニ事業で新たなM&Aを実施し成長を加速する。合わせてオリジナルの食品や飲料の開発に取り組み、オリジナル商品の売上比率を2025年までに34%にまで高めることや、宅配事業にも注力し、この分野で2025年に10億ドル(約1340億円)の売り上げを目指すという。

日本国内でも集客力や収益力の増強に取り組む方針で、オリジナル商品の開発に力を入れるほか、新たな品ぞろえや新しコンセプトの店舗作りなどを進める。さらに宅配事業やリテールメディア(アプリやデジタルサイネージ=映像や文字を表示する情報、広告媒体)などの新しいビジネスにも取り組む。

これら北米や日本以外の国でもコンビニ事業を展開する計画で、2025年までにこれら国々で5万店の出店を目指す。すでにベトナムでの投資を決めており、M&Aを含めた戦略投融資を積極的に検討するとしている。

百貨店事業は売却しスーパーは縮小

こうしたコンビニ事業の拡充策と並行して、これまで目指してきた総合小売業としての体制の見直しを進める。すでに、傘下の百貨店「そごう・西武」(東京都豊島区)の全株式を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに譲渡することを決めた。

百貨店事業の発展とセブン&アイグループ各社との相乗効果を狙ったが、ここ数年はコロナ禍の影響で赤字経営が続いていた。売却は2023年2月に完了する予定だったが、交渉が長引いていることから2カ月ほど延期し、3月中に売却する予定だ。

これに先立つ2022年2月には総合スポーツ用品販売のオッシュマンズ・ジャパン(東京都千代田区)のエービーシー・マートへの売却を決めた。オッシュマンズ・ジャパンは米国OSHMAN'S SPORTING GOODS INC.とイトーヨーカ堂が業務提携し、イトーヨーカ堂グループのスポーツ分野の専門店業態を担う関連会社として事業を展開してきたが、事業構成の見直しに沿って売却に踏み切った。

こうした企業売却に加え2023年3月9日には総合スーパーのイトーヨーカ堂126店舗(2023年2月末時点)のうち14店舗の閉鎖を決めた。その後もイトーヨーカ堂と子会社の食料品中心のスーパーであるヨークとの統合などを進め、2026年2月末には93店舗まで削減する。合わせて自社で運営してきたアパレル事業からも撤退する。

Speedwayの取得で業績が急伸

セブン&アイは1920年に東京・浅草で洋品店「羊華堂」を開業したのが始まりで、2005年にセブン&アイ・ホールディングスがスタートし、同年にセブン‐イレブン・ジャパンが米国7‐Eleven, Inc.を完全子会社化したのを機に積極的にM&Aに取り組み、業容を拡大してきた経緯がある。

翌年の2006年には、そごう・西武、ヨークベニマルを完全子会社化したのをはじめ、2007年には赤ちゃん本舗を、2015年にはバーニーズ ジャパンを、2016年にはニッセンホールディングスをそれぞれ子会社化した。2021年にコンビニのSpeedwayを取得し業績が大きく伸びたことから、総合小売業の旗を降ろしコンビニ事業に集中する作戦に転換した。

セブン&アイ・ホールディングスの沿革と主なM&A
1920 東京・浅草で洋品店「羊華堂」を開業
1958 ヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)を設立
1973 ヨークセブン(現セブン‐イレブン・ジャパン)を設立
2001 アイワイバンク銀行(現セブン銀行)を設立
2005 セブン&アイ・ホールディングスを設立
2005 米国7‐Eleven, Inc.を完全子会社化
2006 ミレニアムリテイリング(現そごう・西武)を完全子会社化
2006 ヨークベニマルを完全子会社化
2007 ロフトを子会社化
2007 赤ちゃん本舗を子会社化
2015 バーニーズ ジャパンを完全子会社化
2016 ニッセンホールディングスを完全子会社化
2021 米コンビニのSpeedwayを取得
2022 セブン‐イレブンが世界で8万店舗を突破

海外コンビニ事業は70.2%の増収

コンビニ事業の好調さに支えられ、セブン&アイは2023年2月期の業績予想を上方修正し、売上高を11兆8120億円(2023年2月期から会計基準を変更。旧基準だと売上高は12兆4980億円)に引き上げた。増収率は35.0%に達する大幅な伸びとなる。

最も伸びの大きいのが海外コンビニ事業で70.2%の増収。国内のコンビニ事業も健闘しており2.0%の増収を見込む。半面、事業の売却や縮小を実施する百貨店やスーパーは厳しい状況にあり、百貨店・専門店事業は34.4%、スーパー事業は20.2%のいずれも2ケタを超える減収となる。

増収に伴い利益の方も大きな伸びを見込んでおり、営業利益は29.0%増の5000億円、経常利益は30.4%増の4675億円、当期利益は32.8%増の2800億円を予想する。

この好調な業績に伴って中期経営計画の目標数字も見直した。2026年2月期に、営業利益に減価償却費とのれん償却費を加えたEBITDAを当初の1兆円以上から1兆1000億円以上に修正。自由に使うことのできる現金であるフリーキャッシュフローは当初の4000億円以上から5000億円以上に、自己資本に対する当期利益の割合を指すROEは当初の10%以上から11.5%以上にそれぞれ引き上げた。

これら数字は米国やベトナムなどで計画しているM&Aの影響は含んでおらず、さらに向上することが見込まれる。米国のコンビニ事業の買収がセブン&アイを大きく変えようとしている。

【セブン&アイ・ホールディングスの業績推移】単位:億円、2023年2月期は予想

【セブン&アイ・ホールディングスの売上高と営業利益の推移】

7andiの売上高と営業利益の推移
2023年2月期は予想

文:M&A Online編集部