【ワールドホールディングス】人材派遣大手が建設業の大量買収に乗り出した理由

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ワールドホールディングス<2429>は総合人材派遣・請負、コンサルティング業務大手。同社のM&A戦略は一風変わっている。主力の人材派遣業は後回しに、不動産業や通信事業での買収が相次いだからだ。なぜ傍流のM&Aを優先したのか?そこには創業者がバブル崩壊で痛感した「苦い体験」があった。そして今後のM&Aは?

「傍流」不動産会社のM&Aに注力

同社は1993年に北九州市で各種業務アウトソーシングを提供する前身のワールドインテックとして起業した。2004年3月に労働者派遣法が改正され、製造業への労働者派遣が解禁されたのを受けて業容が拡大。主力の製造業向けのほか、研究者や技術者の派遣とシステムの受託開発、販売員、施工管理技術者の派遣などを手がけている。

ところが同社のM&A実績を見ると、本業の人材派遣との関連が薄い案件も少なくない。その多くが不動産関連企業だ。同社は2010年に子会社の不動産会社ワールドレジデンシャル(東京都港区)を設立して不動産事業に参入した。

2015年にユニットハウスを製造販売する大町(仙台市)とユニットハウスのレンタル事業を手がけるユニテックス(同)の全株式を取得し、完全子会社化すると発表。両社の手がける「移動折りたたみ仮設ハウス」が、国内では東京五輪・パラリンピックなどのイベント向けに、海外では東南アジア諸国向けの簡易店舗や住宅として、需要の増大が見込めると判断しての買収だった。

翌2016年には住宅販売事業や不動産賃貸事業を展開する豊栄建設(札幌市)の全株式を取得し、完全子会社化すると発表。同社の戸建て注文住宅の施工・販売ノウハウを取り込むと同時に、過去の施工実績からリフォームや立て替え、買い替えのニーズを把握することで、流通・仲介、リノベーションビジネスとの相乗効果も見込んだ。同社は2020年、エンデバー・ユナイテッド2号投資事業有限責任組合(東京都千代田区)に譲渡されている。

2018年には鉄筋コンクリート(RC)住宅を手がけるRCハウジング(愛知県豊橋市)の北海道札幌地区での建売住宅事業を取得すると発表した。同社が民事再生法の適用を申し立たのを受けて、ワールドホールディングスが全額出資で設立したRCハウジング東日本(札幌市)が事業を継承している。

2019年に買収した債権管理回収会社の一富士債権回収(東京都新宿区)も、不動産金融ビジネスへの進出が狙いだった。

バブル崩壊の「苦い経験」からM&Aによる多角化へ

こうした建設業関連のM&Aの背景には、ワールドホールディングスの創業者である伊井田栄吉会長兼社長のビジネス歴が関わっている。伊井田会長兼社長は1981年に不動産仲介の三晋産業(現ミクニ)を立ち上げていた。創業者から見れば、不動産ビジネスは「祖業」なのだ。

このほかにもカメラ修理の日研テクノ(大阪市)や農業公園運営のファーム(愛媛県西条市)など、主力の人材派遣・育成事業には直接結びつかなさそうな企業を買収している。

同社がこうしたM&Aによる多角化を進めるのはなぜか?実は伊井田会長兼社長がバブル経済の崩壊によって不動産業界が苦境に陥ったことから、1つの事業だけにこだわることのリスクを痛感したのだという。

そこで伊井田会長兼社長は事業に最低3つの柱を作る「3分の1論」を経営理念に掲げ、バブル崩壊直後の1993年にワールドインテックを設立して人材派遣・育成事業に参入した。

2005年にはイーサポートとネットワークソリューションを子会社化し、オフィスのデジタル化やウェブでの集客・コンテンツ制作・広告運用といったデジタルコンサルティング、モバイルショップ運営などの情報通信ビジネスへ参入。同ビジネスが2008年のリーマン・ショックから同社を救った。

M&Aによる多角化で危機を回避した同社は、伊井田氏の「土地鑑」がある不動産ビジネスを3本目の柱に定め、不動産会社のM&Aを加速したのである。

M&Aで実現したワールドホールディングスの「3つの柱」(同社ホームページより)
M&Aで実現したワールドホールディングスの「3つの柱」(同社ホームページより)

いよいよ「主力」人材派遣業でのM&Aにアクセル

そして2022年からは、満を持して主力の人材派遣業でのM&Aに力を入れている。2022年1月にJ.フロントリテイリング<3086>の全額出資子会社で人材サービス事業を手がけるディンプル(大阪市)の株式90%を37億8000万円で取得し、子会社化すると発表した。

百貨店業界で培ってきた接客スキル・経験を備えた人材を迎え入れ、接客販売やコンタクトセンターといったサービス系人材事業を強化するのが狙いだ。ディンプルは1991年に設立し、J.フロントリテイリング傘下の大丸・松坂屋店舗での接客接遇に関する業務受託に加え、外部企業を対象とする人材派遣・紹介、業務受託などを展開している。

2023年4月には大手メーカー向け製造・技術者派遣を主力とする日本技術センター(兵庫県姫路市)の全株式を取得して完全子会社化すると発表した。基幹事業である製造派遣・請負の基盤強化のほか、西日本エリアでのビジネス拡大につなげる。日本技術センターは1967年の設立で、機械設計技術者を多数抱えている。

円安に伴うモノづくりの国内回帰や人手不足による技術者、生産スタッフの求人難など、ワールドホールディングスが得意とする製造業向け人材派遣の需要が今後さらに高まるのは確実だ。人材派遣業は「ヒト」が唯一の資産であり、競争力の源泉であることは言うまでもない。

「ヒト」を迅速かつ大量に確保するためには、人材派遣業者の買収が最も効果的だ。ワールドホールディングスが昨年から人材派遣業者のM&Aを加速しているのも当然の流れだろう。これから同社による製造業人材派遣業界の再編が一気に加速する可能性がある。

ワールドホールディングスのM&A年表

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online