サカタのタネは種苗会社として国内トップに立つ。170カ国・地域に花や野菜の種子を販売し、海外売上高比率は70%を超え、グローバル展開でも抜きん出た存在だ。なかでもブロッコリーは65%、トルコギキョウは70%という圧倒的な世界シェアを持つ。同社躍進の牽引役の一つがM&Aへの積極的な取り組み。海外を中心に企業買収をコンスタントに積み上げてきた。
サカタのタネは10月下旬、ブラジル子会社を通じて、現地の種苗大手Isla Sementesとその持ち株会社を買収すると発表した。約18億8000万円を投じ、全株式を取得する。買収完了は12月中。Islaは1955年設立で、売上高は約17億円(2022年12月期)。家庭園芸や小規模農業向けを中心に花・野菜種子を生産している。
サカタのタネがブラジルに子会社のサカタ・シード・スダメリカを設立したのは1994年で、現地の活動は30年に及ぶ。これまで中・大規模農家向け市場を主力としてきたが、今回の買収で家庭園芸や小規模農業向けに本格的に進出する。販売網の相互利用、種子生産施設・倉庫、研究施設の有効活用などを進め、事業拡大につなげる考えだ。
9月には欧州でも買収を手がけた。オランダのキュウリ専門種苗会社であるサナシードの全株式を取得し、子会社化した。果菜類の品種ポートフォリオ(構成)拡充の一環で、取得金額は6億4900万円。欧州で人気があるロングタイプのキュウリに強みを持つサナシードとはかねて取引関係にあり、同社の品種を仕入れて販売していた。
キュウリの種苗会社をめぐっては2017年、ヨルダンのマカベットを子会社化した。キュウリは世界的に市場規模が大きく、グローバル戦略品種の一つと位置づけ、ビジネス強化にアクセルを踏み込んでいる。
海外企業の買収は2020年4月に米国のレタス種苗会社バンガードシードを傘下に収めて以降、途絶えていたが、アフターコロナの到来を受け、ここへきて再起動した形だ。
海外拠点の新設もしかり。今年6月、イスラエルに支店を開設した。イスラエルは現在、イスラム組織ハマスとの戦闘で緊張に包まれているが、オフィスを構えたのはテルアビブ近郊のレホボト市。イスラエルは農園芸関連のスタートアップ企業や大学、研究機関が数多くあり、育種技術の開発でも世界をリードするという。
中東地域での拠点はヨルダン駐在員事務所(1998年開設)、トルコ子会社のサカタ・ターキー(2011年設立)、ヨルダン子会社のマカベット(2017年買収)に次ぐ4カ所となる。
サカタのタネは1977年に戦後初の海外現地法人として米国サンフランシスコにサカタ・シード・アメリカを設立。全米5カ所に研究・生産・営業の拠点を設け、海外展開の基礎を固めた。1990年代から欧州、中南米、中東、アフリカに順次進出した。
現地法人の設立を基本としつつ、現地企業の買収を組み合わせ、海外ネットワークを広げ、現在、世界各地に約20の子会社を持つ。
サカタのタネの足元の業績はどうか。2023年5月期は売上高5.8%増の772億円、営業利益2.4%減の109億円、最終利益22.6%減の94億8000万円。3年連続の増収で、円安効果も加わった。人件費、研究開発費などの増加で営業減益となったが、それでも営業利益率は14%強と余裕で2ケタを確保した。
種苗業界はサカタのタネ、カネコ種苗、タキイ種苗が御三家をなす。業界2位で決算期が同じのカネコ種苗は売上高621億円で、営業利益率2.9%にとどまるだけに、サカタのタネの高収益ぶりが際立つ。
部門別の売上構成をみると、国内卸売122億円(前年度比4%減)、海外卸売562億円(同8.1%増)、小売53億円(同3.7%増)、その他34億円(同10.3%増)。海外卸売が全売上高の73%近くに達し、業績を牽引する。
地域別の海外売上高は北米183億円、欧州・中東157億円、アジア142億円、南米50億円、アフリカ・オセアニア30億円。
一方、国内部門は210億円。卸売事業のほかに、通信販売や直営園芸店(ガーデンセンター横浜)を中心とする小売事業、造園工事などその他事業が加わる。
◎サカタのタネ:業績推移(単位は億円)
2022/5期 | 23/5期 | 24/5期予想 | |
売上高 | 730 | 772 | 840 |
営業利益 | 111 | 109 | 110 |
最終利益 | 122 | 94 | 80 |
目下、海外で重点市場と位置付けるのがインドだ。中国を追い抜いて人口世界1位になったインドは国民の6割が菜食主義といわれる野菜消費大国。さらに家庭、寺院で花が大量に使われる生活・文化が根付いている。
インドでは2008年に現地法人のサカタ・シード・インディアを設立し、15年になる。インド全域をカバーする販売網を築き、各地に試作圃場を整備した。南部の主要都市・ベンガルールには2010年に研究農場を、2019年に総合拠点「ベンガルール イノベーションセンター」(BIC)を開設した。
2023年にはニューデリー近郊にあったサカタ・シード・インディアの本社をBICに移転。経営、管理、研究。生産、物流、営業の各機能を集約し、インド市場での攻勢に向けて体制づくりを着々と進めてきた。今後、現地企業の買収というM&Aの選択肢も十分にありそうだ。
サカタのタネは今年7月、創業110周年を迎えた。1913(大正2)年に創業者の坂田武雄氏が横浜市に「坂田農園」を設立し、海外向けの苗木商を始めた。その後、種子の輸出に乗り出し、戦前から米国シカゴ、中国・上海に支店を置いた。
創業時から世界を舞台に事業活動してきた同社。今日、種苗のグローバル大手に成長を遂げたが、海外での積極的な事業展開は生来の気質に他ならない。2007年から社長を務める坂田宏氏は武雄氏の孫にあたる。アフターコロナの到来で国内外の社会経済活動が正常化する中、二の矢、三の矢がどう放たれるか、要ウオッチだ。
◎サカタのタネ:主な沿革とM&A
年 | 出来事 |
1913年 | 創業者の坂田武雄氏が坂田農園を横浜市に設立 |
1942年 | 坂田商会(旧坂田農園)など5社が合同し、坂田種苗を設立 |
1951年 | 売店(現ガーデンセンター横浜)を開業 |
1959年 | 三郷試験場(長野県安曇野市)を開設 |
1971年 | 君津試験場(千葉県袖ケ浦市)を開設 |
1975年 | 農園芸資材販売の日本ジフィーポット・プロダクツを子会社化(2021年に吸収合併) |
1986年 | サカタのタネに社名変更 |
1987年 | 東証2部上場(1990年東証1部に) |
1996年 | 英国の種苗会社サミュエル・イェーツ(現サカタUK)を子会社化 |
1996年 | コスタリカの種苗会社フローラ・フェリス(現サカタ・セントロアメリカ)を子会社化 |
1997年 | 韓国の青源種苗(現サカタ・コリア)を子会社化 |
1999年 | 南アフリカの種苗会社メイフォード・シード(現サカタ・シード・サザンアフリカ)を子会社化 |
2002年 | 米国種苗会社のアルフ・クリスチャンセンを子会社化 |
2003年 | デンマークのデンフェルトから花部門を取得 |
2008年 | オランダのバリノバから鉢物ガーベラ育苗部門を取得 |
2017年 | ヨルダンのキュウリ種苗会社「マカベット」を子会社化 |
2018年 | 日産子会社からグリーンサービス事業を取得 |
2019年 | 子会社で手がける花苗生産事業をベルグアースに譲渡 |
2020年 | レタス種苗会社の米国バンガードシードを子会社化 |
2022年 | 東証プライム上場に移行 |
2023年 | 9月、オランダのキュウリ種苗会社「サナシード」を子会社化 |
〃 | 10月、ブラジルの種苗会社「Isla」の子会社化を発表 |
文:M&A Online
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