なぜ安楽亭は債務超過の「ステーキのどん」を買収したのか?

alt
アークミールを買収した安楽亭

全国で焼肉店を展開する安楽亭<7562>が、12月26日「ステーキのどん」や「フォルクス」を運営するアークミールを、吉野家ホールディングス<9861>から買収すると発表しました。アークミールは債務超過状態。損切りした吉野家にとってはメリットが高そうな一方で、1億7000万円の純損失を計上している安楽亭には荷が重く、引き受けている場合ではないようにも思えます。買収を決めた背景には何があるのでしょうか?

この記事では以下の情報が得られます

・安楽亭が一時的に陥る苦境
・安楽亭とアークミールの業績

アークミールは9カ月で13店舗閉鎖

安楽亭で買収したアークミールは、「ステーキのどん」「どん亭」「フォルクス」「don イタリアーノ」を運営しています。2019年2月期の売上高は202億500万円で営業損失は9億3000万円。純損失は21億1600万円でした。この期に、純資産が3億3700万円マイナスの債務超過に陥っています。

吉野家は本体への影響を軽微に抑えつつ、少しずつアークミールの不採算店撤退を進めていました。2017年2月期に2店舗、2018年2月期に6店舗、2019年2月期に7店舗を閉店しています。

▼アークミール店舗数と売上高、純損失推移

2017年2月期 2018年2月期 2019年2月期 2019年11月末
閉店数 2 6 7 13
総店舗数 184 178 171 158
売上高 227億5400万円 224億600万円(1.5%現) 202億500万円(10%減) -
純損失 3億600万円 1億4000万円 21億1600万円 -

吉野家決算説明資料、安楽亭アークミール取得のお知らせより作成

2019年は2月から11月までの10ヶ月間で13店舗を閉店。譲渡先が安楽亭に決まり、一息に進められたのでしょう。債務超過のアークミール買収の決め手となったのは、不採算店の整理が進んだ状態であったためと考えられます。

安楽亭は増資を実行するか?

画像はイメージ(Photo by PAKUTASO)

アークミールを引き受けた安楽亭は、一時的な激しい業績の悪化が予想されます。

安楽亭は2020年3月期に156億5200万円の売上を予想しています。アークミールは1店舗あたりおよそ1億2300万円稼ぐので、158店舗で193億6500万円となり、売上は安楽亭本体よりも多くなります。買収後の合計売上は350億円で、ライバルあみやき亭<2753>(売上:321億円)を上回ります。

問題は純利益です。安楽亭の今期純利益予想は2900万円。前期が1億3000万円の純損失で、今期黒字転換する計画でした。アークミールは7店舗の退店で前期20億円の損失を出しています。2桁閉店の影響により、20億円以上の損失を出す可能性があります。

気になるのは、安楽亭がその損失に耐えられるだけの体力を持っているかどうかです。

同社は2020年3月期第2四半期の時点で、純資産の合計が62億6300万円でした。仮に30億円の損失が出れば、純資産の半分が吹き飛ぶ計算です。

安楽亭の株価は、買収の発表によって5010円から5120円まで2%上昇しました。市場は好意的に受け止めています。同社のPBRは1.74倍。株主優待などの影響により、純損失が出ていた割に堅調な数字を保っています。

買収のタイミングで増資を実行し、更なる不採算店の撤退と出店で利益が出せる状態にする。長期的に見るとその方が舵取りをしやすいようにも思えます。

過去3期に渡り、PBRが1.6倍前後だった安楽亭。買収によって焼肉よりもステーキの比重が上がりました。同業のあさくま<7678>のPBRは2.25倍、ブロンコビリー<3091>は2.41倍です。将来的にPBRをこの水準まで引き上げることができれば、今回の買収は成功だったといえそうです。

麦とホップ@ビールを飲む理由