アンジェス、「大阪ワクチン」が開発できなくても困らない理由

alt
アンジェスの「大阪ワクチン」は時間切れか?(写真はイメージ)

「大阪ワクチン」は実現するのか?アンジェス<4563>の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン開発が大幅に遅れている。2021年中に実用化との期待もあったが、大規模な追加治験を求められたことから実用化が2022年以降にずれ込む見通しだ。

実用化にこぎつけたとしてニーズはあるか?

すでに米国のファイザーやモデルナ、ジェンソン・エンド・ジョンソン、英アストラゼネカといった大手製薬の新型コロナワクチンの供給が始まっており、完全に出遅れたアンジェスのワクチンにニーズがあるかどうかは不透明だ。

100年前にパンデミックを引き起こした「スペイン風邪(インフルエンザ)」のように、新型コロナウイルスが突如として消滅してしまう可能性もある。そうなれば、アンジェスがワクチン開発に成功しても何の役にも立たない。

医薬品医療機器総合機構(PMDA)は新型コロナワクチンの評価について「適切に評価できる規模」の治験(臨床試験)が必要としており、数万人レベルの臨床試験が求められる。アンジェスの治験は国内の500人規模で、今後国内で感染者が再び急増するかPMDAの判断が変わらない限り承認にすらたどり着けない可能性が高い。

アンジェスは海外での治験も試みている。しかし、すでに効果が高い新型コロナワクチンが実用化されているのに、わざわざ効果が定かではない新しいワクチンの治験に協力してくれる医師や協力者は多くない。

「コロナワクチン」へのチャレンジで資金獲得に成功

今となっては海外でのコロナワクチン大規模臨床実験は難しい(Photo by DMCA

すでに海外での豊富な治験実績があり、外国医療機関との関係が深い国内大手製薬はともかく、アンジェスのようなベンチャーでは厳しいと言わざるを得ない。これから実施する大規模な治験に協力するとしたら、予防用のワクチンではなく、罹(かか)ってしまったコロナ感染症を治す治療薬だろう。

ワクチンの実用化は厳しくなってきたアンジェスだが、仮に開発を断念したとしてもダメージは限定的だ。ワクチンの研究開発費は無駄になるかもしれないが、2020年5月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が公募する「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」に採択されて20億円の研究費を受けたほか、同8月には厚生労働省の「ワクチン生産体制等緊急整備事業」で93億8030万円の助成金を得ている。

それらに加えてワクチン開発が市場で好感されたのが追い風となり、同12月に約111億円の第三者割当増資を実施し、これを原資にゲノム編集技術を持つ⽶EmendoBio Inc.を買収。2021年3月にも同じく第三者割当増資で約168億円の資金調達に成功している。

コロナワクチン開発に着手したおかげで、研究助成金で約113億円、開発発表以降の第三者割当増資で約279億円、合計392億円の資金を得られたことになる。アンジェスにとってはたとえ実用化に至らなくても、十分に「実」を取れたチャレンジだったのは間違いない。創薬ベンチャーの「面目躍如」と言えそうだ。

文:M&A Online編集部