伝統を次世代につなぎ、地域を再生する「リブランディング」とは

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和えるの「リブランディング」が伝統的なものづくり産業を救う

和える(東京都品川区)の手がけるリブランディング事業が注目されている。同社は2011年3月に大学発ベンチャーとして創業して以来、「伝統を次世代につなぐ」をテーマに伝統的な商品の販売やセミナー、教育、ホテル事業などを展開してきた。リブランディング事業は伝統産業を支える中小企業のブランドイメージを刷新することで、再生を支援するプロジェクトだ。

鯖江の眼鏡メーカーで始まったリブランディング

その第1弾となったのが、眼鏡メーカーのマコト眼鏡(福井県鯖江市)。鯖江市と言えば「めがねのまち」として有名で、伝統的なものづくり産業の聖地と言える場所だ。しかし、地場メーカーの多くは大手眼鏡販売会社から受注を受けて、その指示通りに作るOEM(相手先ブランド)生産だ。

マコト眼鏡の増永昇司社長は、自社の哲学を反映した自社製品を開発したいと考えていた。そこで和えるの矢島里佳社長に相談し、2014年にマコト眼鏡のリブランディング事業がスタートしたという。

「リブランディングは原点に立ち返ることから始まる」と、和えるの高橋すみれ執行役員は話す。マコト眼鏡の「原点」、一番大切にしたいブランド哲学は「眼鏡は毎日使うからこそ、かけやすさにこだわりたい」だった。検討の結果、マコト眼鏡の強みは「確かな職人の技術力に基づいた人の手が加わることで実現する」「かけやすい眼鏡を実直に探求されている」だと明確になった。

和えるはマコト眼鏡のブランド哲学を一つずつ整理し、同社内で共通認識となるよう言語化した。その結果、社内の誰もが自社ブランドの構築について意見を出せるようになったという。同社の2022年モデルは、社内最年少の職人が中心となってプロジェクトに取り組んで誕生した。

このように和えるのリブランディングは、単なる商品デザインやロゴマーク、商品名の変更といった「小手先」の対応ではない。若手社員が持つ時代に即したアイデアや社員一人ひとりが持つ会社への想い、実行力などを束ねるために「ブランド哲学を言語化する」ことがリブランディングにほかならない。

地域おこしの手法としても注目

ブランド哲学という共通認識を通して、自社ブランドの軸からブレないアイデアが育まれやすくなり、生産性の高い循環が生まれる。同時に社内だけでなく、社外への広報活動の方向性が明確になり、消費者や社会にブランドに込めた想いが明確に伝わるようになった。

マコト眼鏡はリブランディングの結果、売上高が1.27倍、同社製品の取扱店舗が1.33倍と増えた一方で、経費を75%も削減できたという。現在、和えるでは10社のリブランド事業を同時進行中だ。

行政も、和えるのリブランディングに注目している。中小企業庁とは2021年度から事業承継後の中小企業向けにリブランディングを利用したポスト・マージャー・インテグレーション(PMI=合併・買収後の経営統合、業務統合、意識統合のプロセス)で連携し、事業を承継した新たな経営者や現場の声を傾聴しながらの伴走支援をしている。

2022年9月には奈良市、奈良商工会議所と地元工芸を次世代につなぐ「Nara Crafts’ Cross Project」が発足した。「次代の工芸作家のフロントランナーを創出する」をコンセプトに、工芸作家の活躍を多面的に支援するプロジェクトで、「伴走支援×公開講座×販路拡大」の三つの切り口で事業を進めている。

奈良市で始まった伝統工芸の活性化プロジェクト「Nara Crafts’ Cross Project」
奈良市で始まった伝統工芸の活性化プロジェクト「Nara Crafts’ Cross Project」(同社ホームページより)

高橋執行役員は「地方自治体と提携したリブランディングの伴走支援は、これからも増えていく」と積極的だ。和えるのリブランディング事業は、中小企業支援に留まらず地域活性化でも大きな役割を果たしそうだ。

文:M&A Online編集部

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