【イオングループ】M&Aで仕掛ける流通再編の行方は

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国内小売業初の
売上高7兆円突破

 イオングループ<8267>のルーツは、さかのぼること250年以上前の1758年、初代・岡田惣左衛門が太物・小間物商を三重県・四日市市で創業したことによる。株式会社化は1926年(昭和元年)で、資本金は25万円であった。69年にジャスコを設立し、現在では連結子会社284社、持分法適用会社31社、グループ売上高7兆円を超える企業集団となっている。売上高7兆円は、国内小売業初である。なお、2016年2月期の売上高見込額は8兆円である。

小売業でグループの75%の売り上げ達成
ドラッグ・ファーマシー事業が成長
 グループで行っている事業は、主に、「GMS」(総合スーパー)事業、「SM・DS・小型店」事業、「総合金融」事業、「ディベロッパー」事業、「サービス・専門店」事業、「国際」事業である。かつてのイオングループは小売業のみであったが、近年はさまざまな事業を展開し、各事業の強化の一環としてM&Aも有効活用している。

 なお、小売業(GMS事業およびSM・DS・小型店事業)でグループ全体の75%強の売り上げを計上しており、まだまだ小売業がメインであるが、小売業以外の事業、中でもドラッグ・ファーマシー事業が順調に成長している。イオングループは、各事業がそれぞれグループの大きな柱となることを目標に事業を推進している。

■イオングループが行った主なM&A

年月 内容
1991.9 ホームセンター大手のケーヨーと相互株式持ち合いによる資本業務提携、64億円を投じてケーヨーに5.02%を出資
1992.1 ジャスコとケーヨーが、北海道のホームセンター大手の石黒ホーマ―と相互株式持ち合いによる資本業務提携
石黒ホーマの第三者割当増資の引き受けにより、ジャスコは39億円で8.0%、ケーヨーは2.1%の株式を取得
1994.3 青森県で百貨店を営む中三と相互株式持ち合いによる資本業務提携
1994.11 酒類ディスカウントストア最大手のやまやと相互株式持ち合いによる資本業務提携
1995.1 北海道の大手ドラッグストアのツルハ(売上高295億円)と資本業務提携
ツルハの第三者割当増資により15%の株式を取得
1997.10 ジャスコは、会社更生法適用を申請したヤオハン・ジャパンの支援を発表
(ヤオハン・ジャパンは00年3月にヤオハンに社名変更)
1999.1 ツルハと共同して調剤薬局チェーンのクラフトに資本参加、20%の株主となる
1999.8 ツルハと共同して九州のドラッグストアチェーンのドラッグイレブン(売上高149億円)と資本業務提携
ドラッグイレブン株式をジャスコは6億円を投じて20%、ツルハは5%を取得
2000.1 ツルハと共同して愛知県を地盤とするドラッグストアのスギ薬局(売上高295億円)に資本参加
スギ薬局株式をジャスコは10%、ツルハは3%を取得
2000.4 神奈川県・静岡県を地盤とするドラッグストアのハックキミサワ(売上高3800億円。後にCFSコーポレーションと社名変更)と相互株式持ち合いによる資本業務提携
ハックキミサワの第三者割当増資に応じ24億円で株式を15%取得
2000.4 兵庫県を地盤とするドラッグストアのタキヤ商事(売上高124億円)と相互株式持ち合いによる資本業務提携
ハックキミサワの第三者割当増資によりジャスコは株式を30%、スギ薬局およびツルハは合計で15%取得
2001.11 民事再生法適用申請中のマイカルの再建支援企業にイオン(旧・ジャスコ)が選定される
選定後、マイカルの民事再生法手続中止を申し立て、会社更生法適用への変更の申請を行った
2002.2 民事再生手続き中の九州のスーパーを営む寿屋から50店舗取得
2002.5 茨城県を地盤とするドラッグストアの寺島薬局(売上高5710億円)と相互株式持ち合いによる資本業務提携。寺島薬局の第三者割当増資により4億8400万円を投じて株式の12%を取得
2002.5 スーパーを営むいなげや(売上高2133億円)の株式の26.1%を157億円で不動産会社の秀和から取得
2002.11 会社更生法手続き中のマイカル九州(売上高690億円)の再建支援企業にイオンが選定
2003.6 関東地盤のスーパーのカスミと資本業務提携、株式の15%を取得
2003.8 東北を地盤とするホームセンターを営むサンデーと資本業務提携。サンデーの大株主である吉田産業グループから10億円でサンデー株式20%を取得
2004.2 子会社である健康関連商品販売および化粧品事業を営むロイヤル・コスモの株式のすべて(90.6%)をヤマノホールディングコーポレーションに譲渡
2004.7 連結子会社であるイオンディライトがビルメンテナンス事業を営むあさひ銀ビル管理を買収
2004.12 連結子会社であるイオンディライトが総合ビル・マンション管理を営むタワーズを買収
2005.3 イオンが、戦略的資本提携として、総合小売業を営むカルフール・ジャパン(世界第2位の小売業であるカルフールの子会社)の全株式を取得
2005.12 ツルヤ靴店(売上高153億円)の株式の18.03%を取得し、業務資本提携
2006.2 米国孫会社が婦人服やアクセサリーの小売業を営むThe J. Jill Groupを5億1700万ドルで買収
2006.3 イオンが、弁当・総菜販売および飲食業を営むオリジン東秀(売上高474億円)を526億円で公開買付により買収)
2006.4 連結子会社であるイオンファンタジーが、ショッピングセンター内のアミューズメント施設の設置運営を行うマイカルクリエイト(売上高102億円)の株式を51億円で買収し、吸収合併
2006.4 ホームセンターを運営するサンデー(売上高358億円)の株式の50.1%を20億円で取得、子会社化
2006.7 資本業務提携としてスーパーマーケットを運営するベルク(売上高810億円)の株式の10%を取得
2007.3 イオン、ダイエーおよび丸紅の3社間で、ダイエー(売上高1兆469億円)の自主再生への協力を目的とする資本・業務提携の合意。資本・業務提携に伴い、丸紅が所有するダイエー株式をイオンが462億円で取得。丸紅に次ぐダイエーの第2位株主(出資比率15.12%)に
上記の資本・業務提携に伴い、ダイエーが所有するマルエツ株式をイオンが165億円で取得し、丸紅に次ぐマルエツ(売上高3204億円)の第2位株主(21.27%出資)となる。
その後、07年7月にイオン、マルエツ、丸紅の3社間で業務提携を締結
2007.5 連結子会社であるイオンディライトがコンビニ、ファーストフード、飲食店などの小型商業施設に特化した施工・メンテナンスを行うエイ・ジー・サービス(売上高35億円)の株式の20.4%を第三者割当増資引受けにより取得
2007.9 07年7月にイオン、マルエツおよび丸紅の3社間で締結した業務提携の効果を一層高めるため、イオンがマルエツ株式をダイエーから92億円で取得し、出資比率が31.9%に
2007.9 橘百貨店の株式を事業再生コンサル業のクアトロエグゼキューションズに売却
2007.12 食品スーパーマーケットを運営する光洋(売上高423億円)の株式の89.9%を取得し、子会社化
2008.5 ドラッグストアおよび調剤薬局の運営を行うCFSコーポレーションと業務・資本提携、22億8000万円を投じて33.3%を取得
2008.8 ドラッグストアおよび調剤薬局を運営するシミズ薬品(売上高118億円)と業務・資本提携、株式の30%を取得
2008.10 イオンディライトがビルメンテナンスを営む環境整備(売上高79億円)の株式の40%を買収
2008.9 ツルヤ靴店(売上高306億円)の株式の約8%を5億円で公開買付により追加取得。出資比率が26.90%になる
2009.4 イオンディライトが、ビルメンテナンスを営むドゥサービス(売上高66億円)の株式の40%を買収
2009.6 米国の孫会社がJ.Jill事業を譲渡
2010.5 CFSコーポレーション(売上高1456億円)を買収(公開買付と第三者割当増資)。40億円を投じて出資比率を50.08%に引き上げ
2011.1 サンデーの株式を公開買い付けにより追加取得、11億円を投じて出資比率が53.84%から77.04%に
2011.2 パルコの株式の12.31%を85億円で取得(市場内取引及び既存株主からの相対取引)
2011.4 イオンディライトが家事支援サービスを運営するカジタク(売上高5億円)を子会社化
2011.4 イオンディライトがエイ・ジー・サービス株式を追加取得、子会社化(出資比率が54.8%に)
2011.8 SC、SM、飲食店等の企画開発を行うロック開発(売上高172億円)に追加出資して子会社化
2011.10 食料品、衣料品の販売を行うマルナカ(売上高2053億円)を364億円で買収(出資比率94.96%)
2011.10 食料品、衣料品の販売を行う山陽マルナカ(売上高1241億円)を85億円で完全子会社化
2011.12 子会社のイオンフィナンシャルサービスが、リフォームローンなどを行う東芝ローンサービス(売上高40億円)に51.0%を出資、子会社化(出資額46億円)
2012.6 加工食品の卸売を行うテスコジャパン(売上高550億円)の株式の50%を1円で買収、子会社化
2012.7 ドラッグストアを経営するザクザク(売上高354億円)と業務・資本提携、15%を出資
2012.9 イオンディライトがアウトソーシング導入コンサルティングなどを行うジェネラル・サービシーズ(売上高3億円)を子会社化(出資比率51.01%、出資額3億円)
2012.11 仏カルフールより、マレーシアでハイパーマーケット事業を行うMagnificient Diagraph(売上高16億9700万マレーシアリンギット)株式を1億4700万ユーロで買収
2013.1 三菱商事より、テレビショッピングやカタログ通販を行うデジタルダイレクト株式を買収
2013.4 イオンフィナンシャルサービスが信用保証、保証業務、債権買取などを行う東芝ファイナンス(売上高1057億円)を61億円で買収
2013.7 イオンディライトが、建物保守管理を行う武漢小竹物業管理有限公司(中国、売上高3400万元)を1530万元で子会社化(出資比率51%)
2013.8 ダイエー(売上高7728億円)を130億円で子会社化(公開買付)、44.24%を出資
2014.9 スーパーマーケットのレッドキャベツ(売上高307億円)の株式の86.7%を買収
2014.9 子会社であるダイエー(売上高8136億円)を株式交換により278億円相当で完全子会社化
2014.11 調剤併設型ドラッグストアチェーンの運営を行うウエルシアホールディングス(売上高3607億円)に224億円を追加出資(37.41%→50.15%)、子会社化

ドラッグ・ファーマシー事業の
売上高前年比は228%と膨らむ

イオングループでM&Aを行っている会社は「イオン」「イオンディライト」「イオンファンタジー」「イオンフィナンシャルサービス」の4社で、中でも多いのは「イオン」と「イオンディライト」である。

 イオングループは毎期数々のM&Aを行っているが、基本的に既存事業の強化を目的としている。最近では、CFSコーポレーションやウエルシアホールディングスに代表されるドラッグ・ファーマシー事業のM&Aが目立つ。

 ドラッグ・ファーマシー事業は、14年11月のウエルシアホールディングスの子会社化により売り上げが大幅に増加している。15年2月期の決算説明によると、ドラッグ・ファーマシー事業の15年2月期の売上高は2,556億円であるが、通期でウエルシアホールディングスの売り上げが計上される16年2月期の売り上げ見込みは5,827億円となっている。売上高の前年比は、他の事業がおおむね100%超~120%以下であるのに対し、ドラッグ・ファーマシー事業の前年比は228%と大幅に増加している。

 イオングループでは、投資計画の見直しを行い、16年2月期の投資額を当初計画時より減少させるとしている。投資の内容について小売業については新店より既存店の強化に投資するとしているが、グループ再編や構造改革に対する投資、アジアシフトの強化についての投資は継続して行うので、M&Aについても引き続き活発に行われることが予想される。

イオングループの財務分析

■業績推移

■セグメント別売上高推移

■セグメント別利益推移

 イオングループの業績で顕著なのは、売り上げは順調に増加し売上高7兆円突破が強調されているが、利益は横ばい、むしろ減少傾向にあることだ。特にGMSおよびSM・DS・小型店事業は利益が大きく減少している。セグメント別の売上推移を見ると、GMS事業とSM・DS・小型店事業で全体の75%超を占めている。GMS事業及びSM・DS・小型店事業の売上高の推移は以下の通りである。

■GMS
■SM・DS・小型店
 GMS事業およびSM・DS・小型店事業はどちらも売り上げは増加しているが利益が減少している。特にGMS事業は15年2月期のセグメント利益がマイナスとなっている。GMSを構成する主要な連結子会社の業績を見ると、イオンリテールの業績悪化が目を引く。イオンリテールの業績は以下の通りである。

■イオンリテールの業績

項目 2014年2月(億) 2015年2月(億) 増減(億)
営業収益 19,612 19,356 △256
営業総利益 7,085 6,937 △148
販管費 6,810 6,912 +102
営業利益 275 25 △250

 有価証券報告書の事業別説明によると、GMS事業の不振は「消費税増税後の消費回復の遅れの長期化、集中豪雨や台風などの天候要因」が要因とされており、決算補足資料を確認すると、確かに客数は既存比マイナス4%ほど減少している。一方、販管費の増加は主に人件費及び販促費の増加が要因である。販促に力を入れたにも関わらず、消費税増税などの要因で売り上げが減少した結果、イオンリテールの業績は大幅に悪化している。

 また、ダイエーの子会社化もGMS事業の業績悪化の要因である。13年8月に子会社化し14年には株式交換により完全子会社化している。上場廃止前の四半期決算書(14年8月期)によると、ダイエーは半期で売上高3500億円、経常利益が△100億円となっている。ダイエーの子会社化により売り上げが大幅に増加したが、ダイエーの再建が進んでいないことで大幅な損失を抱え込む結果となっている。15年4月にダイエーの店舗の一部をイオングループの子会社5社が承継する旨のリリースが発表されたが、今後のダイエー再建の可否がイオングループの将来を占う試金石となるだろう。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部