イオンがいなげやを買収!鬼門となったイトーヨーカ堂の去就は?

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※画像はイメージ

イオン<8267>が、首都圏でスーパーマーケットを展開するいなげや<8182>を完全子会社化すると2023年4月25日に発表しました。イオンの子会社でマルエツ、カスミなどのスーパーを運営するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス<3222>と経営統合し、いなげやを上場廃止にするというもの。いなげや株はTOBプレミアムへの期待感で買いが先行し、買収発表後の4月26日に一時ストップ高となりました。

いなげやは2023年4月25日に業績の下方修正を発表。2023年3月期は17億円の純利益を予想していましたが、一転して10億6,100万円の純損失に切り替えました。いなげやの成長性は失われており、株価もTOPIXのパフォーマンスを下回る期間が長く続いていました。経営統合と上場廃止は、いなげやにとってメリットの高いものとなるでしょう。

もともと利益率が低いビジネスであるスーパーマーケットは、再編の動きが強まっています。セブン&アイ・ホールディングス<3382>のイトーヨーカ堂(東京都千代田区)は、アクティビストから売却を迫られています。その去就に注目が集まります。

この記事では以下の情報が得られます。

・いなげやの業績
・イトーヨーカ堂の売却が求められている理由

巣ごもり特需の営業が限定的だった「いなげや」

いなげやは、2022年9月末時点でスーパーマーケットの「いなげや」を132店舗、ドラッグストアの「ウェルパーク」を141店舗運営しています。「いなげや」は2021年12月に国分寺に1店舗新規出店していますが、店舗数は拡大よりも縮小傾向にありました。2020年3月末時点での店舗数は135。2年半で3店舗縮小しています。

スーパーマーケットの市場規模は長らく横這い状態が続いていましたが、新型コロナウイルス感染拡大以降、巣ごもり特需が起こって販売総額は大きく押し上げられました。経済産業省の商業動態統計によると、2019年のスーパーマーケットの販売総額は13兆円。2020年は前年の1.3倍となる14兆8,100億円に跳ね上がりました。その勢いは収まる気配を見せることはなく、2022年は15兆1,500億円まで伸びています。

※経済産業省「商業動態統計」より筆者作成

マーケットの急拡大による、いなげやへの影響は限定的でした。売上高は2021年3月期に前年同期比8.3%増の2,659億円となったものの、2022年3月期の売上高は前年同期比9.4%減の2,408億円と大幅な減収に見舞われました。

■いなげやの業績推移

※決算短信より筆者作成

更に資源高による水道光熱費の上昇、人件費の高騰など、店舗を運営するコストが上がっています。いなげやはその影響を消費者に転嫁することができず、2023年3月期の営業利益率は0.8%程度まで下がる見込みです。

ただし、これはスーパーマーケット全般に言えること。ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスの2023年2月期の営業利益率は0.9%。2022年2月期は1.7%でした。0.8ポイント下がっています。

スーパーマーケットは、仕入れや配送網、ポイントシステムなどを統合して徹底的な合理化を進め、人材交流や人材育成制度の流用を図って可能な限り効率的な店舗運営を行わなければ生き残れなくなりました。

今回の経営統合は、両社の経営合理化が進められるだけでなく、イオンにとってはPB商品の導入拡大が見込めます。いなげやはグループ内の動向を加味した出退店の見通しを立てやすくなります。

いなげやは上場維持にかかるコストも削減できます。いなげやの株価は、過去3年で振り返ってもTOPIXのパフォーマンスを一度も上回っていません。2022年11月にはPBRが1倍を下回っていました。

スーパーのように収益性を高めるのが難しい業種の場合、低PBRへの対策は簡単ではありません。非上場化も有効な選択肢の一つです。イオンはいなげやの経営の独立性は確保すると明言しており、メリットの高いM&Aとなる可能性が高いとい考えられます。

イトーヨーカ堂の切り離しは短期的なリターンを与えるだけなのか?

スーパーマーケット事業のM&Aで揺れている会社といえば、セブン&アイ・ホールディングス<3222>。物言う株主バリューアクトは経営陣に対して書簡を送り、イトーヨーカ堂を売却することで株価を2倍に引き上げることができると主張しています。

これはセブン&アイ・ホールディングスのコンビニ事業が圧倒的な収益性を持つ一方で、百貨店やスーパーマーケット事業の収益力が低いため。コンビニ事業の営業利益率は2023年2月期に26.1%ありましたが、スーパーマーケット事業はわずか0.8%しかありません。

いなげややユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスを見るとわかる通り、どのスーパーマーケットも営業利益率はこの水準であり、このビジネスを展開している限りは収益性が上向く見込みはありません。

そこで、バリューアクトはイトーヨーカ堂の切り離し(コンビニ事業のスピンオフ)を進言しているのです。セブン&アイ・ホールディングスの経営陣は、スピンオフが株主の一部に短期的なリターンを与えるだけであり、事業変革と価値創造に向けた推進力を大きく損なうものだと主張しています。

セブン&アイ・ホールディングスは、イトーヨーカドーの不採算店を整理する削減案を打ち出しましたが、バリューアクトはコングロマリット構造を支持しないと不満を表明しています。

セブン&アイ・ホールディングスは、バリューアクトが推薦する4名の社外取締役を企業価値向上のための適正を有さないと拒否しました。2社の対立は深まっています。

山場となるのが、2023年5月25日開催予定の株主総会。バリューアクトの提案が株主の支持を得られるかどうかで、イトーヨーカ堂の行く末は見えてきます。

業界再編の荒波が起こる中、どのような決断が下されるのか。注目が集まります。

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