アクティビストを考える(中)アクティビスト株主による敵対的買収とその防衛策 

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株主アクティビズムとPEファンドの収斂と敵対的買収

前回の「アクティビストを考える(上)アクティビスト株主による Bumpitrage と Appraisal Litigation」で触れたように、わが国も、株主が経営陣に対して経営改善の提言(キャンペーン)を行う活動(株主アクティビズム)が活発化しているが、近年、アクティビスト・ファンドとプライベートエクイティ・ファンドとの境界線が曖昧になってきている。

アクティビスト・ファンドは、経営陣の同意なしで株式ポジションを取得し、公の場でキャンペーンを開始することによって、変化をもたらす。一方、プライベートエクイティ・ファンドは、経営陣と同意の上、支配権を取得し、世間の目に留まることなく、潜在的な価値を創造する。すなわち、買収は「友好的(friendly)」といえる。

しかし近年、アクティビスト・ファンドは、より長期間にわたって多くの資本を調達し(保有期間は5年から7年間)、事業の再構築に注力できるようになったため、プライベートエクイティ・ファンドと協力して、友好的に支配権を取得し、一方、プライベートエクイティ・ファンドも、アクティビスト・ファンドの戦術を採用し始め、経営陣との対話を「強制(force)」するようになってきている。

すなわち、経営陣に非友好的な支配権の取得(敵対的買収)はいつ起こってもおかしくない。これはわが国も例外ではなく、2021年の敵対的買収の件数が過去最高の8件となり、TOB案件全体(71件)の10%を超えたことに象徴される。

敵対的買収に対する防衛策の許容性に関する司法判断

これに伴い、経営陣がこれに対する防衛策を講じるケースも増加し、2021年はかかる防衛策が法的に許容されるか司法で争われるケースが急増した。以下は、2021年の司法判断に、過去のリーディングケース3件の判断を追加したものである。

<敵対的買収に対する防衛策の許容性に関する司法判断>

2005年に判断された①(ニッポン放送事件)や②(日本技術開発事件)は、取締役会の判断で導入・発動した買収防衛策が肯定されている。しかし、①で東京高等裁判所は、「誰を経営者としてどのような事業構成の方針で会社を経営させるかは、株主総会における取締役選任を通じて株主が資本多数決によって決すべき問題」と判示し(東京高裁平成17年3月23日判時1899号56頁)、「支配権争いの帰趨は原則として株主が決めるべき」という考え方を示したため、発動の条件としての「株主の属性に着目した4類型(買収者がグリーンメーラーの場合、いわゆる「焦土化経営」を行う目的、レバレッジ・バイアウト目的、遊休資産を処分し株主に分配する目的)」は限定解釈すべきと解され、「株主への意情報提供と検討期間の確保」はこれを踏襲したと解されている。

「支配権争いの帰趨は原則として株主が決めるべき」という考え方が確立されたのは2007年に判断された③(ブルドックソース事件)である。③で最高裁判所は、「特定の株主による経営支配権の取得が企業価値をき損するか否かの判断は、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべき」と判示した(最決平成19年8月7日民集61巻5号2215頁)。これで、株主に支配権取得の是非についての判断を適切に行う機会を確保していれば、その買収防衛策は肯定されることが明らかになった。

この考え方は、2021年の一連の裁判例(④乃至⑦)に踏襲されている。すなわち、取締役会の判断で導入・発動した買収防衛策は否定され(⑤日本アジアグループ事件)、株主に支配権取得の是非についての判断を適切に行う機会を与えていた買収防衛策は肯定されている(④日邦産業事件、⑥富士興産事件、⑦東京機械製作所事件)。

なお、⑦(東京機械製作所事件)は、買付け方法が「市場内買付け」であり、株主のうち、買収者とその関係者および対象会社の取締役その関係者を除いた利害関係のない株主(いわゆる「MoM(Majority of Minority)」)の判断による買収防衛策が最高裁判所で肯定されたケースであるが、その射程は「3分の1を超える市場内買付け」に限定され、それ以外の買付けに対する買収防衛策を当然に肯定するものではないと解されている。

株主の判断が必要な理由

なぜ株主の判断が必要なのか。これは、わが国の買収防衛策の許容性の判断基準は企業価値基準(企業価値研究会「企業価値報告書~公正な企業社会のルール形成に関する指針」(平成17年5月27日))が適当という考え方が有力であるところ、裁判所は法律の専門家であるため、企業価値の高低を判断できず、また、取締役も利益相反のおそれがあり、企業価値基準とは異なる判断をするおそれがあるため、相対的に株主が判断した方がより好ましいと説明されている。

ある弁護士は一連の裁判例を振り返り、「買収防衛策は、取締役会に会社の支配権の帰属を設計する権限を付与するものではなく、『株主総会選挙』を実施するための舞台装置にすぎない」と評する。

会社経営の目的は、定款の目的およびミッションの最大実現にあるため、裁判所が敵対的買収者にこれを立証させ、判断すべきとするとの見解もある。しかし、裁判所は、原則として株主の判断に委ねることを明らかにした。経営陣は、『株主総会選挙』で選ばれるため、企業価値、すなわち、ROIC、成長率、WACCのいずれに貢献し、株価を向上させる努力をするしかない。

また、たとえ『株主総会選挙』で選ばれ、買収防衛策が肯定されたとしても、株価は元に戻る傾向がある。『株主総会選挙』後にこそ、経営陣の真価が問われる。

【参考文献】

飯田秀総(2020)「企業価値基準における買収防衛策に関する裁判所の役割」久保大作ほか『企業金融・資本市場の法規制』(商事法務)243-262頁

上村達男(2021)『会社法は誰のためにあるのか-人間復興の会社法理』(岩波書店)

田中亘(2021)「防衛策と買収法制の将来〔下〕-東京機械製作所事件の法的検討-」旬刊商事法務2287号32-45頁

倉持雄作(2021)「近時の買収防衛策発動事案と権限分配論」資料版商事法務2021年12月号3頁

Crawford, Aneliya S. and Gruenberg, Matthew J. (2020) Friend or Foe? The Convergence of Private Equity and Shareholder Activism, posted on Harvard Law School Forum on Corporate Governance (Mar.21. 2020).

文:吉村一男