東京海上ホールディングス<8766>の傘下にあった投資ファンド・東京海上キャピタルが2019年9月にMBOを実施しました。金融コングロマリットなどの傘下にファンドの運用会社がある場合、親会社とファンドへの出資者の間で利益が対立する恐れがあります。
投資ファンド(この場合は東京海上キャピタル)は親会社と出資者の間に挟まれ、正しい意思決定ができない恐れがありました。特に海外の投資家は利益相反を懸念して出資を見送るケースが見受けられます。その障害をMBOで乗り越え、東京海上ホールディングスから独立してティーキャピタルパートナーズとなりました。
この記事では以下の情報が得られます。
・ティーキャピタルパートナーズの概要と佐々木社長の手腕
・主な出資先
・三起商行(ミキハウス)買収の内容
ティーキャピタルはMBOを実施した後、2020年12月に募集を開始した初めてのファンドで、目標金額700億円を上回る810億円の資金を集めて2021年2月に募集を締め切りました。
銀行や大学基金、年金基金など、国内だけでなく、北米、欧州、アジアなどの海外からの機関投資家からも資金を集めました。海外で懸念される利益相反の問題をクリアし、見事に成果として結実しています。
ティーキャピタルの前身である東京海上キャピタルは、1991年に設立されました。1998年8月に第1号ファンドとなる「TMCAP98投資事業有限責任組合」を組成しています。組成額は37億円。その後、2000年10月に「TMCAP2000投資事業有限責任組合」を223億円で組成。2005年から2016年にかけて、200億円から500億円規模のファンドを次々と立ち上げました。今回、810億円を集めたファンドは6つ目となります。
取締役社長・マネージングパートナーの佐々木康二氏は九州大学法学部卒業。ペンシルべニア大学ウォートンスクールでMBAを取得後、日本長期信用銀行に入行しています。M&Aアドバイザリーなどを経験した後、東京海上火災保険に転職し、子会社の東京海上キャピタルに参画しました。
当時、東京海上キャピタルは親会社の資産運用チームとして、主にベンチャー投資を行っていました。佐々木氏はそれをバイアウト型の投資ファンドに変革するため、実績の積み上げやチームの意識改革に乗り出すなど、会社の組織体制そのものの造り替えに着手しました。M&Aやファンドの資金集め、投資先の経営支援の他、自社の経営改革も成し遂げた実力者です。
佐々木氏が目覚ましい活躍をしていたとき、代表取締役社長を務めていたのは深沢英昭氏です。深沢氏も日本長期信用銀行出身で、2004年に東京海上へと転職しています。深沢氏は2015年に東京海上キャピタルの会長に就任し、佐々木氏が社長となりました。同じエリートコースを歩んだ二人のツートップ体制が確立されます。
現在、MBOで独立系投資ファンドとなったティーキャピタルは、佐々木社長をトップとし、4名の取締役が脇を固める経営体制をとっています。
2020年3月期は2億6,200万円の黒字、2021年3月期は1,400万円の赤字でした。ティーキャピタルは菓子総合商社のコンフェックスやチルドスイーツのロピア、航空機の金属機械加工を行う今井航空機器工業などの出資をしており、投資先が新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた可能性があります。
■投資中の会社
投資先 | 事業内容 | 投資形態 |
---|---|---|
WITHホールディングス | 保育施設の運営に関する経営コンサルティング | 事業承継型 |
アクトワンヤマイチ | 建設用軽仮設機材のレンタル | 経営者独立型 |
旭ハウス工業 | 仮設資材の販売・レンタル | 事業承継型 |
今井航空機器工業 | 航空機・自動車部品の金属機械加工 | 事業承継型 |
コンフェックス | 菓子総合商社(製造、小売も実施) | 事業承継型 |
ロピア | チルドスイーツの企画・開発・製造 | 事業承継型 |
■エグジット済みの会社
投資先 | 事業内容 | 投資形態 |
---|---|---|
ケーイーシー | 産業用自動化設備の設計・製造 | 事業承継型 |
大和 | ギフトカタログの企画・制作・販売 | 事業承継型 |
泉精器製作所 | 電設工具及び家電製品の製造・販売 | 経営者独立型 |
MS&Consulting | 覆面調査及びコンサルティング | 経営者独立型 |
ショクカイ | 食品卸売業 | 事業承継型 |
東日興産 | 建設機械・農業機械部品等の販売 | 事業承継型 |
アスプルンド | 雑貨等の企画・製造・販売 | 事業承継型 |
武州製薬 | 医薬品の製造受託 | カーブアウト型 |
昭和薬品化工 | 医薬品、医療機器の製造・販売 | 経営者独立型 |
バーニーズジャパン | 衣料品・雑貨等の販売 | カーブアウト型 |
三起商行 | ベビー・子供服「ミキハウス」の製造・販売 | 事業承継型 |
ベネックス | 溶接継手・メカニカル継手の製造・販売 | 経営者独立型 |
スイートガーデン | 生洋菓子の製造・販売 | 再生支援型 |
ワンビシアーカイブズ | 企業等の重要情報の管理・保管 | 再生支援型 |
ビー・エス・シー | OAサプライ用品の販売 | 経営者独立型 |
エンゼルフードシステムズ(現フードリーム) | 外食チェーンの運営 | 再生支援型 |
ゼロ | 完成自動車の輸送 | カーブアウト型 |
スポーツプレックス・ジャパン | フィットネスクラブ運営 | 経営者独立型 |
ザイマックス | プロパティマネジメント | カーブアウト型 |
日本体育施設運営 | フィットネスクラブ運営 | 経営者独立型 |
なかでも出資先として有名なのは、東京海上キャピタル時代の三起商行(大阪府八尾市)です。
三起商行は子供服ブランド「ミキハウス」を展開する会社。1978年9月に現在の代表取締役社長である木村皓一氏が創業しました。国内の子供服市場でトップシェアを持ち、海外にも多数出店する数少ない会社の一つです。
三起商行は卸売事業の縮小などが続き、2005年8月期に52億円の赤字に転落。有利子負債も200億円に膨らんでいました。再建のパートナーとして選んだのが東京海上キャピタルでした。2006年8月に総額40億円の第三者割当増資を実施し、全額を東京海上キャピタルが引き受けました。店舗のリニューアルやインターネット通販などを通して顧客を開拓し、2010年の株式公開を目指す計画でした。
ファンドの傘下に入り、三起商行は在庫の圧縮やギフト需要の取り込みなどの改革を行います。2011年2月期には有利子負債を半分程度まで圧縮。上場まではいかないまでも、再建の目途がつきました。
2011年11月に日清紡ホールディングス、帝人グループのNI帝人商事、小学館集英社プロダクションなどに保有していた株式を60億円で売却しました。
NI帝人商事は中国、東南アジアの生産ネットワークを構築しており、衣料製品のOEM事業を展開しています。2002年から三起商行に商品供給を開始していました。ミキハウスは旺盛な消費を取り込むため、中国への出店を強めていました。それは新型コロナウイルス感染拡大後も変わっていません。
2021年末時点での店舗数を、2018年比で2倍となる80店舗と見込んでいます。投資ファンドが再生の支援をし、再建完了後に株式を譲受した会社がパートナーとなって海外展開をバックアップするという、理想的な構図が出来上がりました。
文:麦とホップ@ビールを飲む理由