さて、クラウドソーシングのランサーズで100円の仕事をもらって喜んでいた私ですが、毎日、低単価の仕事を受けては、お金が入ってくる喜びに感動していました。
当時の私は30代後半で、それまで会社員として固定給をもらうという働き方しかしたことがなかったのです。決まった日に給料が入金されるけど、増えることはない。むしろ派遣だから休日が多いと収入が減る・・・そんな生活を続けていたせいで、収入に対する価値観が固定されていたのです。
しかし、この固定給の考え方がいつまでも私を縛り、後々まで苦しめることになります。
それでも、私は毎日ランサーズにログインし、お仕事(案件)を探していました。まるで当時、社会問題だったワンコールワーカーのオンライン版のようだなと思いつつ、ネットの仕事を日雇いで。それでも、お金が入ってくる、自分の力で稼ぐというのは、何者にも代えがたい喜びです。
そうこうしているうちに、ある日、運命的な出会いがありました。それが、2014年秋のこと。「1,000文字書けば1,000円もらえる」という案件が掲載されていたのです。それまで、「500文字書いて100円レベル」でしたから、これはすごい!生計が成り立つ!とばかりに、大喜びで案件に飛びついたのです。
いわゆる1円ライターとしてのはじまりです。エンタメサイトで無記名の音楽コラムを書くというお仕事で、自分にぴったりだと思いました。音楽にまつわるビジネスを展開している企業さんが、オウンドメディアを立ち上げて、そこに掲載する記事を求めていたのです。
派遣社員の頃、テレビをよく見ており、音楽というよりは芸能人というくくりで彼らのエピソードを集めるのが好きだったので、自分のなかの脳内データーベースをサーチして、記事に練り込んでいました。
当時の私は、1日1,000文字の文章を15本ぐらい書いていました。1時間に1,000文字書きますから、膨大な文章量です。それでも、なかなかの量を書くのは大変。大学のレポートが3,000文字だとすると、1日15,000文字というのはレポートを5本分書くことになるのです。1日15,000文字書いて、文字単価は1円ですから、手数料を引いて日給10,000円。
たくさん書くうちに、独自の文章スタイルをいつのまにか生み出していました。それが、「ひねる文章」です。いまWebライターが非常に増えていて、Webの書き仕事は膨大に存在します。そこでノウハウとして語られることに、「指定のキーワードで上位10記事を検索し、そこに書いてあることプラスアルファで記事を作成し、網羅的に文章をつくる」というものがあります。
これって、書いている側は、まとめてるだけなので本当につまらないですし、読み手には、「検索する手間が省けた」というメリットしかないんです。
でも、私の仕事は音楽コラムでした。
最初にこの案件に出会えたことは本当にラッキーで、私は無記名でありながらも、コラムを書き続け、それが結果として「文章をひねる」練習になりました。
たとえば、「森山直太朗さんに『うんこ』という名曲があって、うんこは自意識の表象。うんこは私たちから出ていって、曲になって戻ってくる」とか、「エグザイルは暴○団から暴力が抜けて、ただの団だから人気、というコラムがあったが、それはある意味あたっており日本のヤンキー主義が…」など、駄文といえば駄文なのですが、とにかくユニークでひねりが聞いているような文章を納品し続けました。お客さんにも、「面白い」といわれ、売上もあって、ハードながらも楽しく仕事していました。
これが、ネットのまとめをスピーディに納品するという案件だったら、私は1円ライターを脱出できず、さらには月7桁も無理だったでしょうし、そもそもつまらなくてライターをやめてしまっていたかもしれません。
ただ、冒頭に書いた私の「固定給をもらいたい」という価値観が、いつまでも伸び悩みになりました。当時は1円ライターで月30万円ぐらいの売上で、その生活を半年ほど。
でも、ある日、思い切って、その価値観を捨ててみたのです。
「このまま、月30万円の収入が一生、あと30年続けばいいなあ」という妄想を完全に捨て、「もっともっと、やりがいのある仕事をしてみたい」と思うようになったのです。
この価値観の転換こそが、私を1円ライターから月7桁にぐーっと押し上げたポイントだと思っています。
(次回 7/6 に続きます)
文:名もなきライター