コロナ緊急事態宣言解除後に「観光客の足が遠のきそうな県」3選

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2020年5月14日、政府は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う緊急事態宣言の解除を決めた。これにより東京都や大阪府など8都道府県を除く39県が正常化に向けて動き出す。当面、県境を越えた移動の自粛は呼びかけられるが、コロナ感染でゴールデンウィークの「稼ぎ時」を逃した観光業者にとっては朗報といえる。

しかし、手放しで喜べる県ばかりではない。SNSやネット上で「2度とあの県には足を踏み入れない」「コロナが収まったから来て下さいとはムシが良すぎる」と槍玉(やりだま)に挙がっている県もあるのだ。地元観光業者にとっては業績低迷の長期化を招きかねないだけに、大きな不安材料になっている。なぜそんなことになってしまったのか?そして、どうすれば観光客に気持ちよく訪れてもらえるのか。

知事の発言で「大炎上」(岡山県)

「まずいところに来てしまったと後悔してもらうようになれば良い」。同4月24日に山陽自動車道下りの瀬戸パーキングエリア(岡山市東区)で来県者の検温を実施すると発表した記者会見で飛び出した伊原木隆太岡山県知事の発言は、あっと言う間にネットで「大炎上」した。警察官や岡山県の職員が県外ナンバーのドライバーに声をかけて検温するものだが、知事の発言から感染者の発見よりも「威嚇的な嫌がらせ検査」と見なされたのだ。

ネットでの批判だけでは収まらず、岡山県庁には「現場で妨害する」「県外人を病原菌扱いするのか」などと苦情の電話やメールが殺到。伊原木知事は同28日に「つたない発言で不快な思いをさせたことをおわびする」と謝罪した。しかし、パーキングエリアでの検温を中止するかわり「高速道路会社に県内のでインターチェンジを閉じていただくようお願いする」と発言し、再び「炎上」。西日本高速道路からも「岡山県の物流を滞らせるわけにはいかず、封鎖には応じられない」と突き放される始末で「傷口」を広げてしまった。

もっとも伊原木知事の発言は世論から逸脱したものではなかった。他の都道府県知事も観光での来訪を自粛するよう強く呼びかけていたからだ。島根県は同29日に県民向けに「会いたいからこそ、今は会わないようにしよう」と新聞広告で訴え、全国の共感を呼ぶ。あくまで「島根県出身者」の帰省自粛を促す広告だったが、ネット上で話題となり観光客の抑止効果もあった。

岡山県同様、観光客の来県自粛を訴えた岐阜県の高山市、飛騨市、白川村は、同30日にYouTubeで3市村長が「現在、飛騨はお休み中です」と告知する動画を配信している。「収束した折には地域を挙げて皆様を歓迎させていただきます。それまで今しばらくお待ちいただきますようお願いいたします」と丁重に呼びかけ、「失礼なお願いかとは存じますが、ご理解ご協力をいただければ幸いです」と深々を頭を下げるなど「お願い」の体裁を取ったことで、県外からの反発は招かなかった。

岡山県にとって不幸中の幸いは、伊原木知事だけが「悪役」になっていること。岡山県自体や県民に対する反感ではない。緊急事態宣言解除後の観光キャンペーンを「知事抜き」で展開すれば、自然環境に恵まれ優れた観光資源を持つ岡山県だけに人気回復も早いだろう。

「調査」引き金に一部県民が暴走(徳島県)

知事の発言は問題なかったのに、それが引き金になって一部の人たちが過激な行動に出た県もある。同21日に徳島県の飯泉嘉門知事が「県外ナンバーの車がどれくらい来ているか実態を把握する」と発言し、翌22日から県内高速道路のインターチェンジや観光施設などで県外ナンバー車の流入調査を実施した。

県民から「来県自粛が呼びかけられているのにもかかわらず県外ナンバー車が多い」との指摘が寄せられたのを受けた実態調査で、県外ナンバー車を呼び止めたり警告を発したりするわけではなく、県外からの来訪者が不愉快に思うことはない。しかし、予想外の事態が起こる。徳島県内で県外ナンバー車へのあおり運転や投石、傷つけ、ドライバーへの暴言などの嫌がらせが相次いだのだ。

ネット上では岡山県に対するような「怒り」や「抗議」よりも、「こわい」「県外の人が行ったら何をされるか分からない」といった反応が多かった。「知事の失言」よりも「県民性」が問題になったわけで、観光業者にとっては深刻な懸念材料だ。

ただ、同23日に内藤佐和子徳島市長が緊急会見を開き、こうした嫌がらせに対して「県外ナンバーに敵意を持つのはやめていただきたい。差別や分断は容認できない」と明言。全国ニュースとして大きく報じられる。飯泉知事も「強いメッセージになり過ぎたかもしれない」と反省し、嫌がらせをしないよう県民に呼びかけるなど、行政のフォローも早かった。

宣言解除後の観光キャンペーンでは、徳島県の好感度回復が最優先課題になる。県外ナンバー車に対する嫌がらせを容認しない姿勢をいち早く打ち出して知名度が上がった内藤徳島市長を「看板」にすれば、徳島県のイメージアップにつながるだろう。

「過熱報道」が懸念材料に(沖縄県)

沖縄県は知事が問題発言をしたわけでも、県民が過激な言動を取ったわけではないのに、観光客の回復が懸念される。その原因は沖縄県が日本を代表する「観光県」であること。沖縄県は来県自粛を呼びかけたが、それはどこの都道府県でもやっている。問題は「観光県」だけに、マスメディアが「自粛破り」問題を全国ニュースとして大きく報道したことだ。

同28日にテレビが「沖縄県が自粛呼びかけるも1万8000人余が渡航予約」と全国放送で報じると、SNSやネット上で沖縄県への旅行者を厳しく批判する投稿が相次いだ。「自粛破り」の観光客批判は地元住民によるもの多いが、沖縄県は全国的に有名な観光地だけに県外からの批判も目立つ。その結果、沖縄の観光客批判は膨れ上がってしまう。県内地元紙では「沖縄に旅行した人の投稿があれば批判がわき起こる」と懸念する記事も掲載されている。

「沖縄に行くのは悪いこと」とのイメージが例え短期間でもつくと、県内経済に占める観光業の比率が高いだけに深刻な打撃になりかねない。県内59ホテルが加盟する沖縄県ホテル協会によると、同5月8日時点で加盟ホテルの半数にあたる30施設が休業中。1日も早い観光客の回復を待ち望んでいる。

沖縄県の場合は、知事の発言や県民性など地元に問題があるわけではない。マスメディアによる報道が懸念材料なのだから、回復も報道に頼るべきだろう。幸い沖縄県の観光資源は豊富で、報道材料には事欠くことはない。県や市町村だけでなく、観光団体や企業がマスメディアへ積極的に情報発信する努力も必要だろう。

文:M&A Online編集部