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原発事故最前線で闘い続けた勇者たちの物語『Fukushima 50』

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©2020『Fukushima 50』製作委員会

全世界が震撼した東日本大震災3.11
危機の最前線で闘い続けた者たちの物語

「Fukushima 50(フクシマ・フィフティ)」とは、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故において、発電所に残って作業を続けた約50人の作業員のこと。欧米メディアが一斉にこの呼称を使用したことから、広まった。

想像を超える被害をもたらした原発事故の現場で何が起きていたのか。映画『Fukushima 50』は、作業員たちが死を覚悟しながらも大事故と闘い続けた姿を伝える。

原作は門田隆将のノンフィクション「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫刊)。福島第一原子力発電所所長(当時)の吉田昌郎氏を始めとする90人以上の関係者に取材した。

<Fukushima 50のあらすじ>

2011年3月11日午後2時46分。マグニチュード9.0、最大震度7という、国内観測史上最大の地震が発生。想定外の大地震による巨大津波が福島第一原子力発電所を襲った。全電源喪失で原子炉の冷却が不可能となり、原子炉建屋は次々と水素爆発を起こす。最悪の事態ーメルトダウン(炉心溶融)が迫りつつあった。

福島第一原発1・2号機の当直長・伊崎利夫(佐藤浩市)は次々に起こる不測の事態に対して第一線で厳しい決断を迫られる。所長の吉田昌郎(渡辺謙)は現場の指揮を執りつつ、状況を把握していない本社とのやり取りに奔走。緊急出動する自衛隊、そして米軍。仮に福島第一原発を放棄すれば、高度の放射能が広範囲に広がり、東京を含む東日本が壊滅する…。未曾有の危機に直面し、死を覚悟して発電所内に残った職員たちは、家族を、そして故郷を守るため、この未曾有の大事故と闘い続けた。

<見どころ>

緊張感のコントラストが際立つ中央制御室と緊急時対策室

物語は2011年3月午後2時46分から始まる。大きな揺れが続く中、中央制御室にいた1・2号機当直長の伊崎はスクラム(原子炉の緊急停止)を指示する。作業員たちは声を掛け合いながら、各々担当する計器を操作していた。そのとき、「止める、冷やす、閉じ込める」と書かれ、壁に掛けてあった安全三原則の額縁が落ちてガラスが割れる。これから起こることを暗示するかのようだ。

作品のメイン舞台となる中央制御室は、東京・調布にある角川大映スタジオにセットが作られた。壁に並ぶいくつもの計器は、実物とまったく同じデザインで再現した。

爆発時のシーンも見どころだ。制御室内の天井の板や蛍光灯が一気に落下するのだが、それらは細かくワイヤーで繋がれ、セットの脇に立つスタッフがタイミングを合わせて手に持ったワイヤーを離す「手動」で行われたそうだ。一度落としたら、元の状態に戻すには時間がかかる。緊張感が漂う中、見事に天井が崩れ、セット中にホコリが舞った。

©2020『Fukushima 50』製作委員会

もう1つのメイン舞台は、吉田所長がいる緊急時対策室である。テーブルの位置や壁の色まで実物と同じで、細部までリアリティが追求された。ここではエキストラも含めて多くの人間がぶつかり合うように慌ただしく仕事をしている。

©2020『Fukushima 50』製作委員会

現場の状況を理解しない東京電力本社(本店)や政府との間で怒号が飛び交う様子は映画であることを忘れ、まるで当時を見ているかのようだ。

表情ににじみ出た仕事への信念と家族への想い

メインキャストは福島第一原発1・2号機当直長・伊崎利夫役に佐藤浩市、福島第一原発所長・吉田昌郎役に渡辺謙。2人を支える作業員たちやその家族役に吉岡秀隆、安田成美、火野正平、平田満、萩原聖人、富田靖子、中村ゆりといった豪華な顔ぶれが並び、物語に深みを与えている。

福島第一原発では作業員たちが5日間、不眠不休で作業に取り組んでいた。若松節朗監督は時系列で書かれた脚本の順を追って撮影する順撮りを行い、男性のキャストは役柄と同じようにヒゲを剃らずに日々の撮影に臨んだ。少しずつ顔がやつれ、表情が険しくなっていく。作業員の疲労困憊した状況がひしひしと伝わってきた。

物語の中盤、伊崎が作業員を集めて、原子炉格納容器の圧力を抜く「ベント」の指示が出たことを伝えるシーンがある。手動で行わざるを得ない作業に誰が向かうのか。伊崎が「まず俺が行く」と手を挙げるまでのほんの少しの間に表現された、仕事への信念と家族への想いに葛藤する姿は見る者の心を揺さぶる。佐藤浩市の重みのある演技が光る。

避難所のシーンも印象的だ。作業員の妻(中村ゆり)が着ていたコートの胸に東電のマークがあり、それを周囲の人がじっと見つめていた。そのことに気づいた伊崎の妻(富田靖子)が彼女をそっと連れ出し、コートを脱がせる。被災者であると同時に原発関係者である作業員の家族らの複雑な胸の内が垣間見える。

東日本大震災からまもなく9年。当時、大切な人を守るために危険を顧みずに作業に取り組んだ人たちがいた。そして福島第一原発では今もなお多くの作業員が、30~40年後とされる廃炉に向けて作業に取り組んでいる。

原発事故との闘いはなお続いているという重い現実を思い起こさせる力作である。

文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

©2020『Fukushima 50』製作委員会

<作品データ>
『Fukushima 50』
出演:佐藤浩市、渡辺謙
監督:若松節朗
脚本:前川洋一
原作:「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」門田隆将(角川文庫刊)
製作:KADOKAWA
配給:松竹、KADOKAWA
©2020『Fukushima 50』製作委員会
公式サイト:https://fukushima50.jp

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