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シュレイダー×スコセッシが挑む、衝撃の話題作『カード・カウンター』

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ただのギャンブル映画ではない。シュレイダー×スコセッシが挑む、衝撃の話題作

オールバックのヘアスタイルで、ワイルドな色気をまとった男。トランプを片手に、クールな眼差しを光らせる……。公式サイトのビジュアルから、ギャンブルに命運を賭けた男の物語を想像していた。でも、違った。想像をはるかに超えていた。

『タクシードライバー』『レイジング・ブル』などの傑作を生んだポール・シュレイダーが監督・脚本を手掛け、盟友マーティン・スコセッシが製作総指揮を務めた最新作『カード・カウンター』が6月16日より全国順次公開する。

『カード・カウンター』画像1
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主人公の謎めいたギャンブラー、ウィリアム・テルを演じるのは、『スターウォーズ』シリーズ続三部作のポー・ダメロン役をはじめ、『DUNE/デューン 砂の惑星』、『ムーンナイト』などの出演作をもつ、オスカー・アイザック。消すことのできない罪、内側に秘めた怒り、忘れかけていた、人の温もり――。ぜひ劇場に足を運び、ギャンブラーが引き当てた運命のカードを目撃してほしい。

罪悪感や憤り、心の痛み。トラウマに苦しむ男を駆り立てたものとは

アメリカ中のカジノを渡り歩く、ちょっと風変わりなギャンブラー、ウィリアム・テル(オスカー・アイザック)。米国軍刑務所で8年間服役し、独学でカードの扱い方を身につけた彼は、「小さく賭けて小さく勝つ」をモットーとし、決して目立たず、匿名でいることを好む。

ある日、ウィリアムはギャンブル・ブローカーであるラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)から、大金が稼げるというポーカーの世界大会への参加を持ちかけられる。一度は断ったウィリアムだったが、その直後、アトランティックシティで二人の男達とめぐり合う。

一人は、かつて自分の人生を一変させた男ジョン・ゴード少佐(ウィレム・デフォー)、もう一人は、ウィリアムと疑似父子のような関係を結ぶ若者カーク(タイ・シェリダン)。この運命的な出会いが、抑圧していたウィリアムの心に火をつけ、駆り立てる。

彼はラ・リンダにコンタクトを取り、自らの贖罪やトラウマと向き合いながら、世界大会のテーブルに座る。

『カード・カウンター』画像2
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イラク戦争従軍時に捕虜に対して行った、悪魔のごとき所業

ウィリアムが抱えている、消すことのできない罪とは何か。「罪」を主題とする映画制作にこだわってきたシュレイダー監督は、今作で、主人公がイラク戦争従軍時に経験した、暗く無秩序な物語の背景を作り上げた。

元上等兵のウィリアム・テルはイラク戦争の折、特殊作戦兵士としてアブグレイブ捕虜収容所に赴き、上官ゴードの指示のもと、捕虜に対し拷問を行った過去をもつ。「彼は犯した罪を乗り越えることができなかった」とシュレイダー監督は言う。

「連続殺人犯でさえ自らを許すことができる。しかし、彼がアメリカに汚名を着せることをしたとしたらどうだろう。その時、私はアブグレイブ捕虜収容所で(実際にあった)拷問について考えていた。それは単にアラブ人捕虜とアメリカ人拷問者の問題ではなく、国全体と軍事文化のせいで起こった不正行為だと考えた」

『カード・カウンター』画像3
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ウィリアムの頭の中では、時おり拷問行為の場面がフラッシュバックのようによみがえり、悪夢にさいなまれる。人間の尊厳を無視した、極限までの騒音、暴力、電気ショック、性的虐待、排泄物による汚染……。それは人権侵害という言葉では語れないほど凄惨で、まさに悪魔の所業だった。

だからウィリアムは、ギャンブルで派手に勝つことには無関心だ。しかし息子のような相棒や愛する人と出会ったことで、彼の中で氷のような塊が少しずつ溶け始める。自らの心の痛みを克服し、許しを請い、罪を償おうとするように。

『カード・カウンター』画像4
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日本古来の武道精神「守・破・離」の道筋を想起する、巧みで繊細な描写

本作を鑑賞しながら、筆者の脳裏には、日本古来の武道精神である「守・破・離(しゅ・は・り)」の道筋が浮かび上がった。

まず「守」は、自らの罪と向き合い、その重荷を受け入れる段階だ。次に「破」の段階では、新たな出会いと絆を通して、自己を再び組み立てようとする。そして「離」の段階では、自分を束縛していたものから解き放たれ、信じた道を突き進む。

映画では、この3つの過程が繊細に描かれ、観る者の心に深く問いかける。カジノやギャンブルといった、喧噪が似合う場面を主軸に据えながら、この映画の圧倒的な静けさはなんだろう。

湖面に落ちた一粒の水音さえも響くような「静」の世界のあとには、息をもつかせぬ「動」の世界がやってくる。

映画のエンドクレジットが終了しても、しばらくスクリーンの前から動くことができなかった。

文:小川こころ(文筆家/文章スタジオ東京青猫ワークス代表)

<作品紹介>『カード・カウンター』
6/16(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほかにて全国順次公開

監督・脚本:ポール・シュレイダー
製作総指揮:マーティン・スコセッシほか
プロデューサー:ブラクストン・ポープ、ローレン・マン、デビッド M. ウルフ
撮影:アレクサンダー・ディナン
音楽:ロバート・レヴォン・ビーン
プロダクション・デザイナー:アシュレイ・フェントン
編集:ベンジャミン・ロドリゲス・ジュニア
出演
オスカー・アイザック :ウィリアム ・テル
ティファニー・ハディッシュ :ラ・リンダ
タイ・シェリダン:カーク
ウィレム・デフォー:ジョン・ゴード少佐

2021年/アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン/英語/112分/カラー/ビスタ/5.1ch
原題:The Card Counter/R15/日本語字幕:岩辺いずみ/字幕監修:木原直哉 配給:トランスフォーマー

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『カード・カウンター』ポスタービジュアル
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