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相次ぐ経営トップの辞任劇 「経営者にふさわしくない人材」とは

※この記事は公開から1年以上経っています。
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ビズサプリの辻です。ここ最近上場企業のトップが突然辞任や解任されるといった報道が続きました。

・上場会社の社長が交際費の私的流用で解任
・上場会社の会長が、飲食店の女性に不適切な行動をとったことで辞任
・不貞行為で社長が突然の辞任

どのトップも業績では大変優秀な経営者だったというような報道もありました。業績をけん引していたトップが、このような理由で突然退場するというのは、これまではあまり例がなかったと思いますが、今は非倫理的な行為を社会が許さないということなのでしょう。

不祥事によって突然トップが交代することは、組織にとってレピュテーションを毀損して迷惑千万なだけでなく、業績面で優秀だったトップを意図しないタイミングで失うわけですから、大きなリスクともいえます。

リーダーシップ論などは数多くありますがどんな人が「ふさわしくないのか」ということは語られることは少ないと思います。今日は、「経営者にふさわしくない人材の見極め方」という面白い研究論文がありましたのでご紹介します。

1.私的な非倫理的な行為と虚偽報告の関連性

この研究では、私立探偵を使って、1,000名以上のアメリカの企業幹部のライフスタイル(業務外の行動)について、法律の文書を調査し、軽微な交通違反から酒気帯び運転、迷惑行為、薬物犯罪、家庭内暴力などの個人的なルール違反の有無を把握しました。(米国の私立探偵は関連する公文書の多くを合法的に入手できるそうです。)その結果、何かしらの私的な違反行為をしていたCEOは全体の18%に上ったそうです。

その上で幹部の私的な違反行為が、企業活動と関連性があるかどうか、つまり「プライベートでルール違反をする経営者がいる会社は虚偽報告をしやすくなるのか」分析したところ、両者には相関関係があるという結論でした。

CEOに私的な違反行為があった場合には、違反行為がなかったCEOの企業に比べて虚偽報告をした確率は2倍以上高く、CEOが関与した確率は7倍以上高かったそうです。また、「インサイダー取引」についても同様の分析をしたところ、やはり私的な違反行為との相関関係があったそうです。

トップの後継選びに関わる取締役会が、後継者候補がプライベートでどのような生活を送っているのかに留意しなければいけない日がくるのかもしれません。

2.物質主義と企業活動の関連

次に物質主義と企業の不正行為との相関関係も調べていました。

物質主義は、
・私邸の価値が近隣地域における中央値の2倍を超えていること
・所有者の価格が7万5000千ドルを超えていること
・全長25フィート(7.6メートル)以上の船舶を持っていること
の3つで定義されていました。

要は「自分がお金持ちということをモノで見せびらかしたい人」ということでしょうか。ちなみに調査対象の58%が上記のうちの1つに当てはまりその人達を物質主義、それ以外の42%を堅実主義と分類して分析したそうです。

その結果、物質主義と言われるCEOがいるところでは下記のような状況がありました。

・統制環境が緩み、不正と誤謬による虚偽報告の両方が多くなった
・従業員がインサイダー取引の機会を積極的に利用していた(リターンも多く得ていた)
・CSR格付け企業からの評価が低かった

この結果から、「自分の権力をモノで見せびらかしたい人はCEOに適さない」と結論づけることはさすがに難しいところですが、トップの不祥事に対してガバナンスの強化などを実行してきた米国でこのような研究が行われているというのは大変面白いと思いました。この調査自体も倫理的にどうなのだろうとも思うのですが、まだまだ調査研究は継続されるそうです。

論文は、ハーバードビジネスレビュー(2022年11月号)の「経営者にふさわしくない人材の見極め方」(アイーシャ・デイ)になります。ご興味のある方は原文をご覧ください。

3.日本における後継者の選び方

日本企業ではつい最近まで次期トップを選ぶのはトップの専売特許でした。社長のお気に入りが選ばれることも多く、「自分の器を超えるリスクがある人間は外してしまう」(「会社は頭から腐る」(冨山和彦著))という事態も起こり得ました。

適切なトップを選ぶことはガバナンスの肝です。これについて、ガバナンス・コード補充原則4-10において「独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、(中略)取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置することにより、指名や報酬などの特に重要な事項に関する検討」するとしています。

この補充原則に対応して指名委員会の設置会社は増加し、2022年7月14日時点ではプライム市場に上場する企業の83.6%(2022年7月14日時点)が法定・任意の指名委員会を設けています。また指名委員会の構成員の過半数が社外取締役とする会社が約9割となり、委員会の独立性の確保についても進捗が進みました。(東京証券取引所 ガバナンス・コードへの対応状況より)

次期トップを現トップが胸の内に秘めて突然発表をするのではなく、社外役員も含めて議論をして選ぶ形は整ってきたようです。今後は委員会が形式だけに留まることなく、実効性の高い議論ができるかどうかが大きな課題になるものと思われます。

この論文のように私的な違反行為や豪邸に住んでいるかといったことを調べるまではいかなくても、少なくとも「次期トップは倫理的であるかどうか」は突然トップを失わないための重要な要素であるといえるでしょう。

文:辻さちえ(公認会計士・公認不正検査士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー( vol.162 2022.11.2)より転載

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