YCCとその上限設定には2つの役割(効果)があると考えられる。1つは粘り強く金融緩和を継続することで、賃金の上昇を伴う形での2%のインフレ目標を達成すること。もう1つは、先行きの不確実性が高まった際に、リスクプレミアムが増大する中での長期金利の上昇を防ぐバックストップとしての役割だ。日銀の4月の決定会合後の声明文で明らかなのは前者だが、筆者は今回の米銀の破綻が後者の役割の潜在的な重要性を高め、YCC修正のハードルが高まったと評価している。
日銀は4月21日に公表した金融システムレポートで、今年3月の米銀破綻をきっかけに米欧の金融部門を巡る不確実性が高まった中でも、「わが国の金融システムは健全かつ頑健」であるが「テールリスクへの警戒は引き続き重要」で、金融システムの停滞・過熱両方向のリスクを点検しつつ、「潜在的な脆弱性に的確に対処する必要」を述べている。
筆者は、YCCには金融市場のリスクプレミアムが高まった際の「悪い長期金利上昇」に対するバックストップとして、潜在的な役割があると評価している。国内の物価上昇が賃金の上昇を伴う「良い金利上昇」の際のYCCの廃止は否定しないものの、内外経済および先行きの不透明性が高い中でのYCCのサプライズを伴う廃止の可能性は低いと見込んでいる。
一般的には信用不安の場合には質への逃避により、国債金利が低下する一方で、格付けの低い企業の社債金利は上昇する傾向が見られる。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大の初期のように、米ドル現金の調達需要が急速に高まり、国債金利が上昇するケースもある。また、自己資本比率の分母のリスク資産を計算する際、国債のリスクはゼロとみなされるため、SVBが「健全」に見えていた背景もあり、もし今後こうした規制上の取り扱いが議論になれば、国債金利への一時的な影響が見られる可能性もある。YCC投入の当初の目的とは異なるが、こうした際の「悪い金利上昇」を止める、あるいは事前に抑制する効果が期待される。