SDGs重視度の男女差と男女間の賃金格差

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駒澤大学で教鞭をふるう青木茂樹教授は、毎年開催されている「サステナブル・ブランド国際会議」のアカデミックプロデューサーとしても活躍しておられます。青木教授が監修する、生活者のSDGsに対する企業ブランドの調査である「Japan Sustainable Brands Index」の分析結果と日本企業への示唆についてお話しいただきました。

青木 茂樹氏

駒澤大学
経営学部 市場戦略学科教授

専門領域はマーケティング、地域活性化、SNSなどにおけるパブリシティ構築。著書に『コンテクストデザイン戦略:―価値発現のための理論と実践―』(芙蓉書房出版、2012年)、『戦略的マーケティングの構図―マーケティング研究のおける現代的諸問題』(同文館出版、2014年)ほか。地域活性化の一環としてNPOやまなしサイクルプロジェクト理事長も務める。  

サステナブル・ブランド調査で明らかになったSDGs認知度の高まり

サステナビリティ領域のグローバルリーダーが集うコミュニティイベントとして、2006年にアメリカで初めて開催された「サステナブル・ブランド国際会議」。現在は規模が拡大し、12カ国(2020年度)で1.3万人が参加する一大イベントとなっています。

日本では2017年3月に初めて開催され、2022年2月には「第6回サステナブル・ブランド国際会議2022横浜(以下、SB'22)」が行われました。SB'22でテーマとなったのは、地球や社会をより健全でレジリエントにするカギとなる「REGENERATION(再生)」で、サステナビリティに積極的に取り組み、そしてサステナブル・ブランドの構築を目指す多くの企業や団体が参加し、互いが豊かになる環境や社会、経済をどのように作り出すのかについて議論が行われました。

このSB'22では、生活者のSDGsに対する企業ブランドの調査である「Japan Sustainable Brands Index(以下、JSBI)」の2回目の調査結果も発表されました。

――各企業のサステナビリティに関連する取り組みについて消費者の認知・評価を調査することを目的とする本調査は、CSR調査やブランド調査と異なり、SDGsやサステナビリティ活動に対して関心の高い消費者の視点を重視しています。各企業のサステナビリティ活動に対する消費者の認識が、購買や推奨などといった実際の行動にどのように影響を及ぼしているのかを分析されていますが、今回の調査ではどのような傾向が見られましたか。

今回の調査から日本におけるSDGs認知度を見てみると、2018年1月時点ではわずか9.3%にとどまっていた認知度が、最新の2021年12月の調査では84.2%と大幅に上昇する結果となりました。

図表1:SDGs認知度の推移
出所:サステナブル・ブランドジャパン、JSBI 2021 Report (速報版)よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

昨今のESG投資の浸透によって資本市場では既に企業のサステナビリティへの取り組みや情報開示が進んでいますが、今回のJSBI調査結果からわかるように、消費者レベルでもSDGs認知度が年々高まっています。企業の経営陣は、サステナビリティへの取り組みをさらに次の段階に進めるべき時が来ているといえるのではないでしょうか。

SDGs重要度の性別による違い:ソーシャル項目に男女差あり

SDGsの17項目ごとの重視度の違いを男女別で見ると、「1.貧困」、「5.ジェンダー」と「10.不平等是正」といったソーシャル関連の項目で顕著な差が見られました。社会的格差の問題では男女の意識の差が相対的に大きいことを示しています。世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」を見ると、日本の男女格差は先進国中最低レベル、つまり格差が極めて大きい状況であり、順位は156カ国中120位でしたが、その実感はいかがでしょうか。男性から見るとさほど不平等ではないと思っていることが、女性からは大変気になることが実は多いのだと思います。

図表2:SDGs重要度(性別による意識の違い)
注:重要度のポイントは1(まったく重要でない)~6(非常に重要)の6段階
出所:サステナブル・ブランドジャパン、JSBI 2021 Report (速報版)よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

アンケート調査結果は主観的ではあるものの、全体的に女性の方がSDGsを重視していることも注目すべきポイントです。

しかしながら、「7.エネルギー」や「8.経済成長と雇用」、「9.インフラとイノベーション」では男女差が大きくないことから、サステナビリティと経済成長の両立の観点は、性別に関係なく重視されていることがわかります。

イコール・ペイ・デイ(Equal Pay Day)に見る男女賃金格差と労働生産性の関係

――ソーシャル項目に対する意識には男女差があるとのことですが、特にどのような社会課題に注目されていますか。

上述の通り、SDGsの項目で女性が重視している「5.ジェンダー」の格差解消へ向けた取り組みは、日本企業が積極的に取り組まなければならない課題の1つであるといえるでしょう。

日本の男女格差で特に無視できないものとして上げられるのが収入で、2020年にフルタイムで働いた場合における日本の労働者の所定内給与は、男性の338,000円に対して女性は251,800円にとどまっています。

男女がフルタイムで働いたとき、男性が1年間働いて得た賃金を得るために、女性が余分に働かなければならない日数を「イコール・ペイ・デイ(Equal Pay Day)」といいます。先進国でもっともイコール・ペイ・デイが短いのはベルギーとイタリアの6日です。

一方、日本のイコール・ペイ・デイは126日であり、女性が男性と同じ賃金を得るために、126日間追加して働かなくてはならないことを表しています。これは、完全週休二日制の年間休日日数とほぼ同じ日数になります。依然として男女で賃金に大きな開きがあることがわかります。

もう1つ注目したいデータが「時間当たりの労働生産性」です。イコール・ペイ・デイを重ね合わせて見ると、賃金格差が小さい国ほど時間当たりの労働生産性が高く、逆に賃金格差が大きい国は生産性も低いという結果になりました。そもそも日本は以前から労働生産性の低さが課題となっていましたが、これを高めるうえでは男女間の賃金格差を解消することも重要だということになります。

図表3:男女の賃金格差(2019年)と労働生産性の関係(2020年)
出所:Eurostat、2019・National Committee on Pay Equity、2022・OECD、Labor Force Statistics、2020・厚生労働省、賃金構造基本統計調査よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

上表の散布図には右下がりの近似曲線が描かれていることから、男女賃金格差は労働生産性の低さと関連があるといえます。ダイバーシティは単なる社会的な課題ではなく、経済性とも関連するのです。アメリカが労働生産性を伸ばしたのは、それまでの白人中心の会社組織ではなく、女性や有色人種の優秀な労働者を登用させたことにあったといわれます。日本を省みたときに、同じような構造にはなっていないでしょうか。

サステナビリティ、そしてSDGsの達成に向けた取り組みを企業として進めるのであれば、自社の男女賃金格差にもしっかりと目を向け、その是正に向けた取り組みを進めていくべきではないでしょうか。

後編に続く>>

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー

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