毎年8月16日に執り行われる京都五山の送り火は、盂蘭盆会(うらぼんえ)、すなわち、お盆の行事としての性格を有する。習俗的には死者の霊をあの世にお送りするという意味合いを持っているようだが、実は、法務省でも毎年「幽霊会社」を整理するという行事が執り行われている。
今回は、幽霊会社、ペーパーカンパニー、休眠会社、ダミー会社、ゾンビ企業など類似の用語の違いを確認するとともに、それらを取り巻く制度について紹介したい。
「幽霊会社」という言葉には明確な定義は存在しないが、一般には活動実態のない会社をそのように呼んでいる。広い意味では、法人登記すらされていない見せかけだけの会社も含まれる。一方で、「ペーパーカンパニー」という場合には、法人登記はされているものの、実質的な事業は営んでおらず、租税回避などを含む何か良からぬ目的のために利用されている会社という含みがある。
これに対して、「休眠会社」には明確な定義が存在する。会社法第472条には「株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から十二年を経過したもの」という文言が見られる。つまり、最後に登記をした日から12年経過したら「休眠会社」というように、登記を基準にして判定されていることがわかる。同様に、「休眠一般社団法人」や「休眠一般財団法人」という用語も別途定められている。
そういう意味では、「幽霊会社」の意味合いがもっとも広く、その中に「休眠会社」なども含まれていると考えられそうだ。なお、「ダミー会社」という言葉もあるが、こちらは何かの隠れ蓑(みの)に利用されているという含意があり、事業自体は営まれていることが想定されるので、「幽霊会社」とは少し毛色が違うかもしれない。
休眠会社が存続していると、悪用されるおそれもあるため、法務省では12年以上登記がされていない株式会社などに対して「みなし解散」という作業を行っている。法務大臣による公告の後、対象会社には登記所から通知が送付され、新たな登記や「まだ事業を廃止していない」旨の届出をしない場合は、登記官が職権で解散の登記をすることになる。
休眠会社の定義が12年を基準にしている理由は、会社法で役員の任期が最大10年と定められており、少なくとも10年に1回は役員変更登記が必要となるからだ。役員の任期が最大2年であった旧商法では、休眠会社の定義も5年を基準としていた。法務省では1974年から2002年までおよそ5年に一度はみなし解散の手続を実施していたが、2006年に現行の会社法が施行されたことに伴い、2015年から整理作業を再開した形となる。また、2008年に登記の電子化が完了したこともあり、再開後はみなし解散の手続を毎年実施することとなった。直近では2016年12月14日付でみなし解散の手続が行われている。
なお、休眠会社の定義では「株式会社」が対象となっており、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)や有限会社は含まれていない。つまり、持分会社や有限会社はみなし解散の対象とならない。これは、持分会社の役員には任期がないため登記上で休眠の判定ができないことによるものだ。有限会社については、会社法施行後は「特例有限会社」に該当し、「有限会社」という商号を使用するものの、法的には株式会社と同様の位置づけとなっている。ただし、一部の事項については有限会社の取扱いが存続し、役員の任期はないという状態が続いている。
以前は休眠会社の売買もよく行われており、売買を仲介するブローカーのような業者もいた。かつては、株式会社については1,000万円、有限会社については300万円という最低資本金制度が存在していたため、それらの資金を用意することなく、法人を持つことができることには一定のメリットがあった。
しかし、2003年に中小企業挑戦支援法、新事業創出促進法などの特別法で「確認会社」(いわゆる1円会社)の設立が認められ、資本金1円で株式会社および有限会社が設立可能となったほか、2006年からは会社法施行により最低資本金制度自体が廃止された。
こうした経緯もあり、現在では休眠会社を売買することのメリットはあまりないが、たとえば、すでに何らかの許認可を持っていたり、特定企業との取引口座を持っていたりする場合には休眠会社に対する需要があるかもしれない。
「幽霊会社」とは少し内容は異なるが、「ゾンビ企業」という言葉もある。「ゾンビ企業」は、一般的に、経営が実質的に破綻しているのに金融機関などの支援を受けながら存続している会社を指す。特に公的資金などが投入されている場合には社会悪と批判されることもある。
「ゾンビ企業」と化した上場企業が裏口上場に利用されると、より厄介な問題が生じる。裏口上場とは、日本取引所グループHPの文言を借りると「非上場会社が上場会社と合併等を行うことによって、新規上場審査を免れて実質的に上場を果たす」ことを意味する。
このような裏口上場を防止するため、日本取引所では「合併等による実質的存続性喪失に係る上場廃止基準」(東証外部リンクへ)というルールが定められている。合併などが行われた時点で上場廃止にしてしまうと、健全な企業再編を阻害するおそれがあるため、一定期間の猶予を設けた上で、新規上場審査基準に準じた基準に適合した場合には上場の継続を認めるというものだ。
猶予期間内に新規上場審査基準に準じた基準に適合しないと監理銘柄に指定される。ただし、猶予期間終了後も最初に有価証券報告書を提出した日から8日目までは審査申請を行うことができる。この「復活」の期間を経過した場合には上場廃止が決定し、墓場送りとなってしまうのだ。
文:M&A Online編集部