ホテル・オフィス賃貸事業のユニゾホールディングス<3258>が市場の注目を集めています。事の発端は7月10日に同社の筆頭株主(4.79%)であったエイチ・アイ・エス(HIS)<9603>が敵対的TOB(株式公開買い付け)を開始したことでした。
HISによる提示価格は1株3100円で、公表前の株価は前日9日終値1990円、直近3か月平均1861円、直近6か月平均2002円と2000円前後のレンジで推移していたため、市場株価に対して約56%(対6か月平均)~66%(対3か月平均)のプレミアムであり、近時のバイアウトTOBのプレミアムとしてはむしろ高めのプレミアムといえる水準です。
ところが、市場はこれを「それまで過度に安く放置されていた同社の株価が適正株価に修正されるチャンス」ととらえた模様で、公表の翌週7月16日にはTOB提示価格を超える3500円に達し、以後HISの提示価格を下回ることはありませんでした。
この株価推移を背景に、当初7月23日のプレスリリースでは賛否を留保していたユニゾHDは8月6日に反対の意見を公表し、その理由の一つに提示価格が安すぎるということを主張しています。
株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ
さらに8月16日、ホワイトナイトとしてソフトバンクグループ系投資会社のフォートレスが1株4000円での対抗TOBを開始し、ユニゾが賛成を表明すると、HISはこれに対抗して価格を引き上げることを断念し、8月23日にHISによるTOBは不成立で終了となりました。
フォートレスによるTOBはHISの提示価格を上回るものの、現在の市場株価に対してはディスカウントでの提示であるため、10月17日の期限までに応募がないことが見込まれ、同様に不成立に終わると見込まれています。
そうした中、米大手投資ファンドのブラックストーンが5000円での買収を提案したことから、ユニゾHDはフォートレスに同額へのTOB価格引き上げを打診したものの、回答がないことから、9月27日、賛成を撤回、賛否留保とするリリースを公表しました。
サッポロ合同会社(フォートレス・グループ)による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(保留)の概要
その後、さらに国内系ファンド(非公表)である新たな第三者からも4500円~5000円での買収提案がありましたが、ユニゾHDはブラックストーンの提案についてもも国内系ファンドの提案についても、条件面で折り合わないことを理由に反対を表明しています。
本原稿執筆時点の10/12時点では、以上のような状況となっておりますが、結局のところ市場が納得する買収価格はいくらなのか、ということが今後のユニゾHDの運命を決定すると考えられます。
そこで、ユニゾHDの適正株価と市場の納得する提示株価について考えてみたいと思います。
ユニゾHDの10/11の市場株価は、終値4700円、時価総額1608億3700万円となっています。この株価水準がどの程度適正なのかをまず検討してみたいと思います。
まず、類似会社の株価指標との比較をしてみましょう。
図表1 類似会社との株価比較
PER(株価収益率)は割安とみられるものの、EV/EBITDA倍率(簡易買収倍率)、PBR(株価純資産倍率)は割高となっています。これは、他社に比べて会社予想EPS(1株あたり純利益)の実現可能性が「市場において信頼されていない状況」であると考えられます。
他方、対象会社は事業の大宗が不動産投資事業であることから、貸借対照表に表れない保有不動産の含み益に着目する投資判断の対象とすることが一般的でもあります。
保有不動産の含み益については、外部から推計することは困難ですが、ユニゾHDの中期経営計画説明資料の中で、2019/3/31現在の含み益が2224億円と公表されています。
当該情報は監査を経ていないので信頼性はそれほど高いものではないと考えられるものの、他にそれ以上の信頼性のある予測値も見受けられないため、これに準拠すると、法人実効税率30.9%(対象会社の有価証券報告書における税効果注記に記載された税率を使用)で含み益の税引後の純額は1536億7800万円となります。
これを2019/6/30現在の簿価純資産1090億6200万円に加算すると、実態純資産相当額は2627億4000万円となります。
図表2 不動案含み益に着目した実態純資産価値
10/11現在の時価総額1608億3700万円は上記実態純資産2627億4000万円に対しPBR約0.6倍の水準ですから、不動産含み益に着目すれば市場株価はまだまだ「割安である」と評価できるでしょう。仮に、実態純資産が適正時価総額であるとすれば、一株当たり7678円となります。
他方で、これらの含み益は不動産を売却して現金化して初めて確定されるものであり、不動産として保有されている限りは価値変動リスクにさらされています。足元の不動産市況に天井感が強いことなどからすると、このリスクをある程度勘案することが必要と考えられます。
一般的にはこのようなリスクは非流動性ディスカウントとして考慮され、厳密な算定式については投資家ごとにまちまちであるものの、平均的には30%程度で算定されることが多いです。上記の実態純資産に対して30%の非流動性ディスカウントを考慮した場合、適正株価は5374円となります。
この水準は、足元の株価に対してプレミアム14.4%の水準ですので、バイアウトとしては少々物足りないかもしれませんが、不動産含み益の縮小リスクを加味すれば一般投資家に対しても十分魅力的な水準であり、かつ買い手にとっても一定の投資妙味が残る水準ではないかと考えられます。
であるとすれば、今の株価4700円で今から買っても妙味のある投資ではないでしょうか。
文:巽 震二(フリーランス・マーケットアナリスト)