【夢真ホールディングス】敵対的TOBの先駆者、夢破れてM&Aは堅実型に

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建設会技術者派遣を主力とする(写真はイメージ)

 2005年、買収防衛策導入企業への初の敵対的TOB株式公開買い付け)で世間を騒がした会社がある。建設技術者派遣事業を主力とする夢真ホールディングス<2362>だ。

 自社で証券会社をつくるほどM&Aに力を注いだが、TOBはあえなく失敗。経営不振の建設会社買収で財務内容も傷つき、一転して事業の整理を迫られることになる。その後、夢真はM&A戦略を堅実路線に修正し、業績回復を果たす。成功と挫折が混在する夢真ホールディングスのM&Aの軌跡を追う。

【企業概要】海外設計事務所に施工図を発注

 夢真ホールディングスは建設技術者派遣事業を主力とするジャスダック上場企業である。2015年9月期の売上高は211億円。1980年に有限会社佐藤建築設計事務所として施工図の作図を目的として設立され、1980年代から海外設計事務所に施工図の発注を行っていた。1990年に株式会社化し、商号も株式会社夢真に変更。現在の本業である建築技術者派遣事業を開始したのは翌1991年だ。2003年に大阪証券取引所ヘラクレス市場(現ジャスダック)に上場し、2005年に持株会社体制に移行した。

 夢真ホールディングスの主業は前述通り建築技術者の派遣であるが、グループでは現在この他にエンジニア派遣、人材紹介事業と計三つのセグメントを擁する。これらは夢真ホールディングスが得意分野且つ高付加価値のビジネスとして掲げる事業であるが、このポートフォリオに辿り着いたのはつい最近のことである。過去には真逆の方針で買収によって事業の多角化を行い、その後事業の選択と集中を重ねて今に至る。

【経営陣】創業者は会長の佐藤真吾氏、長男の大央氏が昨年社長に

 創業者の佐藤真吾氏は1980年、夢真の前身となる有限会社佐藤建築設計事務所を設立して以来、社長を務めてきた。2005年4月に夢真ホールディングスに社名変更したのを機に同年8月から会長兼社長に就任した。長男の佐藤大央氏は野村不動産を経て2010年に夢真ホールディングスに入社。2015年12月に社長に昇格した。これに伴い、真吾氏は代表権を伴う会長職に専念することになった。年齢は真吾氏が74歳、大央氏が33歳。

【株主構成】創業オーナー、42%超を保有

夢真ホールディングスの上位株主

氏名又は名称 所有株式数(千株) 持株比率(%)
佐藤 眞吾 22,385 30.01
有限会社佐藤総合企画 7,344 9.84
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 2,549 3.41
佐藤 淑子 2,228 2.98
NORTHERN TRUST CO. 1,363 1.82
BANQUE PICTET AND CIE SA 900 1.2
深井 英樹 880 1.18
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 676 0.9
資産管理サービス信託銀行 650 0.87
THE BANK OF NEW YORK 133522 543 0.72
39,520 52.93

015年9月末時点、有価証券報告書に基づき作成

 筆頭株主はホールディングス化の前後を合わせて、創業以来一貫して創業オーナーの佐藤真吾氏である。上場直後の2003年時点で佐藤氏が59.75%、徐々に割合を減らして2015年は30.01%に至るが、親族及び親族所有の会社等を合わせると42.83%を保有しており、オーナー企業であると言うことが出来る。

【M&A戦略】朝令暮改もいとわぬ迅速な軌道修正

夢真ホールディングスの沿革と主なM&A

年月 内容
2004年11月 持株会社体制に移行。
2005年5月 環境プラントの運転維持管理事業を行う朝日エンジニアリング(売上高1,755百万円)の株式100%を900百万円で買収。
2005年7月 建設コンサルタント業の日本技術開発<9626>(売上高8,650百万円)にTOBを仕掛ける。株式の46.98%をおよそ1,920百万円で取得を目指すが、後に失敗。
2005年10月 総合営業支援事業を手掛けるブレイントラスト(売上高1,062百万円)を簡易株式交換(1:1324)により完全子会社化。
2005年11月 空調・給排水・電気設備工事業等を手掛ける丸紅設備(売上高17,399百万円)の株式70.37%を買収。買収金額は非公開。
2005年12月 債務超過の建設コンサルタント業の東亜建設技術(売上高1,179百万円)の株式70.5%を買収。東亜建設技術は西日本シティ銀行に金融支援を要請。
2006年1月 子会社の夢真総合設備(旧丸紅設備)、近畿工業、夢真ファシリティを夢真総合設備を存続会社として合併合併比率は1:17.15:4.17。
2006年6月 エイトコンサルタントのTOBに対し、日本技術開発の株式22.22%を応募。
2006年7月 勝村建設(新設分割前売上高41,000百万円)の株式100パーセントを譲受。譲渡金額は当初71億100万円から、13億100万円の範囲で減額を検討。
2006年7月 マンション販売に強みをもつスピリット(売上高4,529百万円)の株式68.75%を6億5千万円で買収。
2006年9月 東亜建設技術(売上高1,234百万円)の株式100%を建設コンサルタントのシーエスアンドティーに売却。売却益は2.8億円とされる。
2006年11月 前出のスピリットとの株式譲渡契約を解除。
2007年1月 高級建売・注文住宅の販売を手掛けるデントハウスの株式の33.3%を1億1,268万円で買収、持分法適用会社化。
2007年2月 前出のスピリットが新設分割により設立した夢真不動産販売の株式100%を6億5百万円で買収、完全子会社化。
2007年2月 子会社のアルシオンと夢真不動産販売を合併。アルシオンが取得する宅地建物取引業の免許を引き継ぐことを目的とし、アルシオンを存続会社とし、社名は夢真不動産販売とする。
2007年2月 夢真総合設備(売上高9,555百万円)の保有全株式74.59%を事業系ファンドへ譲渡。譲渡金額は非公開。
2007年2月 子会社の勝村建設と夢真コーポレーションを合併。勝村建設を存続会社とする。
2007年2月 子会社で事業が類似する夢真コミュニケーションズと夢真テクノスタッフサービスを合併。夢真コミュニケーションズを存続会社とする。
2007年3月 勝村建設(売上高2,353百万円)の全株式100%を事業系ファンドへ譲渡。譲渡金額は非公開。
2007年3月 財務内容の厳しさから、デントハウスの保有全株式33.3%を115百万円でデントハウス社長へ譲渡。(2009年8月時点で決済未了、その後のリリースは不明)
2007年5月 夢真証券(売上高144百万円)の株式100%をハーベストフューチャーズへ300百万円で譲渡。
2007年5月 ベンチャーキャピタル事業を手掛ける夢真キャピタル(売上高53百万円)の株式100%を個人へ譲渡。譲渡金額は非公開。
2007年5月 住宅検査夢真(売上高56百万円)の保有全株式98.8%を個人へ譲渡。譲渡金額は非公開。
2007年5月 夢真不動産販売(売上高非公開、赤字)の株式100%を個人へ譲渡。譲渡金額は非公開。
2007年5月 子会社の夢真を吸収合併
2007年8月 不動産業を手掛ける夢真アーバンフロンティア(売上高292百万円)の株式100%を478百万円でタマホームに譲渡。
2007年9月 環境プラント関連の事業を手掛ける夢真エンジニアリング(売上高602百万円)の株式100%を2,290百万円でジャフコに譲渡。
2007年11月 決済未了により前出の夢真キャピタルの個人への株式譲渡契約を解除。
2008年2月 夢真キャピタル(直近売上高40百万円)の株式100%をコンサルティングも手掛ける持株会社であるBBHに45百万円で譲渡。
2009年8月 破産手続き申立てを行ったアイゼックス・アルファより技術者派遣事業の一部を買収。買収金額は5百万円から9百万円の範囲内で、同年9月18日時点で承継された派遣契約数により確定。
2009年8月 保育園事業を目的として子会社我喜大笑を設立。
2009年11月 マーケティング事業を手掛け、将来的には医師及び看護師を対象とした研修事業等を視野に入れるアークウィズ(売上高62百万円)の株式を第三者割当増資引受けにより66.7%を買収。引受総額は20百万円。
2010年6月 医療及び医療施設の経営に関するコンサルティングを目的に子会社の夢真メディカルサポートを設立。
2011年1月 デジタルサイネージ事業を手掛けるユニテックソフト(売上高非公開)の株式の90%を27百万円で買収。
2011年5月 TOBにより、技術者派遣を行うフルキャストテクノロジー(売上高4,290百万円)の株式の83.56%を1,707百万円で買収。
2014年7月 建築総合工事請負業を手掛け、再生手続開始申立を行っていた岩本組の新設分割設立会社(建設事業部分)の株式100%を買収。売上高、買収金額は非公開。
2015年6月 人材紹介、外国人技術者の活用を目的に子会社の夢エージェントを設立。
2015年6月 子育て支援事業及び介護事業を運営する我喜大笑(売上高210百万円)と総合建設事業の岩本組(新設分割設立会社、売上高不明)の株式100%を投資業を行う佐藤総合企画に譲渡。譲渡金額は各15百万円、70百万円。
2015年7月 子会社の夢エージェントにて、海外人材の採用基盤を有する採用支援事業者のBuzzBoxよりヒューマンキャピタル事業(技術者に特化した採用支援・海外人材の活用支援/売上高64百万円)を380百万円で買収。
2016年5月 人材の教育・育成を目的として夢エデュケーションを設立。
2016年6月 ソフィアメディクスが新設分割し、Fintechを駆使したトレードサービスを運営するソーシャルフィンテック(該当事業売上高171百万円)の株式80%を352百万円で買収。子会社の夢テクノロジーにて20%を88百万円で買収。
2016年7月 子会社の夢エデュケーションにより、建設業向けのシステム開発を行うギャラクシー(売上高149百万円)の株式の56.2%を買収。買収金額非公開。
2016年8月 子会社の夢エデュケーションにより、一般財団法人建築技術情報センターから資格講座事業(売上高177百万円)を買収。買収金額非公開。
2016年10月 スポーツ人材事業を目的にエクスドリーム・スポーツを設立。
2016年11月 公開買付により、IT関連のサポートサービスを行う日本サード・パーティ(売上高47億円)の株式13.09%を40億円で買収。

 買収と譲渡を重ねた同社のM&A遍歴を見て行こう。

 上場後、夢真ホールディングスは顧客のニーズの多様化に対応すること、グループ内での健全な競争を行うことを目的として持株会社体制に移行する。同時に掲げたのが周辺事業への積極的な進出であり、その一環として手始めに環境プラントの維持管理等を行う朝日エンジニアリングを買収した。

 その次に大胆にも白羽の矢を立てたのは建設コンサルティングを行う日本技術開発である。当時を知る人には、上場間もない夢真ホールディングスを一躍有名にしたTOBとして印象深い一件だ。

 民間事業中心の夢真ホールディングスに対し、日本技術開発は公共事業が中心であり、事業領域の補完として申し分ないというのがTOBの目的である。しかし、多額の現預金を持ちながらも株価に割安感があり、かねてより買収を警戒していた日本技術開発は事前警告型の買収防衛策を導入。これは事前に経営計画を提出しない企業からのTOBに対しては最大で5倍までの株式分割を行うことが可能というものであり、当時の松下電器産業等も同様の防衛策を導入していたことや、初の買収防衛策導入企業への敵対的TOBの事例であること等から世間の注目が高まった。

 夢真ホールディングスは買収防衛策を踏まえた上でTOBを公表。日本技術開発の株式分割実施後、夢真側は東京地裁に差し止め請求を行うも却下され、さらにはホワイトナイトとして現れたエイトコンサルタントの友好的TOBに妨げられてTOBは失敗に終わる。当時の夢真ホールディングスの社長が引責辞任をする始末となった。

 一連のTOB合戦は最終的には翌年6月、エイトコンサルタントのTOBに夢真ホールディングスが応募する形で幕を引くのだが、この間にも夢真ホールディングスは丸紅設備及び東亜建設技術の2社を買収。東亜建設技術は公共工事を主体としていたが、市町村合併等による公共事業の縮小に対応し切れず、経営難の状態にあった。その後日本技術開発の買収は頓挫したものの、建設業の最上流である建設コンサルタント領域に進出するという悲願を果たす。

経営難の総合建設会社を買収 

 この時期、夢真ホールディングスは『ストック&フロー型M&A企業』を標榜し、M&Aを行う為に自社で証券会社まで設立している。

 続いての買収は2006年7月の勝村建設だ。勝村建設は元東証1部上場の総合建設業であり、直近の売上高は41,063百万円。しかしながら東京都が発注した水道工事の入札を巡って同社社員が逮捕・起訴され、地方自治体の指名停止処分によって経営難に陥っていた。2005年9月に民事再生手続きの申立を行った直後から夢真ホールディングスは再生支援を表明しており、このほど新設分割により設立された、いわば新・勝村建設を譲受する形だ。

 これにより夢真ホールディングスは施工部門をも傘下に収め、ワンストップで建設業界に携わることができるわけだが、その対価は当初の予定で71億円。最終契約時点で減額の余地を持たせるも、譲渡側からは満額での債務存在確認請求の訴訟を起こされ、和解を経て65億円に落ち着くが、それでも安くはない金額だ。

 直後に、共に不動産販売のスピリット及びデントハウスの買収を行い、建設業の更に先へと事業の展開を試みる。結果から言うと、スピリットに関しては一度は契約を解除、紆余曲折して社名も変えて買収にこぎつけるが、デントハウスに関しては買収後に財務内容の悪さが明るみに出て追加の第三者割当増資は断念、売主に買い戻させるというてん末となる。

 ただし、円満に買収が成立していたとしても、この後グループ企業として共に歩んだかどうかは怪しい。これまでの買収がウソのように、この直後から夢真ホールディングスは矢継ぎ早な子会社の売却に転じる為だ。

拡大路線一転、矢継ぎ早に売却

 まず手始めに2006年9月に売却したのは、2005年12月に買収し再生を進めていた東亜建設技術である。保有期間は一年に満たず、従業員の立場を思うといたたまれないが売却先が事業ノウハウのある同業者であることが救いだろうか。次いで2007年2月には旧丸紅設備等が合併した夢真総合設備。事務所の統合や人員整理等により今期は10億円近い利益が出ると見込まれていたが、夢真ホールディングスは売却を断行した。譲渡先はファンドであり、譲渡金額は非公開ながらも25億から30億の売却益が出たとみられる。この時期夢真ホールディングスの会長は売上高よりも売却による利益を優先すると語る。

 その後も勝村建設、夢真証券、夢真キャピタル等と売却が続く。とりわけ夢真キャピタルに関しては、売却額はさほどではなく、多額の利益は見込めないものの、折しも新会社法の施行により連結基準の変更があった。一度売却がご破算になっても更に二度目の相手を探し売却を急いだ背景には、子会社の定義が形式基準から実質基準に変わったことで、業績の振るわない投資先が連結対象に含まれかねないこともあったとされる。

買収額は小粒化、本業強化型に

 手痛い失敗を踏まえてか、2009年以降の夢真ホールディングスのM&Aは憑き物が落ちたかのように堅実だ。2009年のアイゼックス・アルファの事業譲受やアークウィズの第三者割当増資引き受け、2011年1月のユニテックソフトの子会社化共に買収価額はこれまでに比べて桁が一つか二つ少ない。2011年5月には技術者派遣を行うフルキャストテクノロジーの株式の83.56%を1,707百万円で取得しているが、この頃夢真ホールディングスは従前通りの技術者派遣と、新たに設立した我喜大笑での保育園運営事業を主業とうたう。ノウハウもある本業を強化する形の買収であるとすれば、高すぎる買い物ではないだろう。

 そうかと思えば2014年7月に建築工事請負業を手掛ける岩本組を買収、翌2015年6月には売却を済ませる。単に投機的な売買かと思いきや、事業の柱と掲げたはずの保育事業の我喜大笑も共に売却しているのだが、譲渡先が代表取締役社長の佐藤大央氏が代表を兼務する佐藤総合企画である点に留意が必要だ。当該事業を成長分野として見ているものの、公私を分ける形で、あくまで夢真ホールディングスとしては手を引くといった印象だ。

 2016年に入って夢真ホールディングスはシステム開発系を2社、教育関連事業を一つ買収している。2016年10月現在の夢真ホールディングスの事業ポートフォリオは冒頭の通り、建築技術者派遣とエンジニア派遣、人材紹介事業の三つである。取得比率は低いながらも直近の日本サードパーティーへのTOBもエンジニア派遣に付帯する事業の強化の一環である。

 いずれにしても、オーナー企業ならではと言うべきか、企業集団として事業の取捨選択の決定が迅速である。人により朝令暮改と見るか、機動力があると見るかは分かれるところかもしれないが、過去にM&Aでの失敗をM&Aで補うことが出来たのはオーナー主導のこの敏しょうさゆえであるのは間違いない。

 前述のポートフォリオ自体が今後変容を遂げる可能性もある。自社や業界の状況を鑑みて柔軟に経営方針を変更することはM&Aにも肝要だ。M&Aで業績の伸長を目指す場合、とかく買う・買わないの判断にとらわれがちだが、売るという選択肢を視野に入れる場合、M&Aでの失敗のリスクは大きく低減できると言える。

【財務分析】脱ジェットコースター経営、自己資本比率60%超に上昇

 M&Aの成果を振り返りたい。2005年から2006年にかけての売上高の伸びは目覚ましい。2005年9月期の売上が6,499百万円であるのに対し、2006年9月期は41,554百万円と約6倍だ。もっとも、新設分割設立会社とはいえ民事再生前には41,000百万円を超える売上を誇った勝村建設を譲り受けているのだから、売上の伸長は至極当たり前のことである。

 一方で、営業利益は伸び悩み、2005年9月期から2006年9月期はわずか500百万円足らず増加したに過ぎない。増加と言えば聞こえは良いが、これを売上高営業利益率にしてみると実に5.4%から2.0%へと半減しており、楽観は出来ない状況がよくわかる。ちなみに売上高経常利益率で見るならば、11%から3%へと下げ幅は尚深刻だ。


 さらに、毀損したのは収益性のみではない。夢真ホールディングスはブレイントラスト以外全ての買収を現金対価で行っており、これには約200億円を要したとされる。この資金調達は他人資本に依存しており、長短共に借入金が増加。ここに社債も加えてネットデットの推移を見てみたグラフは次の通りだ。当然ながら過少資本を招き、2006年9月期の自己資本比率はわずか3%にまで低下している。こうなるともはや買収した企業を再生する為に必要な資金の調達さえも難しくなり、自社の財務の立て直しが喫緊の課題となる。ここから売却に舵を切ることとなる。

 海外子会社の清算や子会社の吸収合併等、再編を進めて迎えた2009年9月期、夢真ホールディングスの決算書には連結財務諸表がない。関連会社を整理して夢真ホールディングス単体となったこの期の売上高は5,482百万円。M&Aを行う以前に近い水準に減少したが、自己資本比率が44.1%にまで持ち直したこと、営業利益率が13.8%と上場後最高値を記録したこは見過ごせない。買収での失敗を売却によりきれいに清算したと言える。

 その後、2010年9月期を底に業績は回復基調に転じている。2016年9月期の売上高は前期比10%増の232億円。売上高営業利益率は10.5%とフタ桁を回復。自己資本比率は65.7%に上昇した。事業の選択と集中が進み、身の丈にあった買収戦略に切り替えたことが奏功している。

 なお、事業の取捨選択が激しくセグメント情報がよく入れ替わるため、推移を見るのにあまり適さず、今回はセグメント毎の損益は取り上げない。参考として、象徴的な時期のセグメント別売上高の構成を一部掲載する。


【株価】じりじりと値を戻す展開に

 株価は2013年末から2014年にかけて1000円を上回る場面もあったが、その後、600~800円前後のボックス圏の動きとなっている。しかし、足元の株価はじりじりと値を切り上げている。今年に入り、バーチャルリアリティ(VR)関連のゲームやミドルウエアを開発するダズル、仮想通貨ビットコインの決済プラットフォームを運営するBTCボックスと相次ぎ資本業務提携を結んだ。投資家の注目度の高い成長分野への足がかりを築きつつあることが株価の押し上げ要因になっているとみられる。

【まとめ】売る選択肢で失敗リスク低減

 これまで見てきたように夢真ホールディングスは、M&Aの失敗をM&Aで補ってきた歴史と言える。創業オーナーの高い持ち株比率を背景に、迅速な意思決定と事業を大胆に取捨選択する姿勢には他社も参考にすべき点も多い。とりわけ、買収の失敗で一時的に財務が毀損しても、その後の迅速な売却とよって、経営の立て直しにつなげていることは注目に値する。売るという選択肢を視野に入れる場合、M&Aでの失敗のリスクは大きく低減できる。紆余曲折を経て、手堅さを増す夢真ホールディングスが今後どんな買収を仕掛けてくるか、後継ぎの佐藤大央社長の手腕にも注目したい。

この記事は、有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部